第12話 自業自得

 今日は暇だから、ということで今日はオルテを入れて四人で家を出た。

「とりあえずギルド寄ってくか?」

「任せる」

なんせ俺はまだまだひよっ子だからね。そういう判断は二人に任せよう。


「まあ、行って損はないやろ」

「そうだな」

どうやら話はまとまったみたいだ。



「なんか静かやなあ」

ギルドの前に着いたはいいが昨日のような賑わいがない。

「珍しいな。雨が降ってるわけでもないのに」

オルテは首を傾げる。


「まあ、空いているなら良い依頼も残っているかもよ」

それにこのくらいの方が入りやすいよね。冒険者の休日は好きな時に入れるみたいだしたまたま休む人が多い日もあるだろう。ともかくギルドの扉を開けて足を踏み入れる。


「あっ、今日はギルド寄っていかんでええんやない?」

右足を下げるイーリス。

「俺も同感だ。早く森行こうぜ」

オルテも後ずさる。


「急に二人ともどうした?」

「いや、な? まずは戸を閉めよう」

そう言ってオルテはドアに手をかける。しかし扉は閉まらない。オルテの腕は盛り上がっているのに。


「レオン、今日のお昼何がええ? 二人で買いにいかん?」

素早くレオンを抱きかかえたイーリスはギルドから離れていこうとする。

「フロにぃは? 置いてくの?」

イーリスを真っ直ぐ見つめるレオン。


 そのイーリスの肩にはオルテの手が乗っている。

「イーリス、諦めろ」

さっきから何が起きているんだろう。

 俺が扉を開けた時から二人の顔が蒼くなっていっているんだよな。


「何を諦めるのかな?」

中から一人おじさんが出てきた。五十歳くらいだろうか。よく見たら右肩から先は存在していない。


 引退した冒険者には五体満足じゃない人が多いので腕がない爺さんは珍しくない。最初はびっくりしたけどね。もう慣れた。


「いや、その、なんてゆったらええんやろ」

視線を泳がすイーリス。天を見上げるオルテ。俺はどうしたらいいんだろう。

「この人、誰?」

明らかにこの人になにかあるよね。


「俺か? 俺はここのギルドマスターだ。マスターって呼んでくれ」

マスターはにかっと白い歯を見せて笑う。


「俺はフロレスっていいます。こっちはレオン」

俺も短めに自己紹介を。マスターが現れた途端レオンはイーリスの胸に頭を埋めてしまったからレオンの分もだ。

「フロレスにレオンか」


「それでマスター。今日はどうしたんだよ。俺らになんか用か?」

「いや、お前らにってわけじゃない。森に入るのはやめろってみんなに言ってんだよ」

だから人が少ないのか。……いや、そこじゃないな。なんでだろう?


「どうしてなん? 森に入るなって聞いたことないで」

俺らの疑問を代表するようにイーリスは聞く。

「まずいことになったんだよ。魔の森の木が切り倒されていると二件程報告が入った」

思わず俺はイーリスと眼を見合わせる。


「なっ、それって……天災級じゃねーか」

あたふたしながらオルテが言う。

「そうだ。だが、まだ犯人の正体が分かってなくてな。実際に調査に入りたいところだが無闇に森に入れない……この際お前らでもいいか」

最後の独り言のようなマスターの言葉に嫌な予感がする。


 いや、そこじゃない。この状況の原因は昨日、俺が作った切り株だろう。事態を収束させたいけど、ここで目立つのも避けたいな。諸々の説明が面倒だし、力をひけらかすような真似はしたくない。


「イーリス、オルテ、フロレス、俺と魔の森に入らないか? 生憎Aランクの奴らはみんな出張っててな」

「なっ、こんな危険な状況で森に入れって言うのか?」

マスターとオルテのやり取りが続く。


 何をどう言ったらいいのか分からないので、さっきから口を挟めずにいる。本当にどうしたらいいんだろう。


「イーリス、どうする?」

イーリスの耳元で声を潜めて聞いてみる。

「とりあえず黙りよこ。ほんとのこと教えるにしても後や。ここやと目立つやろ」

イーリスの返事に小さく頷く。


「Aランクの奴らが帰ってくるのを待つんじゃ駄目なのか?」

「今は一刻を争う。敵個体の確認が出来ないと何もできねえんだよ」

「それならもう少し人を集めた方がいいだろ」

二人の話は続く。出来ればオルテに話をまとめて欲しいんだよな。今、下手に口出ししたくない。


「あまり目立つとよくないんだよ。あくまでも敵を視認出来ればそれでいい。戦うつもりはさらさらない」

「あー、もうっ分かった」

「来てくれるか?」

「ああ、イーリスとフロレスも来るだろ?」

どうやら話はまとまったみたいだ。俺らはいもしない犯人を捜す、という方向で。


「ああ、せやな。すぐ行くん?」

「そのつもりだ。誘っておいてなんだが、フロレスも来るか? かなり危険な仕事だが」

たしかに初心者の俺ならここで降りても違和感はないか。そんなわけにもいかないけどな。


「いや、俺も行く」

「大丈夫。こいつは強いで」

「そうか。お前らと一緒にいる男だしな。では半刻後に出発だ。必要物資はこちらで用意する」

イーリスの後押しもあってか俺も同行できそうだ。


「イーリス、どうする?」

二人が準備に建物内に去っていったので内緒話を。

「どうせその内ばれるやろうしなあ……とりあえず【魔白狼ホワイトウルフ】のところまで連れて行くか」

「了解。その後は……後々考えよ」




「よし、準備できたか」

予定通り準備は済み、ギルドの前に集合している。別にばらけていたわけでもないけどね。


 準備というのは食料と武器、防具その他諸々だ。

 イーリスは綺麗な刺繍が入った丈の長い上着を羽織っている。オルテは兵士とまではいかないが鎧を着込んでいる。いつも以上でかく見えるな。


 マスターは軽装そうだが中にいろいろ着ているらしい。

 俺は鎖帷子を貸してもらった。


 みんなが言うには良い道具ほど身体への負担が大きいらしい。だから普段は最低限の装備なんだとか。今着けているのは手持ちのもので一番強いやつなんだって。今日の仕事は危険度マックスだからね。……本来なら。


 それに指輪やら耳飾りやらも沢山着けている。魔石でできているらしく魔力量を増やしたり精霊が寄ってきやすくなったりするみたい。


 俺はアクセサリーは着けてないんだよね。慣れていないのにいきなりつけるのは良くないって言われた。こんど慣らそうか、とも。


 ちなみに荷物持ちは俺の仕事。マジックバックは希少ながら存在するらしく驚かれはしたが奇妙には思われなかった。


 水薬ポーションというのを沢山持たされたんだよね。魔石をもとに作った魔力を回復する水。いい魔石はアクセサリーに、粗悪な魔石は水薬ポーションにするのが一般的だとか。


 その水薬ポーションだが、色がすごい。形容し難い色で飲みたいとは思えない。……不味いらしいよ。


「じゃあ出発するぞ。あくまで敵の姿を確認すればいい。無理はするなよ」

「「「了解」」」

さて、どうやってこの状況を切り抜けようか。





____________________


次回は3月4日金曜日午後6時です。

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