第13話 伐採、再び

「とりあえず木が切り倒された、と報告があった場所に行く」

マスターを先頭に進んでいく。俺とレオンの右にはオルテ、左にはイーリスがいて、俺らを守るような隊形だ。


 俺が一番弱いからね。それに俺は急な襲撃に対応できない。


「どこなんか分かるん?」

分かっていながらこんなことを言うイーリス。笑ってしまいそうだけど、我慢我慢。


 空気を読んでくれているのか、緊張しているのかレオンは静かだ。

 実は、出発する時はオルテが左にいたんだけど、それが嫌だとごねていた。自分が右にくればいいのに、と思ったのは黙っておこう。


「いや、大体しか分かっていない」

うわ、しれっと誘導した方がいいかもな。じゃないとかなり時間を食いそうだ。

「これは長丁場になりそうやな」

イーリスが苦い笑みを浮かべている。考えていることは同じだろうな。


「魔物がいる。二十数メーター先くらいか」

しばらく歩いているといきなりオルテが口を

開く。


「ホシか?」

マスターが剣の柄に手をかけながら言う。刑事かよっ、というツッコミは胸の内に留めておこう。多分、いや絶対誰にも伝わらない。


「いや、多分違う。猪の魔物だからな」

オルテは視力がいいんだな。俺には何の魔物かまでは分からない。

 まあ、猪なら切り倒した感じにはならないよな。


「どうする? 倒す?」

まだ距離があるし魔物は俺らに気付いていない。避けようと思えば避けられるだろう。

「いや、無駄に消耗したくない」

ということで少々右に逸れて進む。


 右に進む、というのをイーリスが推していたので例の場所は右の方なんだろうな。俺は例の場所がどこなのか覚えていないけどね。

 

 どこもかしこも同じような風景だからすぐに迷いそうだ。今から一人で帰れ、と言われても帰れないだろうな。




「これは……半端ねーな」

「ああ、想像以上だ」

例の場所に着いた途端にオルテとマスターの声が漏れる。


「お前らはなんでそんなに冷静なんだよ」

オルテが振り返って尋ねてくる。しまったな。なんの反応もしないのは不自然だ。

「いや、なんとゆうか……驚きすぎてもうなんにも感じんわ」

イーリスは上手く誤魔化したな。


「まあ、いいか。マスター、どうする?」

俺も何か言わねばと思ったけど、オルテが話を進め出した。

「どうするもこうするも……どうやったらこんな風になるんだよ」

軽く聖剣レオンを振るだけなんだよな。そろそろ打ち明けるべきだろうか。


「これって人がやったとは思えないの?」

「そんな化け物じみた奴いねーよ。見たところ一撃でスパッといってるしな」

そうだよな。もしそんな人がいたらそいつに擦りつけたかったけど無理そうだ。


「フロレス、そろそろええんやない?」

小声で耳打ちしてくるイーリス。

「みんな、ちょっと見ててほしいんだけど」

オルテとマスターがこっちを向いたのを確認し、俺はレオンの方を見る。


「レオン、〈解放リリース〉」

レオンが光に包まれ剣になる。〈解放リリース〉というのはレオンが人の姿から剣の姿になるときの合言葉みたいなものだ。


 最初は、来いって言っていたけど分かりにくかったからね。昨日決めた。他の魔法も詠唱みたくしてみた。


「これは……どうなっているんだ」

なんの前触れもなく〈解放リリース〉を使うのは良くなかったかな。熟練のはずのマスターが固まっている。


「これが噂の聖剣か。話は聞いていたが信じらんねーな」

オルテがレオンに手を伸ばす。

「痛っ」

その手がオルテに触れた途端、静電気……というには威力が高すぎるな。とにかく電気がオルテの手を拒絶する。


 イーリスでもこうなるのは昨日のうちから確認済みだ。多分、俺しかレオンには触れない。


「レオン、本気でいくよ」

『いいの? つかれるからだめじゃなかったの?』

アルブス様に言われて加減しようって決めたもんね。


 昨日の午後、試行錯誤してちょうどいい加減は身についた。……ある程度はね。


「いいよ。じゃないといもしない犯人を捜し続ける羽目に会いそうだしね」

『わかった。ズバーンってやるね』

「うん」

目標が定まったことで、みんなを背にして立つ。一応、前方に何もいないことを確認。


「じゃあいくよ」

短く告げて剣を振る。威力が分かりやすいように横向でだ。水平斬りとか言っていたかな。


 イーリスが、いきなりは……、オルテが、何をすんだよ、と言っていたけどもう遅い。俺には一度振った剣を止めるほどの技術はないからね。遠心力に歯向かうなんて無理だ。


 昨日の光景を再現するかの如く木が切り倒されていく。唯一異なる点といえば鮮血を飛び散らす魔物がいないことだろう。


 とりあえず納刀して振り返る。

「俺が犯人だよ」

最大限の笑顔を作り真実を告げる。なんか悪役みたいになってる?


「これは見事だな。それで、俺はどうやって後始末すればいいんだ?」

意外にも冷静なマスター。年長者はこれしきのことでは驚かないのか。


「あんまり公にはしたくないかな。正直、この威力を出すのはもうしないつもりだし」

「なるほど。つまり原因不明で処理しろ、と? それは難しいな」

「なんでもいいけど、いい感じに誤魔化してほしいんだよね」


 丸投げする形になりそうだけど許してほしいな。なんせどう誤魔化すのが現実的か分からないからね。下手なことは出来ない。


「分かった。考えておこう」

意外にもすんなりと了承してもらえた。

「さて、流石にまだ帰るわけにはいかないよな」

意識を取り戻したオルテが言う。


「そうやな。どんな理由をでっち上げるにしろまだここにおるべきやな」

イーリスも後に続く。

どうやら帰るのはまだ先になるみたいだ。

「それに……何をでっち上げるか考えて帰らないとまずいことになるからな」


 そうして俺らは切り開かれた森で、この状況をどう説明するのか話し合うことになった。





____________________


 ごめんなさい。昨日が金曜日なことをすっかり忘れてました。

 次回こそは予定通り3月7日月曜日の午後6時に投稿します。





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