第2話 神様のち犬耳

 単刀直入に転生した、なんて言われても困るなあ。こんなことなら転生もののアニメとか小説とか見ておくんだった。どうしたらいいか全く分からない。


「もとに戻してもらうっていうのは……」

「絶対に無理じゃ」

そうですよね。神様だってもとに戻せるならとっくに戻しているはずだ。一回死んだと思えば諦めがつくかな。


「あの……それで俺はどうしたらいいんですか?」

こうなったら先のことを考えるしかない。

「それはお主に任せる。好きなことをすれば良かろう」

「えっ……」


「なんじゃ、不服か? お主らはこういうのが好きなんじゃろう? 異世界転生ものに少なからず憧れがあるじゃろう? 異世界に行ったらしたいことあるじゃろう?」

うわ、日本人への偏見がすごい。だから俺はそういうの見たことないんだって。


「別に俺はそういうのに興味がなかったんですけど……」

「ええい。うだうだと五月蝿い。諸々の都合で時間もない故、大事なことだけ言わせてもらうぞ」

えー、逆ギレ。酔った勢いで人の魂をこんな所に飛ばしておいてそれはなくないか。


「諸々の都合とは?」

時間がないってどういうこと?

「言ってもどうせ分からんだろう。気にするな」

言っても分からないっていうのはごもっともです。だけど、気になるじゃん。


「まず、桜庭湊よ。お主はこれから『フロレス』と名乗ると良い。前の名だと目立つからな」

「なんでフロレスです?」

「良い名だろう? 次いくぞ」

もう黙っておこう。この神様に話が通じる気がしない。


「お主には我がいろいろと能力等を付与しておる。まあ言語翻訳や精神耐性。それに肉体その他諸々と生きていく分には困らんじゃろう」

この神様さっきから諸々が多いな。諸々ってなんなんだろう? 


「それと、あの剣はもうお主のものだ。はるか昔に他の神が拵えたもので聖剣と言われる業物じゃ。ほら、ドラゴンも真っ二つにしたろう。強すぎるので取り扱いには充分注意するように」

やっぱりドラゴン斬っていたんだ。薄々分かってはいたけどね。


 それにしても大丈夫かな。あの威力。注意するようにってレベルじゃない気がするけどな。

「まあ剣の説明は追々してやる。拵えた本人に聞いた方が良いじゃろうしの」


「最後に、これをやろう」

そう言うと、何かがいきなり現れた。ウエストバックだ。まあまあ大きい。縦に二十センチ、横に三十センチ、厚さは十センチくらいかな。表面は青黒い鱗のような物で覆われている。


「あのドラゴンで作ったマジックバックじゃ。容量は無限で中に入れた物の時は止まる。ちなみにドラゴンの残りが入っている故好きにすると良い」

ゲームみたいなバックだな。これがあれば引っ越しとかも楽だろうな。


「そろそろ時間切れかのう。その内またこっちに呼ぶ故、達者でな」

最後まで神様のペースだったな。まだまだ気になることはいっぱいあるし、その内が早いことを願おう。


 真っ白な光に包まれた。もとの場所に戻るってことかな。




 おおっ、今度は地面が柔らかい。洞窟からは出してもらえたみたいだ。今度は草の上かな。周りには木がたくさんある。とりあえず、いつまでも寝ているわけにもいかないし立てる。


「おっ、起きたか。君、大丈夫?」

第一村び……じゃないな。ともかく、人発見。

いや、人でもない。耳が、尻尾が……生えている。しかし高身長イケメン。

 だがしかし何故、耳と尻尾が……。綺麗な銀髪から灰色の犬耳。腰には剣。


「あのっ、人間ですか?」

ついつい聞いてしまった。失礼だったかな。

「そうやなー、一応人間かな。狼の獣人やけどな。こうゆうん見るの始めて?」

とりあえず頷く。獣人って何? なんで優しい感じの関西弁? 


「君、名前は? なんでそんな格好でここにおるん?」

「えっと名前はフロレスです」

「俺はイーリス。ほんで?」


 異世界から来ましたって言っていいのか? 痛い奴になっちゃわないかな。こんな格好って……たしかにほぼ手ぶらだけどバックは持っている。もちろん服も着ている。


「あっ、弟君? 起きたよ」

イーリスさんの視線の先には一人の子どもが。幼稚園児くらい? 金髪でこめかみの上の方から三つ編みをしている男の子だ。ちなみに俺は一人っ子で弟なんていない。誰?


「ねえ、僕。お兄ちゃんがね、黙ってしもうたんよ。代わりに教えてくれん?」

幼児の前に屈んだイーリスさんは柔らかな声で問う。


「あのねっ、フロにぃはねっちがうせかいからきたんだよ」

一拍おいて幼児が答える。ああ、言っちゃったよあの子。なんでこの子がそんなこと知っているんだよ。そんなことよりイーリスさんの表情も曇ってきたよ。あと俺は君のお兄さんじゃないんだよ。


「どういうことかな?」

ゆっくりと首を回して俺を見るイーリスさん。これはもう、説明するしかないな。

「単刀直入に言いますと……俺は異世界から来ました」

「やから、それがどうゆうこと?」


「えっと……酔っ払った神様に魂を抜かれてこっちに来ました」

「ますます良う分からんくなったわ。神様ってアウルム様?」

「はい」


「異世界ってどんな?」

「魔法とかは無かったです。イーリスさんみたいに耳やら尻尾やら生やした人もドラゴンも」

「やっぱり良う分からんな。まあそこら辺は後々聞くわ。ほんで君ら、これからどうするつもりなん?」


「神様には好きにしろ、と言われてます。どうしたらいいんでしょう?」

「俺に聞かんといてよ……まあ暫くは面倒見てやるわ。で、結局この子は誰なん?」

やはり問題はちょこんと座っている幼児。


 一体この子は何者なんだろう。





____________________


 月曜日なので第二話投稿です。 

 今回出てきたイーリスの訛り方についてですが、時雨のイメージです。俺らはこんなこと言わない、なんて思った関西弁使いの方々には異世界特有の訛りとして妥協して頂きたいです。

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