第5話

2035/11/15(木)  夜十時 検非違使けびいし神戸分署仮八課棟七班班室 ラウ・長良ながら佐須雅さすが


「長良さん、その黒いコンテナは?」と俺が、長良さんの席の後ろに立てかけてある黒い長いコンテナを見ながら長良さんに聞いた。


「新しい装備だよ、もう届いたんだな。ナイツアーマメントLMGライトマシンガンだ、撃ち合いらしいからな」と長良さんがいった。


「副課長いわHGハンドガンだけだと、心許こころもとないんだそうだ。普段は班長やら嬢ちゃんがいるから、必要はないけどな」といいながらデスクの上に乗せコンテナを開いて装備や器具・弾薬などを確認していった。


 佐須雅さんは自身のP100A2を整備している、撃ち合いと聞くと予備マグをさらに増やしたようだった。


 俺もM11A2の調整にかかり始めた、撃ち合うならば特に俺の場合牽制弾が多くなるから予備マグは必須になるのだ五本か六本は要るだろう。


「そう言えば、折神おりがみさんは出張かい?」と俺が聞いた。


「撃たれて寝込んでいるよ。全治三日って、ところだな」と長良さんが静かに答えた。


 やはり、撃たれた刑事というのは折神さんだったらしい。


「やり切れねえな……」と俺はいって、予備マグに弾薬を“カチャカチャ”と詰めていった。



◇長良視点


 佐須雅さんは栗色のマッシュヘアで欧米人を思わせる引き締まった体格の擬体を使っているようだった、だが瞳の色は栗色で顔も美形の小顔で日本人を思わせるが体躯は日本人のそれではない。


 身長は百九十五ってところだろう、体重は戦闘用の擬体なので詳しい所は分からないが百キロ前後だろうと思われた。


 またラウさんは生身で、身長も百七十台である。


 髪型は角刈りを基調とし髪色は染めず黒いままであった、また瞳の色も黒でアジア人を思わせる風体であった。


 体躯は武侠や武芸者のそれで筋肉質であり野生の狼を彷彿とさせる。


 得物は俺と似ていて青龍刀とM11A2なのである。


 俺も本来ならば得物は太刀とM18357だけなのだが今回はさらにナイツアーマメントLMGを副課長から押し付けられた格好になっていた。


 そのせいで俺の自車は一人乗り仕様になってしまっていた、他の皆は佐須雅さんが検非違使仕様の防弾防刃バンで運ぶだろうと思われたので車の心配はなかった。


 皆それぞれに特徴はあるが折神の分は余分に当てておかねばなるまいといったふうで、予備マガジンに弾薬を詰めていく作業が行われた。


 その後は情報の裏付けを佐須雅さんが行って、間違いなく午前零時半に新開地南公園の南側で取引が行われるらしかった。


 対象組織は不明だがトランク二ケース分、四十四カートン分の取引らしかった。


 そんなものが出回ったら大変なこと請け合いだ、双方とも阻止せねばならなかった。


 二班の八名と一緒に待機に入った、我々七班の人数だけでは手に余るからだ。




2035/11/15(木)  夜十一時 神戸市某所の工場跡地 銀髪の男・黒服の部下


 部下に指示しながら俺は胴に赤線の入った、紙巻タバコを吸っていた。


「今日の取引には俺は行かなくてもいいのか? お前らだけで成立させられるんだろうな?」と部下に聞いた、幹部クラスの部下が「シルバー様のお手をわずらわせてもいけないかと思いまして」と答えた。


「取引成立しなかったら、お前も餌か生きていてもらっては困るから死人になってもらうがそれで構わないんだな?」と聞く。


「黄龍もサツも黙らせましたし、アイツらにかかって来ようなんて根性はありませんぜ」と、さも自分でやったかのようにいう。


 そいつの後ろで、俺の吸っているのと似たような紙巻きタバコが大量生産されている。


 赤線があるか無いかだけの違いだ。


「サツはともかく、ヤツラは勘付いているんじゃねえか? 検非違使はよう」と突く。


「確かに勘付いているかもしれませんが、取引の情報までは抜けてないと思いますが?」と答えるのだ。


「本当に行かなくてもいいんだな?」と最後通告を行う。


「お前らが生きて捕まったら、俺が殺しに行ってやる慈悲はねえ! それだけ覚えておけ!」と苛立いらだちをぶつけた。


 そしてまた深く静かに胴に赤線の入った、紙巻タバコを吸うのだった。

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