第16話 オルテの誘い

「オルテ、そういえば昨日、何か言ってなかったか?」

夕食を終えたところでオルテに問う。


 今更なのは忘れていたからじゃない。朝からついさっきまで魔の森で狩りをしていたからね。しかも今日はレオンと二人だったからね。オルテと話す機会がなかったんだ。


 いつまでもイーリス達に頼ってられないから二人で行ったってわけではなく、今日は二人とも忙しかったんだよね。昨日の後始末がまだ残っていたみたい。


「ああ、あれか。護衛依頼を受けたんだけど、一緒に来るか? てか、来い」

「護衛依頼?」

しばらく上を向いた後、答えるオルテ。


 護衛依頼ってなんだろう。冒険者の仕事ってのは察しがつくけどね。いや、なんか初日にイーリスが言ってた気がする。


「荷馬車の護衛だな。ここから北東にある村に行って、隣の領地の村まで送る」

「オルテが受けた依頼についていっていいの?」

「ああ、話は通してある。くるだろ?」


 そういうことなら、と首を縦に振る。まだ全貌は分かっていないけどオルテがどうにかしてくれるだろう。


「オルテ、詳しい依頼内容は伝えときな。フロレスやってこんな何させられるか分からん話に簡単に乗ったらいかんよ」

突然イーリスが口出ししてき、分かってると繰り返すオルテ。


 たしかに考えが甘かったかもしれないけど、ここの人達なら大丈夫だろう。オルテもイーリスも俺を騙してどうにかしようなんて考えてないと思う。


 その後、オルテが語ってくれたのは依頼内容の詳細。

 今回の依頼は養豚をやっている人からで餌の蕪を買いにいくらしい。


 それで、この世界だと道中、盗賊やら魔物やらに襲われることがざらにあるんだとか。

それで護衛が必要なんだって。


 一応、街の中なら兵士の人がいるけど街道に配置するほどいないみたい。だから街の外は自己責任って文化なんだって。


 閑話休題。

 依頼内容に戻そう。


 丸一日かけて北東の農村に行き、もう一日かけて戻ってくる。それで依頼主の住む村まで行く。一週間程かかる仕事だ。


 食料なんかは全部、依頼主が用意してくれるので準備は不要だとか。ただ必要最低限以上は用意の必要がある。着替えくらいでいいみたいだけど。テントとか余分な食料とかはオルテが揃えているからね。


 いずれ自分でできるようになれよ、と釘を刺された。……しばらくはあまえてもいいって捉えていいかな?


 説明を終えたオルテは早々に部屋へ戻っていった。明日の朝は早いからだろうな。

「フロレス、ちょっと待ち」

俺らも部屋に戻ろうとすると、イーリスに止められる。


「どうしたの?」

「いや、大丈夫かなって思うてな」

「何が?」


 目を細めて穏やかな口調で話すイーリス。何やら心配してくれているようだが思いあたる節がない。


 護衛依頼も大した難易度じゃない気がする。オルテが無理をさせてくるとは思えない。


「フロレスって対人戦闘したことあるん?」

「ないかな」

学校の授業で武術をやったり喧嘩して軽く殴り合ったことはあるけど、それは対人戦闘には含まれないよな。


「それなら気いつけな。賊と魔物じゃ戦い方が違うからな。人間相手やったら駆け引きが生まれる。つまり、今までみたいにただ待ち構えといたら相手が突っ込んでくるとも限らん」


 思わず唾を飲み込む。もしや、この仕事は今までのが比にならない程危険なんじゃないか。魔物が相手だと攻撃される前に斬り殺していたからな。ただ、このやり方だと避けられたときがまずい。


 それに剣を振られたらちゃんと受けたり弾いたりする自信もない。矢とか魔法なら尚更だ。


「あのさ、賊って出やすいものなの?」

「うーん、二、三回の護衛で一回くらいは出てくるかな」

想像以上の遭遇率に言葉を失ってしまった。


「まあ、そんな気負わんでも大丈夫。オルテもおるしな。ただ、賊なら容赦なく殺しな」

イーリスの顔から笑みが消え、声色が低くなる。


 その後笑顔を浮かべなおしたイーリスは、いつもの声でおやすみ、と俺に部屋へ戻るように促した。


 言われるがままに部屋に戻り寝る準備を。

「レオン、しばらくオルテと一緒だからさ、仲良くしてね?」


 レオンは俺とイーリス以外からは遠ざかろうとしている。人見知りなんだろうけど、俺らだけは大丈夫なのはなんでだろう。


 しばらく固まったレオンはふるふると小さく首を振る。

「うーん、どうしても駄目?」

あまり無理強いはしたくないがここは少しレオンに頑張ってもらいたい。


「だって……こわいから」

俯いたまま呟くレオン。縮こまり震えそうになるレオンの頭を軽く撫でる。

「そっか。ごめんね」


 さて、どうしようか。このままじゃ埒が明かなそうだしな。

 ……そうだ。逆の方向から攻めてみてはどうだろう。


「レオン、なんで俺とイーリスは大丈夫なんだ?」

「ボクはフロにいのけんだからね、フロにいはいいの。イーリスはね、ちょっとおおかみだからねあんまりこわくないの」

 

「そっか。分かった。でも、いつか仲良く出来たらいいな」

それにしても、レオンは好きで俺の剣になったわけでもないのに。


 それなのにレオンは俺に懐いてくれている。不思議なものだが嬉しいな。


 イーリスに関しては理由になっていない気がする。たしかにイーリスは普通の人とは違うけどな。こっちにきてからイーリス以外の獣人を見たことはない。こっちの常識でも珍しいのかもしれない。


 オルテやマスターに付け耳でも作ってやろうかな。そうすればレオンの恐怖心もなくなるかも……だが、ちょっと絵面がきついな。

いや、ちょっとじゃないな。


 いい考えだと思ったが、冷静になると問題が浮き彫りになるな。ただ、リリーなら似合うかもしれない。今度、暇な時にでも作ってみようかな、付け耳。


「フロにい、どうしたの?」

レオンの一言でいっきに現実に突き返される。考えこんでしまったな。

「なんでもないよ。もう寝ようか。明日は早いからね」




 翌朝、朝ご飯だけ食べて玄関へ。暇なのかイーリスが見送りにきてくれている。


「オルテ、二人のこと頼むわ。レオン、オルテとお兄ちゃんのゆうこと聞くんよ。……あとフロレス、迷うなよ。らなられるよ」

手を振るイーリスに手を振り返し俺らは家を出た。





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 次回は3月18日金曜日午後6時です。


 

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