第8話

2035/11/16(金)  深夜一時二十分 検非違使けびいし神戸分署仮八課棟課長室 長良ながら・他


「なんでそんなことに」と俺がうめくように言葉を吐き出した。


「実働部隊が、向こうにも待機していたらしい。二号線上で、堂々と襲われたそうだ」と加藤副課長があり得ないといったふうにいった。


「どうやらこの事件は、今までのものと毛色が違うらしい」と追加された。


『バンは防弾では無かったのですか?』と一班の四月朔日わたぬき班長と二班の衣笠きぬがさ班長がハモった。


「七点六二ミリのバトルライフル程度までなら防弾性能はあるが、今回の相手は十二点七ミリらしい。俗にいう、五十口径と言うヤツだ。しかも、ブローニングM2重機関銃が相手らしい現場の薬莢痕やっきょうこんから推測されたものだ」と解析班から上がって来た情報をそのままいわれたようだった。


「対物ライフルが相手か……」と四月朔日班長がうなった。


「どうするんですか?」と俺は聞かざるをえなかった。


「どうっていわれてもな、対処が取れない以上。現場で、吐かせるしかあるまい」と副課長はいった。


「しかも相手のヤサが割れていない」と衣笠班長も唸るしかなかった。


「重指揮車でも出すしかないな」と副課長が唸る。


「アレは課長の決済印要りませんでしたっけ? 正式なほうの」と俺が聞いた。


「病院で療養中の課長に無理言って、押してもらうよ。ソレしか方法はあるまいアレなら三十ミリ航空機関砲にまで耐えられるからな。各課が一台だけ持っている、決戦兵器ともいうべき車両だがこういう時にしか使えんしな」と副課長は書類を書き始めた。


 書きながら副課長は「今は報告だけだ、次なる出動に備えて準備を怠らぬように。装備チェックと、弾薬補給は行っておけ。以上だ」とだけいうと書類に不備がないか確認し始めたのであった。




2035/11/16(金)  深夜一時四十分 検非違使神戸分署仮八課棟七班班室 長良・他


「というわけだ、各位長物が向けられたら鉄筋コンクリ、防弾車両を最低一台は挟むようにしてくれ」と俺は副課長からの話をつまんで話しその対策を軽く説明した。


「ブロック塀は耐えられないだろうから遮蔽しゃへいには取るなよ?」というのも忘れない。


「嬢ちゃんがいれば火力は補えたんだろうが、班を半分に割ってるから人手不足か」という俺のつぶやきを拾ったのか、佐須雅隊員が「対物ライフルの申請をしてみますかね、数丁九課の神戸分署にあったと思うので申請できると思います」と答えてくれた。


「分かった、それで頼む」と答え、武器登録申請書類を書き始めた俺がいた。




2035/11/16(金)  深夜二時 検非違使神戸分署仮八課棟七班班室 長良・他


「俺らは近づかないことには、役に立たんからな」とラウさんといって笑うしかなかった。


 近接組の宿命みたいなものだからだ。


 最大火力を出そうとするとゼロ距離まで、踏み込まないといけなくなるのだ。




2035/11/16(金)  深夜四時 検非違使神戸分署仮八課棟七班班室 長良・他


 俺は解析班から上がって来た、今回の件の資料五枚ほどをコピーし皆に渡して読んでいた。


 検非違使側死者二十五名、犯人十八名死亡それが今回の結果である。


 やるせなかった、だからかたきは打つと心の中で締めくくった。


 ブツは抑えられたからまだよかったのかもしれないが、四十四カートン計四百四十箱タバコ本数にして八千八百本なのだから。


 百本吸ったら妖魔あやかし化すると仮定して八十八人を妖魔化させられないですんだという他にならない。


 それと暴力団の資金一千百万円を押収できているのだ、その紙巻タバコ一箱二十本入りが二千五百円と低価格なのにも驚いたがそういうことらしい。


 そして解析班の報告書がいうには、非常に強力な常習性もあるらしいのだった。


 未然に薬中ヤクチュウが出るのも防げたと考えれば今回の作戦は三割ほどの成功といえた。


 ただ、アジトが突き止められていない、またどこの組織かも分かっていないという点においては七割は失敗に終わっているということであった。

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