第10話 昔話〈前編〉
「レオン、もう戻っていいよ」
とりあえず【
『もどっていいの?』
「うん、もう魔物は狩ってしまったからね」
『じゃあもどるね』
なんども確かめた
「おー、ちゃんと戻ったわ。ほんまにどうなってるんやろ」
軽い笑い声には、何か隠されているような雰囲気だ。まあ気持ちは分かるよ、イーリス。
「レオン、行こうか」
横たわった状態で元に戻った……どっちが元の状態だ? まあ人型の方ってことにしておこう。そのレオンに声をかける。
しかし返事はない。……さっきから無視されてばかりだ。
「レオン? 寝てる?」
まさかとは思いつつ、レオンに近づきしゃがみ込む。軽く揺さぶってみても反応は無い。
「これは寝てもうてるな」
隣にしゃがみ込んだイーリスはレオンの瞼に触れる。
「そういえば、剣の姿になるのは疲れる、みたいなこと言っていたな」
「ああ、森に入るときか。ぴくりともせんし……どうする?」
立ち上がりながらイーリスは問う。
「まあ、しばらく待つしかないんじゃない?」
「やな。息はしよるし脈もある。そんな心配するようなことちゃうやろ」
とりあえず、いつまでも地面に寝かせておくわけにもいかないので、抱き上げる。
「どうする? まだ進む?」
どうしようか。まだまだお昼前だし帰るには早すぎる。でも、いつまでレオンが起きないのか分からないまま進んで大丈夫かな? 武器を失っているわけだしな。あの感じだと魔法も碌に使えそうにないな。
「危ないかな?」
「そうでもないやろ。俺やって大分強い方なんよ」
余裕げに笑ってみせるイーリス。たしかに今はイーリスも一緒だ。何かあってもなんら問題ないか。
「じゃあ進もうか。もっと奥の方に行く?」
「せやな。もうちょっと行ってみるか」
そうと決まれば、ということで足を上げる。
……! その刹那辺りは白い光に包まれ浮遊感に襲われる。
「いっらっしゃい。まあ座って座って」
目の前にいきなり現れた金髪の男。かなり濃い色の髪はレオンに似ているな。……ってそこじゃない。何この人?
まあ、大体察しはついているんだけどね。この真っ白くて明るい空間はあれだ。アウルム様がいたところ。でも目の前にいる男性はアウルム様とは違うな。
「あの……どなたですか?」
神様は神様なんだろうけど、あいにく俺はこっちの神様については何も知らない。……日本の神様もよく知らないか。
「この方は……多分やけどアルブス様や。白の神……なんでこんな方が……」
なんとイーリスも連れてこられていたみたいだ。ちなみに腕の中ではレオンがしっかりと眠っている。
「いやー、急に呼んで悪かったね。まずは座って」
アルブス様とやらがパチンと指を鳴らすとちゃぶ台とその他諸々が現れる。湯呑みとか座布団とか……この神様は俺らをもてなす気満々だ。
ここまでされて立ちっぱなしというのも失礼だろう。ということで座布団に座る。
「落ち着いたところだし話を始めようか。さっきイーリスが言っていた通り、私はアルブス、白の神だよ。いきなり呼んで驚かしてかな。ごめんね」
アルブス様は俺らと向かい合う位置に座って喋りだす。
「そんな、謝らんでください。なんか……もう慣れましたから」
乾いた笑みを浮かべるイーリスの言葉に嘘はないだろう。昨日の今日でいろいろあったからな。
「さっそくなんだけど、私からはレオンが何なのか、これを伝えたい」
「それはありがたいです」
レオンの扱いには困っていたからな。本人から聞き出すのも無理そうだから教えてくれるのは本当にありがたい。
「まずは、レオンを造ったのは私なんだよ。二、三千年前だったかな」
二、三千年……レオンの方がめちゃくちゃ年上だったのか。変な感じだな。
「レオンを造ったからアルブス様だから今日はアルブス様なんですね」
レオンとアルブス様の髪色が似ているのも納得だな。
「それもそうだけど、今、手が空いているのが私しかいないんだよ」
俺ばっかりに構うわけにもいかないよな。神様って普段は何をしているんだろう。
「忙しい中手間かけてごめんなさい」
「いや、普段は忙しくないからね。アウルムが君の魂を抜いてしまったから忙しいんだよ」
「それはどうゆう意味です?」
黙っていられなかったのかイーリスが問いを投げる。
「いろいろしないといけないことが出来たんだよ。君がいた世界の神に謝罪に行ったり、一番偉いお方に説明に行ったり、君らのことを調べたり」
はー、とため息混じりで言うアルブス様。いろいろ大変そうだな。
「一番偉いお方って……アウルム様やないんですか?」
たしかにアウルム様は最高神だって言っていた気がする。どういうことだろう。
「あくまでもアウルムはこの世界の最高神だからね。
少し声色を変えたのは、これ以上首を突っ込むな、ということだろう。
「さて、本題に戻すけど……はっきり言ってレオンについて私たちが分かっていることは少ないんだ」
ばつが悪い様子でアルブスは告げる。
「神様でも知らないことはあるんですね」
全知全能だって思っていたな。
「……そうだよ。とにかく、今わかっていることを話すね。もともとレオンは君が葬ったあのドラゴンを封じるために造ったんだ」
「二、三千年前のドラゴンって……まさかアスールですか?」
「大正解。察しがいいね」
アルブス様に微笑みながら褒められたイーリスだがあまり嬉しそうじゃない。それどころか頭を抱えてる。
「イーリス、アスールって何?」
あのドラゴンのことなんだろうな、とは分かっているけど名を付けられる程なら何かあるんだろう。
「昔話からするけど、二、三千年前ここら辺は小国が集まった土地やったんよ。そこに一匹の魔獣——【
魔獣っていうのはたしか魔物とは少し違ったはず。もとから魔石を持って生まれてくる生物だったかな。イーリスがそんなことを言っていた。
俺の時には刃は通ったけどな。それも素振りで。
「それで? どうなったの?」
そんなに焦んなや、と言ったイーリスは昔話の続きを語り始めた。
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ついに話数が二桁になりました。時雨は筆が遅いのでまだまだ先は長そうです。先の構想は決まってますので安心して、ごゆっくりお付き合いください。
コメント、フォロー、星など頂けると嬉しいです。……欲しいです。
次回は2月25日金曜日午後6時です。
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