第2話 魔王の存在

「お前、ほんと鈍臭いなあ〜。ほら、手出せよ」


「うっ、ひっく。あ、ありがと」


真っ黒な髪。

真っ黒な瞳。

古の時代より語り継がれる魔王と呼ばれる存在は、何故か黒髪黒目をしていたらしい。


そんな忌むべき黒をもって産まれた王子は、この離宮で静かに暮らしている。


俺は王子の乳母の息子で、いわゆる乳姉妹ってやつだ。


「お前はもっと要領よくならないとな。…そうだな…もっと狡猾になるんだ」


「…こうかつ?」


大きな瞳をウルウルさせながらこちらを見る王子は、純粋そのものだった。





「…そういえばさ。俺がお前に狡猾になれって言ったの覚えてるか?」


「こうかつ…」


「夕食の時にめちゃくちゃ顔を腫らした俺見なかった?」


「…大体パンパンじゃなかったか?」


「…違う。お前が思い出してるのは、ストレス太りした時の俺だ」



長い時間、俺とお前は一緒だった。

喧嘩したりふざけ合ったり、そんな普通の友人関係。

いや、もっと絆は深いかもしれない。



だからこそ、俺は勇者に選ばれた。


ちなみにあの後、王子になんて事を吹き込むのだと母にパンパンになるまで頬を叩かれた。

あの人…加減を知らないんだよな。



「…北方の、小さな村が…魔物被害に遭ったらしい」


「……」


「街の中で竜巻が起こったというものもあった」


「……」


「隣国では内乱が頻発しているらしい…なあ、勇者…」


「…変わらないよ。俺はやらない」



なあ、知ってるか?

過去の魔王ってさ、現れる時に必ず国が荒れてるんだぜ。

しかも決まって黒髪黒目。

まぁ、お前なら知ってても魔王になるかもしれないけどさ。


…俺は、1人に責任押し付けて殺すようなやり方、認められないんだよ…ごめんな。

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引きこもり勇者とアクティブな魔王 @listil

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