第11話 昔話〈後編〉
「アスールによってここらの人は滅ぶんやないかってなったんよ。そんで人々は最後の希望として神々に助けを乞うた」
アルブス様は深く頷いている。イーリスの話に間違いはないのだろう。
「人々の願いを受けた神々はついに一振りの剣をアグリフォという男に授けたんや」
「つまり、その剣がレオンなんだね?」
「せや」
やっぱりか。じゃないとこの話の意味がなくなるもんね。
「でも、なんでアグリフォはアスールを殺さなかったの? レオンの力があれば簡単に出来たはずなのに」
ただの素振りでも殺せてしまったのに。
鍛錬のたの字も積んでいない俺に出来たことが他の人に出来ないとは思えない。大して重くも無い剣を軽く振るだけしかしなくて良かったからな。
「アグリフォは強かったらしいわ。剣を授けられずともアスールと渡り合えるくらいにな。頭も良かったしその気になれば殺せたやろうな。でもそうはせんかった。いや、出来んかったんや」
「どういうこと?」
「この剣は強すぎた。やから神々から一つの制約をかけられた。あくまでも剣を封印のための器にすることってな」
それでレオンとアスールは洞窟の中にいたわけか。……随分と危ないところに魂を落とされているな。
「ほんで、無事アスールを封じたアグリフォは国を造り王となった。その末裔がここ、アグリフォ王国の国王やな」
まさかの王国建設秘話でした。こういうことも知っていくべきなんだろうな。
「あの、今俺はその強すぎた剣を使っているんだけど……大丈夫?」
何も知らなかったとはいえまずいよな。でもアウルム様に許可はもらっているし問題ないのか?
「それは大丈夫だよ。レオンの聖剣としての力はかなり弱っているからね。アスールもだったけど」
「……弱っている? あれで」
消え入るようなイーリスの呟き。俺もびっくりだ。あんな切り株製造機がまだ力を出し切っていないなんてな。
全力のレオンを見てみたいけど、少し怖いな。制御し切る自信がない。やっぱりこのくらいの力で満足かな。
「さてと、昔の話はお終いかな。これからは今の君たちの話をしよう」
アルブス様が姿勢を正すと空気が変わった。「今更なんですけど、俺もここにおってええんです?」
「大丈夫。それに誰か協力者がいた方が安全だからね」
「そうゆうことなら」
イーリスの心配事は無くなったみたいだ。イーリスの耳はさっきよりもピンとしている。
「まず、いくつかの注意事項からいこうかな。魔力理論やらは分からないと思うから理由は省いていくね」
「分かりました」
魔力理論か。これもその内覚えなきゃかな。難しそうだ。
「封印の影響か、人格が生成された影響か、はたまたフロレスに触れた影響か、理由は分からないが
「制約ですか」
何のことだろう。特に制約されていると感じたことはないんだけどな。
「一つ目は魔法だね。分かっていると思うけど、君はレオンと触れ合っている状態じゃないと魔力が零に近くなる。正しくは表に出せなくなる、かな」
どうやら俺らの仮説はあっていたようだ。これはあんまり困らないかな。レオンと別れて行動することは少なそうだからな。
「二つ目はそれだよ」
アルブス様は、未だに眠っているレオンを指差している。
「それって?」
「剣の姿から人の姿に戻るとしばらくは力を完全に失う、ということだよ。具体的には剣でいた時間と同じだけだね」
それにしては寝過ぎじゃないか? もう剣でいた時間と同じ以上の時間は経っているけどな。体感的にはね。
「それにしては起きんなあ」
レオンを撫でるイーリス。
「ああ、もう力は回復しているよ。今寝ているのはただの寝不足かな」
そういうことだったのか。それならもう少し寝させておこうかな。
昨日は早めに寝たつもりだったけど、まだ生活習慣を改善しなきゃいけないな。
「ここからは制約ってわけじゃないけど大事なことだからよく聞いていてね」
「はい」
「フロレス、魔法にしろ剣にしろもう少し威力を抑えるべきだ。たかだか【
アルブス様はお茶を一口飲む。
俺も一口頂こうかな。どうやら紅茶のようだ。……美味いな。流石は神様から頂いたお茶だ。
……今はそこじゃないな。
「威力を抑えるってどうしたらいいんです?」
俺だって森林破壊をしたいわけじゃないからね。
「狙いを具体的に定めることかな。なんなら斬撃は飛ばさなくていいんじゃない? 実際に刃が当たったところだけ切れるってことで」
「なるほど。それなら後ろの物を斬る心配がなくなるんですね」
「そうだね。あとはその意識をレオンと共有すること。君たちの斬撃は最大で十二メートルくらいの射程がある。だけど、これを五、六発も撃てば魔力切れで倒れるからね」
五、六発か。少ないな。普段は使わないようにしないとな。
「とっておきの切り札ってゆうわけやな」
「そうだね。あんまり使う気はないけど」
出来るなら切り札を切るような状況には置かれたくないな。
「そろそろ今日はお開きにしようか。まだまだ伝えたいことがあるけど、今日のところはこれくらいにしようかな。一度に沢山言っても覚えきれないでしょ。またその内呼ぶよ」
そう言ってアルブス様はお茶を飲み干した。
俺らもお茶を飲み干し立ち上がる。やっぱり美味いな、このお茶。
「じゃあ送り返すよ」
その言葉を合図に俺らは光に包まれる。
送り返された先には切り株が沢山並んでいる。……犯人は俺です。
「とりあえずお昼にしようか」
切り株に腰掛けるイーリス。陽はすっかり西に傾き始めている。
「そうだね。レオン、起きて。ご飯だよ」
レオンを切り株に座らせて身体を揺らす。
「んー」
唸るような声を出し眼を開くレオン。思ったよりすんなり起きたな。
両手が空いたのでバックを漁る。取り出すのは今日の朝、市場で買ったパンだ。これを二人に配って俺も切り株に腰掛ける。
こっちのパンは麦っぽさが強くていいな。それに工場で大量に、ではなくパン屋で一つ一つ焼かれているので美味い。ただ、もうちょっと甘さが欲しいかな。
「これ食ったらもう少し狩るか?」
まだまだ陽が落ちるには時間がありそうだからな。それに荷物はいくらでも持てる。マジックバック様様だ。
「せやな。服一式揃えるんやったらまだ狩らなやな」
「それなんだけどさ、ドラゴンって売れない?」
あの巨体がまるまるバックに入っているからな。魔物が売れるんだしドラゴンも売れるんじゃないかな。
「あほか。ドラゴンなんてAランク冒険者がパーティー組んでやっと倒せるようなやつなんよ。そんなん出したら……どうなることか」
溜息混じりでイーリスは言う。いい考えと思ったんだけどな。イーリスの言わんとすることは分かるけどね。
「じゃあ真面目に頑張るか」
「そうやな」
イーリスは最後の一口を放り込み腰を上げる。
「よし、行こうか。レオン、いくよ」
「うん」
ぴょんと立ち上がったレオンの手を握り、先を行くイーリスに付いていく。さて、もう一仕事しようかな。
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次回は2月28日月曜日午後6時です。
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