第17話 退屈
「オルテ、どこ行くの?」
「依頼主がいる宿。北側だな」
北側か。行ったことないな。魔の森は東側だし市場は西側だ。
南側は基本的に居住区になっているみたい。北側は宿と領主の館……だったかな。
しばらく歩くと依頼主がいるという宿に着く。建物自体は小さいが敷地は広い。
客の多くが商人や農家らしく馬車を置く場所が必要なんだって。
「すまんが、クローヴァって人を呼んできてくれないか? オルテって奴が来たって言えば分かると思う」
中に入るやいなや受付の人に声をかけるオルテ。
「少々お待ちください」
オルテに声をかけられた受付は階段を上がっていった。
「クローヴァってのが依頼主の名前?」
「ああ、息子のトレフルとクレーってのもいるな」
「それで全員?」
オルテはそうだ、と答える。
三人に対する護衛が二人なのは少ない気もする。まあ、何も分かっていない俺がどうこう言うことじゃないけどな。
五分くらいで男が三人降りてきた。皆んな茶髪で顔立ちも似ている。
「やあ、君がフロレス君かな。オルテから話は聞いてるよ。しばらくよろしくね」
「こちらこそお願いします」
「そんなに硬くならなくてもいい。さて行こうか」
宿から出て少し待っていると馬車が三台出てきた。
早速出発する馬車について歩き出す。急な襲撃なんかにすぐ対応できるように歩いて付いて行かなきゃみたい。でも思ったより馬車はゆっくりで軽い早歩きで付いていける。
ただ、レオンにとっては大分速いみたいだ。小走りになっている。これだと保たないな。今日は一日、歩きっぱなしらしいからな。
「クローヴァさん、レオンだけ乗せてくれない? できればすぐに降りれるところがいいんだけど」
そう声をかけるとレオンを御者台に乗せてくれた。
レオンは少し嫌そうな顔をしていたけど我慢してもらおう。流石に一日中レオンを抱えて早歩きはきつい。いくらこの体になって体力や筋力が上がったといっても限界がある。
アウルム様から貰ったマジックバッグにつっこめたら楽なんだろうけどな。生きている生き物は入れられないみたい。死体は大丈夫だけどね。
その点、レオンは生き物判定らしい。不思議だ。剣の方が本来の姿じゃないのか? まあ判定が曖昧になっているのかもだな。
しばらく進むと北の門に着く。
いつもは東の門、つまりは森の方しか使わないからな。何気に東の門じゃない門に来るのはは初めてだ。
他にも南と西の計四つの門がこの街にはあるみたい。
北の門は東の門よりも幅が広い。多分だけど商人の馬車が通ることが多いからかな。
現に、三台は前に並んでいる。後ろにもちらほらと。
「積荷は何だ?」
列の先頭に着くと兵士の人に止められる。
「ああ、今は空だよ。豚の餌を買いにいくからね。後ろの二台も連れだから」
クローヴァさんが説明している間に他の兵士の人たちが荷台を覗く。
「そこの二人は冒険者だな? ギルドカードを出せ」
言われるままにカードを見せる。北の門の警備は厳しいな。いつもは何もないのに。正直面倒だ。
「おい、フロレス。めんどくせえなとか思ってんだろ?」
おちょくるように笑うオルテ。
「うっ、だって東の門だと何もされないじゃん。なんなら俺、初めてギルドカード使ったかも」
「お前なあ……東以外は全部こんな感じだ。代わりに東は馬車を入れれない。まあ俺らには関係ねえか」
そうこう言っていると検問は終わったらしくいよいよ街を出る。
目の前に草原が広がる。地平線まで一面緑色だ。街道を除いてだが。
踏み固められただけの道はまあまあ凸凹している。だから馬車は大分揺れている。振動が伝わって乗り心地は悪そうだ。
「フロレス、俺は左側を見張っているから、お前は右側を見張れ」
「見張るって言っても……何もなくない?」
何かが隠れられそうな場所はない。前を行く馬車以外に視界の中にない。つまり魔物も賊も見当たらない。
「油断すんなよ。穴掘って隠れる賊なんかもいるからな」
はーい、と軽く返事をする。
それにしても広い草原だ。これなら街を広げるなり畑にするなりすればいいのに。なんだか勿体ない気がする。
三十分もすれば道が森に沿うようになった。
「フロレス、ここら辺から気を引き締めろ。森から魔物が出てくるなんてざらだからな」
「分かった。出てきたら斬っちゃって大丈夫?」
「ああ、だがクローヴァたちと馬車の安全を最優先しろよ。あくまで護衛だからな」
それにしても護衛依頼とは退屈だな。最初のうちは新鮮で楽しかったけど飽きてきた。景色が変わらないからね。新幹線とか高速道路とかと同じだな。
左手には森、右手には草原。ずっと先までそうだ。せめて魔物の一匹くらい出てこないかな。
もしかしたら俺には向いていないのかもしれない。割はいいらしいけどね、護衛依頼。
「フロレス、敵影。狼の魔物の群れだな。向かってきている。こっちに来い」
陽が西に傾き始めるころ、オルテに呼ばれる。ついに魔物が出たらしい。
「レオン、〈
呪文を唱えると、姿を変えたレオンが俺の左手に飛び込んでくる。
「なっ、それはいったい?」
クローヴァさんたちがぽかんとしているが今は気にしない。事前に説明しておけばよかった。
「一旦馬車を止めてくれ」
「分かった」
「よし、〈
オルテが呪文を唱え、俺らと馬車の間に火の壁が建つ。背中が熱い。
「一応、壁ははったけど気をつけろよ。敵個体数は八。多いな」
そう言いながらも笑顔で剣を抜くオルテ。
それに倣い俺も剣を抜く。
「〈
「〈
お互いに臨戦態勢を整える。
今回は雷を纏ってみたした。剣の周りに電光が走ってかっこいい。オルテの火もいいな。今度は火にしてみよう。
「右の四匹は俺がやる。フロレスは残りをやれ」
「いいよ。先に終わったらオルテのも斬っていい?」
「好きにしろ」
「じゃあいくよ、レオン」
もう大分近づいた狼に突っ込む。
まずは先頭にいたやつの首を一太刀。続いて前足を振り下ろしてきたやつの剥き出しの腹を逆袈裟に。
前から向かってくるやつに刃を寝かせて剣を押しつける。剣の表面を走る電光が狼にも広がり奴は倒れる。よし、うまくいった。
最後の一匹、と思って振り返ると紅い三日月があった。それが堕ちるとニカっと笑うオルテが。
「悪い。俺の方が先に終わっちまった」
「俺はいいって言ってないのに」
「まあまあいいじゃんか。ほら、死体は回収するんだろ?」
オルテに急かされ狼の骸をバックに入れる。普通は護衛中に遭遇した魔物の回収はしないみたい。荷物になるからね。
いつのまにか火の壁を消したオルテに行くぞ、と言われ街道行脚は再開する。
また魔物が出てこないかな。
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次回は3月21日月曜日午後6時です。
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