第3話
2035/11/15(木) 昼一時二十分
私は急ぎ、情報を整理していた。
市民病院の救急担当をしているときの事件で運び込まれた、折神のことだ。
タイミングが良すぎる、そう思っていた。
さらには兵庫県警から、合同捜査の依頼の話も込みで打診が来たのであった。
タイミング的には後手後手に回っているような気がするのだ、ウチの解析班に薬物鑑識の依頼が回るまでにかなりの時間がたっているはずであった。
だが本件のヤマは県警の領域ではあったため初動が遅れているものと思われた。
そして、ウチの解析班の出した返答である。
この薬物には
何本吸えば妖魔になるのかという問いに対して、解析班からは百本程度との答えが出たのだが個人差はあるらしくプラスマイナス十本ほど見ないといけないそうであった。
検非違使としては捨て置ける問題ではない、すぐさま人員を集めたかったが、男性陣にしか手を回せなかった女性陣は休暇中か出張中か学業の真っ最中であり直ぐには呼び出せなかったのだ。
そしてその薬物の形状は、どこにでもある紙巻タバコだったのだ、パッケージは黒に銀線二本であり銀のイーグルの形状が表面に記されているので多少は見分けられるかと思われた。
さらに県警のほうで調べた内容としてはワンパッケージ二十本で、一時的に体力と敏捷性が上がるという厄介な性能まで含まれているのだ。
しかも密売に気が付くまでに一ヶ月ほどかかってしまっているため、すでにかなりの数が出回っているという厄介な状況であったのである。
まだ妖魔化したという者は出てはいないが、一刻を争う案件だったため近畿圏の検非違使の各分署に檄を飛ばさざるをえなかった。
『黒いパッケージ(黒に銀線二本でありイーグルの形状が表面に記されている)の紙巻タバコを所有している者を取り押さえ、薬物所持法違反の罪で逮捕拘束せよ! 尚百本未満を吸っているヤツは対妖魔独房に入れること』という危険な檄になった。
それと各都府県警に、『このヤマは検非違使の管轄になる』という旨を通達した。
それと今集められるだけの人員を集めることにした。
2035/11/15(木) 昼二時三十分 検非違使神戸分署仮八課棟緊急指令室 加藤・他
偶々すぐに集められる人員は第七班の折神を除く男所帯、第一班と第二班しかいなかった。
「諸君緊急に集まってもらったのはほかでもない、『妖魔変化の
「緊急事態ってのは分かりましたが人数が少ないのでは?」と第一班班長
四月朔日は実直で真面目が服を着たような男だ、体力も敏捷性も武芸者に近く術も一種だが扱える、歴戦練磨の猛者の一人だ。
「人数は我々だけでなく各都府県警察、
「合同捜査班のほうにだが、すでに被害が一名出てしまっている状況だ。我々は、喧嘩を売られたのだ!」と続けた。
四月朔日が質問した「誰に被害が出たのですか?」と。
「合同捜査班の折神清志郎警部補だ、弾こそ抜けていたモノの全治三日といったところだ。彼は運が良かった、骨や内臓系には当たっていなかったからな」と答えた。
「売られた喧嘩はかわにゃ、いけませんな。緊急指令室に直接呼び出されたということは犯人のヤサが割れているのですか?」と四月朔日は聞いた。
「ヤサは今朝がた、警察が追ったが逃亡されてしまっている。まずはヤサ探しからだ、捜査専従班も神戸分署から出て捜査に当たっているところだ、我々も足で稼ぐぞ! まずは現場百遍からだ、解析第二班を昨日抗争が行われた場所にすでに投入した。一班は解析二班の護衛及び調査補佐役、二班は八課待機、七班は八課で情報収取を開始してくれ!」と私は一気にいった。
◇長良視点
大分状況は良くない方向へ転がっているらしい。
副課長も陣頭指揮で出張るくらいのヤマだということだ。
今日はいつもの明るいベージュ系のウール地ジャケットに、青色系のワイシャツと赤い色系のシルク地のソリッドレギュラータイではなく、医者専用の白衣を着て陣頭指揮を執っていたのだ。
こりゃあ、一波乱あるかなと思われる服装だった。
直接市民病院から仮八課棟に直に帰って来てすぐに檄を飛ばし、自らも集められるだけ人数を集めたといったところだろうと思われた。
いつもきれいに整えている黒髪も少し乱れ、ミディアムヘアが少し散っていた。
つまりなりふり構ってはいられない、という事態だと察することはできたのだ。
第一班班長四月朔日の発言にも、できるだけ丁寧に力強く答えている。
いつも
緊急手術の夜勤からの検非違使での昼勤だからであったと思われる。
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