異世界に飛ばされ剣を拾う〜それは最強の聖剣で可愛いショタでした〜
後藤 時雨
第1話 転生
ヒュッ、ゴー。
浮遊感と疾走感。ジェットコースターのような感覚。
途端にひんやりとした感覚が身体の表面から伝わる。ごつごつとした岩のようなものが手に触れている。どこに座っているんだろ?
暗くて何も見えない。いや、二メーターくらい先に棒状の淡く光る何かはある。それのお陰で何も見えないわけじゃないな。
あれ、動かせるのかな? とりあえず立ち上がって、光る棒に近づく。
触れるとそれは強い光を発す。蛍光灯以上の光だ。
謎の発光体のお陰でこの空間の様子がよくわかるようになった。地面に刺さって立っている棒を中心に、半径三メーターくらいの空間。棒以外のものは何も無くて、岩に囲まれている。一応、木製の扉があって閉じ込められているわけじゃない。
閉じ込められているわけじゃないな。安心安心。それにしても、なぜ俺はこんな所にいるんだろう。
夢か? 今更ながら確認。頬を摘んでみる。……痛い。夢じゃないってこと? そもそもだけど、本当に夢の世界だと痛み感じないの?
まあ、うだうだと考えても無駄かな。扉はあるんだしここを出よう。
悩むべきはあの棒をどうするか。扉の先が真っ暗ってことも十分あるし持っていきたい。だけどいいのかな?
まあいっか。
再び棒に近づき、手を掛ける。抜こう。
上向きに力を入れると難なく棒は抜けた。その刹那、光は段々弱まっていく。これで死にかけの蛍光灯くらい。ちなみに熱くはない。もっと言うとひんやりしているな。
棒の表面がぽろぽろと剥げ落ち、中の何かが姿を表す。
剣だ。
白い鞘に金色の柄。鞘には所々金色の装飾がされている。何を表したいかはよく分からないがなかなかに美しい模様だ。
抜いて、刃を見てみたいけど……駄目かな? とりあえずここ、狭いし出てからにしようかな。
せっかくの剣だし腰に帯びたいけどやり方が分からない。残念。
とにかく、扉の前に立ちドアノブに手を掛ける。どうか空の下に出られますように。
しかし、願い虚しく、扉の先も洞窟。少しだけど目が慣れたみたい。周りの様子が見える。
ここはさっきいた空間よりも広い。体育館四つ分くらい。……広すぎない?
とりあえず出口を探さないといけないな。一歩踏み出す。
何か踏んだか? 足が若干沈む。表面こそ硬いけど中身は柔らかい何かを踏んでいる?
「グゥワー」
いきなり獣のような鳴き声が響く。地面がふっと消えて、転んでしまう。
見上げれば……ドラゴンがいる。ドラゴン? 本当に存在したのか。いや、光る剣も充分不思議なんだけどね。もしかしてさっき踏んだのってこいつ?
……これは異世界転生的なやつなのか? そういうの分かんないんだよな。もっと先に気付くべきだったかな。
八メーターはありそうなドラゴンは、黒い鱗に覆われていて、二本の足で立っている。翼はあるけど飛べる程の広さがないのかな?
「ビュン」
急に目の前に現れたドラゴンの爪。反射で避けたけど……まずい。襲われているよね、俺。
怒らせてしまったか、はたまたお腹が空いているのか分からないけど襲われているのは事実。
逃げる、いや……戦う? 幸いにも武器はある。寝起きだからか奴の動きも鈍い。
よし、戦おう。なんとなくだけど勝てる気がする。
柄に手を掛けて抜刀。刀っぽくないから抜剣か。抜いた剣は銀色に光っていて一点の曇りも無い。
何かが剣から俺の体内に流れてくる。凄い勢いだ。俺の中から溢れ出しそう。不思議な力……魔力ってやつかな?
ドラゴンの動きが止まっている。
今がチャンスなんじゃないかな。とりあえず素振りでもしてみよう。ドラゴンも止まっているし少し練習。いきなりドラゴンに襲い掛かるなんて怖いことはできないよね。
まずは縦に振ってみよう。ということで剣先を上に向ける。重くて振れないなんてことはないな。この剣、見た目以上に軽い。
えいっ。
剣を振り下ろす。
ドーッン。
え? 何の音? ……ドラゴンがいない? どこに行ったんだろう。あんなにでかいの、見失うわけないのに。ドラゴンは俺の二メーターくらい前にいたのに。たしかこの辺に……痛っ。
転んだ? 足元がぬるって。ここってこんなに濡れていたっけ? ああ、靴も服もぐちゃぐちゃだ。
それに、なんだか鉄っぽい匂いがするな。この水も少し粘度があってぬるってしている。
まさか……血? 何の? 俺はどこも怪我をしていない。じゃあドラゴン?
まさかと思いながらも下の方に目をやる。いた。真っ二つになったドラゴンが。
どうやったらこんな巨体が綺麗に二つになる? しかも切り口も綺麗。途切れることなく脳天から尾っぽの先まで真っ直ぐに切断されている。
誰が? 俺以外に誰かいる? 勝手にドラゴンが真っ二つになるなんてあり得ないよな。もちろん俺はこんなこと出来ない。つまり俺以外の誰かが、しかも阿呆程強い誰かがいる。味方だったらいいけど……敵だったら不味いな。ドラゴンを真っ二つに出来るやつに勝てる気がしない。
とりあえず納刀。剣だから納剣か? 響きが嫌いだから抜刀、納刀って言おう。
剣を左手に立ち上がる。ああ、なんだかくらくらするな。
その瞬間全身の力が抜け、意識も飛んでしまった。
「そろそろ起きんか。ほれ」
腹の辺りに軽い刺激。目を覚ますとこれまた謎の空間が広がっていた。真っ白な明るい空間が。今日はそういう日なのかな。
「やっと起きたか。二刻も寝おって。まあ良いか」
知らない美人な女の人が座っている。着ている服も美しい。
「あの……どなたです?」
「ああ、我はこの世界の最高神、アウルム。まずは一つお主に謝らねばならん」
いろいろと情報過多である。この人は神様で……だから人じゃなくて、なぜか神様が目の前にいて、それが俺に頭を下げている?
「え?」
ついつい情けない声を出してしまった。
「あの……もうちょっと詳しく話してもらえませんか?」
「ああ、あれは二日前の事……」
こんなふうに回想に入る人……じゃないか、ややこしい。もう人ってことにする。本当にこんな入りで回想始める人いるんだ。
「我は他の神たちと花見をしておっての。お前のいた世界の桜を天界から眺めていたのよ。それで少し酔っておった。それで……うっかりお主の魂を抜いてしまった挙句、あの洞窟に落としてしまったのよ」
「え?」
ちょっと落ち着こう。やっぱり情報過多だ。
「単刀直入に分かりやすく言うと……お主は異世界に転生を果たした」
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初めまして、時雨です。
今のところあらすじの方が先をいってますが気にせず続きを待って下さい。
星、ハート、応援コメント頂けたら嬉しいです。
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