第3話 剣の正体

 さて、謎の幼児の前に屈んで尋問開始。

「まず、君名前は?」

「えーっと、レオンっ」 

「で、レオン、君は何者なん?」


「ボクはねフロにぃのけんだよ」

返ってきたのは意味不明な回答。

「フロレス、どうゆうこと?」

「俺に聞かれてもさっぱりなんですけど」

イーリスさんと顔を見合わせ、二人で首をひねる。


「レオン、もうちょっと詳しく話してくれんかな?」

「じゃあみてて」

立ち上がったレオンが軽く跳ぶと、レオンが淡く発光し凝縮されていく。


 そして剣になった。たしかに洞窟で俺が拾った聖剣だ。見当たらないからバックの中と思っていたんだけどな。

 人が剣に変わるなんて夢でも見ているようだけど、そもそも今日のことが全て夢みたいなんだよな。


『これでいい?』

頭の中に音が響く。これはレオンの声だ。テレパシーみたいなやつか。もうこれくらいじゃ驚かないな。

「うん」

短く返事すると、剣は再び淡く発光し今度は膨張する。そして子どもの姿に戻った。


「ええっと、どうゆうこと?」

イーリスさんは混乱しているもよう。

「たしかにあれは俺の剣でした。ただ、人の姿に変わるなんて聞いていないんですよね」

「ほんなら、なんか他には聞いたことがあるん?」

おお、顔が近いです、イーリスさん。


「神様が作った聖剣だ、とは言われています」

「ああ、それならこんなこともあるんかな。ほんまに滅茶苦茶や」

俺も同意だ。神様のせいで訳が分からなくなっている。その内また会える、みたいなことを言っていたので詳しいことはその時に聞こう。


「それで、これから俺はどうしたらいいんでしょう」

「とりあえず付いてき。俺んく泊めたるわ。どうせ無一文やろ?」

「いいんですか?」

この提案は素直に嬉しい。このままじゃ野宿確定だったからな。思わず口元が緩んでしまった。


「決まりやな。ほな、いくで」

立ち上がり、歩き出したイーリスさんに付いていく。

 ふと左手に温かなものが触れる。レオンが俺の手をぎゅっと握ってきたのだ。振り解く理由もないので、俺も軽く手を握る。はにかむ顔が可愛いな、と思い少し手に力が入ったのは気付かれないだろう。


「そうや、フロレス。これから敬語禁止な」

歩きだしてすぐにイーリスさんは口を開く。

「えっ、なんでですか」

どう見てもイーリスさんの方が年上だし、いきなりタメ口で話すのは躊躇われるんだけど。


「なんでって俺堅苦しいの嫌なんよ。いや、俺とゆうより俺ら、かな」

「俺ら、とは?」

イーリスさんの意味深な言い方に疑問が浮かぶ。

「俺はな、冒険者しよるんよ」

「冒険者とは?」

多分、異世界系の何かをかじっておけば分かったんだろうな。言葉だけなら聞いたことがある。


「冒険者も知らんの? せやな、簡単にゆうと冒険者は魔物を狩ったりする仕事、かな。他にもやることいっぱいあるけど、これが一番多いやろ」

「それで?」

冒険者というのが何かは分かったけど敬語禁止との繋がりは分からない。


「冒険者は自由で軽いもんなんよ。やから敬語なんて使わん。あっ貴族様相手にするときなんかは別よ」

この世界って貴族もいるんだ。いや、今はそこじゃないな。


「敬語を使われるのも嫌なんです?」

「別にそうやない。でも君には冒険者になってもらうつもりやから、冒険者同士の会話はタメ口がええやんって話。なめられるで」

イーリスさんは口角を上げて悪そうに笑う。

「えっ、俺って冒険者になるんですか?」

大事なことが勝手に決められている気がするけど。この世界の人……神様を含むはみんな強引な感じなのか?


「だってええ武器持っとるやん。それを使わなもったいないやん? それにロクな知識も無くて、子ども一人世話しながら出来る仕事って、俺はこれくらいしか思い付かんよ」

そう言われるとぐうの音も出ない。


「冒険者やったらレオン連れといても問題ないで。レオンやって兄ちゃんと一緒におりたいやろ?」

急に話を振られたレオンがワンテンポ遅れてうんっ、と返事をする。

「じゃあそうします。俺、冒険者やります」

あんなふうに言われたら断れないよな。


「よし、登録とかは明日しよか」

「分かりました」

「まーた敬語使った。ほら、イーリスって呼んでみ」


「イーリス」

やっぱり慣れないな。

「はい、よく出来ました。よろしゅうな、フロレス」

イーリスは立ち止まり俺の方を向く。そして右手を差し出した。

「うん、よろしく」

俺も右手を出し、イーリスの手を握る。

 それを見ていたレオンが俺らの手の下に移動すると、両手を上げて俺らの手を挟んだ。




「それでいつまでこの森続くんだろ?」

かれこれ一時間くらい歩いている気がする。レオンの速さに合わせていて歩くペースは遅いのもあると思う。だがそれにしてもだ。


「もう少しかな。すごい広い森やから」

広い森か。多分、日本の規模で考えたらいけないんだろうな。具体的にどれくらいか聞きたいけど、面積で言われてもピンとこないと思う。何かに例えるにしてもその何かは俺の知らないものの可能性が高い。


「そういえば、イーリスはここで何してたの?」

今更ながらイーリスの持ち物は剣とリュックくらいで、一仕事終えて帰るようには見えない。


 それにイーリスのリュックは俺のみたいなマジックバックじゃないらしい。つまりリュックの中に獲物が入っているとも考えられない。


「護衛の依頼の帰りなんよ。街道行くより、森ん中突っ切ったほうが早いから」

「護衛って何?」

魔物を狩る以外の仕事の一つなんだろうな。

「せやったな。せっかくやし歩きながら色々教えてやるわ」

声を上げて笑うイーリス。傍から見たら常識のじの字も知らない奴なんだろうな。


「冒険者はな依頼を受けて報酬をもらうことも多々あるんよ。で、依頼にもいろいろ種類があってな……」

こんな調子でこの世界の常識講座は始まり、それはしばらく続いた。






____________________


 やっとタイトル回収できましたかね。軌道に乗るのはまだ先になりそうです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る