第18話 人殺し
クローヴァさんたちを村に返して俺らは帰路につく。
蕪も無事に買えたようだし道中事故もなかった。
賊は出なかったから安心。魔物も初日以降見てない。こんなに平穏な護衛は珍しいみたい。
戦闘があるごとに追加で報酬が出る仕組みなので今回はあまり稼げなかったんだよね。
代わりに豚肉を一キロくらいもらった。帰ったらご馳走だ。
それにしても、ここしばらくは碌に肉を食べていない。干し肉ばかりだ。生の肉は保存が効かないからね。でも俺にはマジックバックがあるからそんな心配は要らなかった。出発前に気付いていたらな。今度の護衛では肉を持っていこう。
「そういやフロレス、お前馬乗れないよな?」
「乗ったことないから分からない。難しいの?」
「まあ人によるな。でも乗れるにこしたことはねえ」
しばらく話のネタとしてオルテは馬の話をしてくれた。
どうやら護衛の仕事も馬で付いていくことがあるみたい。特に今回みたいな他所の領地まで赴くのは馬を使うことがほとんどだとか。
馬で付いていったら帰りが楽なんだって。でも護衛中はおりて歩くこともあるみたい。帰ったら乗ってみようかな。
貸し馬屋に行けば馬や鞍、鎧なんか一式で貸して貰える。値段も銀貨数枚ほどとそんなに高くない。馬によっては銅貨で済むのもいるんだって。
ただ初心者が乗りやすいようなのはそこそこ値が張るみたいなんだよな。銅貨で借りられないのは人気のない暴れん坊なんだとか。まあ、今回の護衛の報酬で銀貨九枚もらったから多少は余裕がある。
「フロレス、よく聞け。ちょっと先の木の影に何かいる。恐らく賊だ」
いきなり声を顰めて話題を変えるオルテ。
「どうするの? 戦う?」
オルテを真似して小声で問いかける。
「そうだな。多分だが襲ってくる。相手は気づかれてないと思っているはずだからな」
「……殺すの?」
イーリスは
自分でもレオンと繋いでいる手が汗ばんでいるのが分かる。握る強さも上がっている。
それがあってかレオンは心配げな表情で見上げてくる。
「別にお前が殺す必要はない。俺がやる。ただ、武器の破壊くらいはしてくれ。自分の身を守ることを最優先しろ」
「つまり……どのみち賊は殺すんだな?」
「ああ。情けをかけるような連中じゃねえ。くるぞ」
いつの間にか賊との距離は五メーターほどになっていた。
「〈
オルテが火の壁を作る。その壁は突如降ってきた魔法の矢を防ぐ。
「へぇ、今ので仕留められると思ったんだがなぁ。気づかれてたのかぁ」
気味の悪い喋り方をする男が出てくる。それに続いて一人二人三人……六人。全員剣を抜いて今にも戦う準備ができているようだ。
「ガキも含めて三人に対し六人とは随分と腰抜けなやつらだなあ? 尻尾巻いて逃げるなら今の内じゃねえの?」
剣を抜きつつ煽るオルテ。多分これは準備のための時間稼ぎ。
俺もレオンを〈
「お前ぇ、珍しいもん持ってんじゃん。こりゃぁ逃げるわけにはいかねぇなぁ。金髪と白色のガキは生捕り、赤いのは殺せっ」
男が声を荒げるのと同時に奴がこちらに向かってくる。
俺の方に来たのは三人。瞬く間に囲まれてしまった。
「お前は殺すつもりないからさ、大人しく付いてきてくれないか? 痛い目には会いたくないだろ?」
「付いてはいけない」
できれば人とは戦いたくないので大人しく付いていってしまいたい。でも駄目だ。
そんなことをしたら金持ちの
どのみち奴らは死ぬ。俺が斬らなくてもオルテが斬る。なら躊躇うことはないんじゃないか? でもやっぱり抵抗がある。
『フロにい、まえっ』
レオンの声が響く。目の前には剣を振り上げた賊が。どうする。剣を受けて斬り落とせば……駄目だ。斬って落とした刃が勢いを保って俺に襲いかかる。
避けるのは? 無理だな。避け切れる自信がない。
じゃあどうする? 奴を斬るか? それは可能だ。だが……。
『だめっ』
肩に触れた刃が袈裟懸けに走る。皮膚を引き裂かれ血が飛び出す。熱い。痛い。
だが傷はそこまで深くない。恐らく生捕りにするためだ。だからといってこれ以上斬られたくはない。痛いからな。
「レオン、とりあえず剣を破壊する。いいか?」
『うん』
構え直し正面の男に突っ込む。縦に構えている剣を根元から水平斬りで斬り落とす。
よし。上手くいった。この調子で……。
「っかぁ」
腹に衝撃が加わる。蹴られたのか。獣ならこの時点で退いてくれるんだが、油断した。
「何舐めたことしてんだよ。この剣高かったんだけどな。どう落とし前つけてくれんの?」
一通り喋った男に殴られる。それに後ろの二人が切り刻んでくる。あくまで殺さない程度の深さなんだが痛いことには変わらない。これ以上は耐えきれない。どの道オルテに殺されるしな。
「レオン、ごめんな」
あまり人の血で
まずは後ろの二人を片付けよう。
「レオン、緊急事態だから全力でいこう」
『うん。がんばる』
「ぐちゃぐちゃうるせえな」
男に突き出された剣に肉を削がれる。だけど気にしない。十を超える切り傷が一つ増えたところで大して問題にならない。
肉を切らせて骨を断つ。
二人まとめて殺すために水平斬りでいこう。刃を寝かせ全力で振る。賊の輪切りが二つ出来上がる。
振り返りもう一人に向けて唐竹。男は見事に真っ二つに割れる。そろそろ疲れてきたな。出血もひどいからか意識が飛びそうだ。
オルテの方をみるとまだ戦闘を続けている。あの気味の悪い話し方をする賊の頭だろうと思われる男だ。残りの二人はもう死んでいる。
「オルテ、伏せろっ」
剣を横にし空を薙ぐ。賊の頭は輪切りとなった。
「お前っ、危ねえな。俺も殺す気か」
「だから伏せろって言ったじゃん」
「間に合わなかったらどうする気だったんだよ」
「オルテなら大じょ……」
視界が一気に真っ黒になる。
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次回は3月25日金曜日午後6時です。
しばらくはシリアスな感じが続き〼。
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