#4 絶対にNTRない彼女②
「すぅー、すぅー」
真桜ちゃんはベッドの上で可愛らしい寝息を立てている。
呼吸に合わせて、デニムワンピースの上からでも分かるぐらいの豊満な胸が上下運動をしている。
俺は真桜ちゃんを家に送る事はせず、ラブホテル連れて来た。
まさか、自分がこんな強姦紛いな事をするとは思っていなかったが、ちょっとぐらい大丈夫だろう。
諸先輩たちがこういった手口で女を無理やり犯しているって話は聞いた事がある。
最低で下劣な行為だと思っていたが、いざ、実際に自分がそれをする立場になると今までの倫理観や道徳心などは脆くも崩れ去った。
だって、これヤバくない?エロ過ぎだろ・・・
男を誘うような爆乳に、モデル顔負けの綺麗に整った顔面。
普段ゆったり目のワンピースばかり着ているから分かりづらいが、腰のくびれに、程よい肉付きのお尻。
めちゃくちゃ美人でスタイルが良くて、その上オッパイも大きいんだぞ? これは襲ってくれって言っているようなもんだ。
別に、最初からこんな卑怯な手を使いたいと思った訳ではない。
この大学に入学してすぐに真桜ちゃんを見かけた。
一目惚れだった。
こんなに綺麗な可愛い子がこの世にいるだ、と感動した。
俺と似たような事を思う奴も多く、入学早々、真桜ちゃんはちょっとした有名人になっていた。
様々なサークルと同好会から勧誘を受けていた真桜ちゃんだったが、その全てを丁重に断っていた。
入学して一か月もすればそんな勧誘の嵐は殆どなくなったが、一部のサークルの先輩たちはしつこく誘っていた。
その人達は所謂、ヤリサーに所属していて、どうしても真桜ちゃんに入って欲しかったみたいだ。
しかし、それでも彼女は頑なに誘いを断っていた。
さすがにそこまで断られたら、そのヤリサーの先輩たちも諦めていた。
ヤらせてくれない美人より、ヤらせてくれるちょっと可愛い子の方がいいのだろう。
でも、俺は違った。
純粋に真桜ちゃんが好きなんだ。
どれだけ断られても、誠意を持って迫ればいつか分かってもらえる。そう思っていた。
しかし、真桜ちゃんが俺に振り向いてくれる事はなかった。
挙句の果てには、私彼氏がいて、そういったサークルには入る気はないからこれ以上勧誘するのはやめて下さいと言われた。
ショックだった。けど、よく考えたら、これだけの美人をほっとく男などいない。彼氏ぐらいいても普通だ。
彼氏がいようが、アプローチするのはこっちの勝手だ。だから、俺は諦めなかった。
しかし、どうしてもサークルの勧誘一辺通りではどうする事も出来なかった。
そこで同じサークル仲間の柚希に目を付けた。
彼女は何故か他学部にもかかわらず、真桜ちゃんと仲が良かった。
そんな柚希は俺が別に所属しているフットサル部の一年後輩の
多少話が出来る仲までは進展しているらしいが、その一歩先にいけないみたいだ。
普段は男に媚びるように生きている柚希だが、牧原に対しては真剣で、慎重に行動している。
連絡先すら交換していないらしい。あの柚希が!?と思ったが、それだけ惚れているのだろう。
そこで俺の出番だ。
同じフットサル部の先輩である俺が牧原に声を掛ければ、遊びに出掛ける事も出来るし、連絡先を交換するなんて朝飯前だ。
牧原とは特別に仲が良いって訳でもないが、先輩の言うことなら聞くだろう。
あいつも高校までサッカーをやっていたと言っていたから上下関係の厳しさは分かっているはずだ。
大学に入ってまで真面目にサッカーなんてしたくなかった俺は、フットサル部ぐらいが丁度いいだろうと思って入部したが、最近はあまり参加出来ていない。
それでも、牧原が俺を忘れているって事はないはずだ。
そういう事情で俺は柚希と牧原の仲を取り持つ代わりに、柚希には俺と真桜ちゃんの仲を取り持ってもらおうと、今回の合コンを企画した。
真桜ちゃんはサークルの勧誘だけではなく、男がいる軽い飲み会ですら断っていたので、柚希に少し嘘をついてもらって、誘い出してもらった。
アルコールが入れば普段お堅い真桜ちゃんでも彼氏の愚痴や不満の一つや二つ出るだろうと思った。
完璧な人間なんていないからな。
そこへ優しく相談にのったりして、アドバイスでもしてあげれば俺にもワンチャンあるだろうという算段だった。
しかし、真桜ちゃんは頑なに酒を飲もうとしなかった。
全く飲めないって言っていたけど、どうやらそれは嘘ではなかったみたいだ。
初めは酔っぱらいたくないから、嘘で誤魔化しているのかと思ったが、酒の匂いだけでほろ酔い状態になっていたっぽい。
合コンが始まって三十分ぐらい経った頃から顔が紅潮し出し、瞼も重そうに閉じようとしていたのがその証拠だ。
最終手段として飲み物に”仕掛け”をしようかとも思っていたが、その心配はなかった。
まさか、ここまで酒に弱い人がいるとは思わなかったが、俺にとっては都合がいい。
それではやる事をやってしまおう。
酔って寝ている間の記憶なんて曖昧なものだ。もし覚えていたとしてもハメ撮り写真を撮って黙らせればいいだけだ。
俺は真桜ちゃんの上着を脱がせ、ハンガーに掛けた。
「ん? ポケットに何か入っているなぁ」
そこには使用用途が良く分からない小型のスプレーと黒い小型のスタンガンらしきものが入っていた。
「おうおう。物騒だね。でも、これだけ美人だと普段から暴漢被害とかあるのかねぇ。大変だ」
自分の事は棚にあげつつ、俺はトップスを全て脱いで、上半身裸になった。
「ゴムはどこに入れたかな~? えーっと・・・」
カバンの中に入れておいたコンドームを探しているが、中々見つからない。
「う~ん、探すのも面倒くさくなってきたなぁ。もう、生でいいっか。時間も惜しいし」
俺がカバンの中から手を引いたのと同時ぐらいに背中に気配を感じた。
パッと振り返るとそこには仁王立ちしている真桜ちゃんがいた。
「まじか~、起きちゃったか。まぁでも、やる事は変わらないけどな」
俺は焦りの気持ちなど微塵も感じていない。
女が力で男に勝てるはずないからな。
俺は真桜ちゃんの手首を掴もうと右手を伸ばした。
しかし、その手は空を切った。
「オラッ!」
俺は鳩尾に衝撃を感じながらそんな声が聞こえてきた。
えっ?! 何だ? 殴られたのか・・・?
俺の頭の上には大量の疑問符が浮かんだ。
この部屋には俺と真桜ちゃんしかいない。しかし、その声はどう考えても男の声だ。
野太いドスの効いたその声は到底真桜ちゃんから発せられたモノとは信じられない。
しかし、その声の主は俺ではないので、残る人物は彼女しかいない。
鳩尾の衝撃は不思議と痛みはあまり感じなかった。しかし、一瞬だけ少し呼吸が苦しくなった気がした。
色々な事が起こって俺の頭は今の状況を理解する事が出来ない。
「ま、真桜ちゃん・・・?」
「さんをつけろよデコ助野郎っ!」
今度は確実に五感で感じ取れた。
そのドスの効いた野太い声は紛れもなく真桜ちゃんから発せられていた。
何故そんな声を出せるのかは分からないが、俺のやる事は変わらない。
やぶれかぶれでもう一度真桜ちゃんへ手を伸ばした。
「お前には―――速さが足りないっ!」
俺は真桜ちゃんの手首を掴むどころか、逆にこちらの手首を掴まれてしまった。
そして、そのまま流れるように腕を捻られ、背中まで持っていかれ締め上げられた。
それと同時にひざ裏を蹴られ、思わず膝立ちになってしまった。
「あたっ!」
今度は妙に甲高い声が聞こえたと思ったら、胸の辺りに衝撃が走った。
「―――ッ! かぁっはぁっ・・・」
こ、呼吸が出来ない。な、ど、どうして・・・?
俺は必死に空気を吸おうと試みるが一向に入ってこない。
酸欠症状なのか、意識が朦朧としてくる。
数秒もすると体の力が抜け、俺はそのまま前のめりに倒れた。
横目に見える真桜ちゃんはこちらを見下ろしている。
「この魔王、全方位に一片の死角なしっ!」
真桜ちゃんはやっぱりドスの効いた野太い声で訳の分からない事を口走っているけど、その立ち居姿は洗礼されていて、不思議とカッコいいと思ってしまった。
そして、そこで俺の意識は途絶えた。
ε
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
私は今、肩で思いっきり息をしている。
フルマラソンを走ってもここまで疲れないと思う、走った事はないけど・・・
「と、とりあえず、助かったわ。 凛々子ありがとう・・・」
全ては昨日凛々子に貰ったあるモノのおかげ。
私はそのあるものを身に着けている。
それは人間拡張技術に基づいた自動防衛システム。名前は『守る君19号』。試作品の段階なので正式名称ではないらしいが、名前がないと何かと不便という事でとりあえず付けた名らしい。
人間拡張工学は
その技術を応用して、私の様な力の弱い女性なんかの為の暴漢、痴漢対策アイテムとしてエーエヌティーアール社が独自に開発している。
凛々子は高校を卒業後、大学などには進学せずにエーエヌティーアール社に入社して、技術開発部で働いている。
私が高校生の頃に色々エーエヌティーアール社の防犯グッズを持っていたのに興味を示して、独学で色々調べていた。
高校二年生の選択で、凛々子は理系を選んだ。
元々自頭が良かったのもあって、そっち方面でドンドン才能を開花させていった。
高校三年生の時にはエーエヌティーアール社から内定を勝ち取っていた。
本来なら高卒を採用することは滅多にないそうなのだが、凛々子の才能と情熱に惚れ込んだ技術開発部局長が無理やり押し通したらしい。
高校を卒業してからは忙しくしているみたいでたまにしか会えないけど、凄く楽しそう。
そして、時々、自社の試作品を私に貸してくれる。
凛々子は試作品の実働データが採れて、私はいざという時の助けになるのでお互い実益を兼ねている。
今回などその最たる例。
凛々子に渡された紙袋の中には箱に入った六つのシップみたいなシールが入っていた。
それを体に付ける事によって、シールの中に埋め込まれているナノレベルのチップが生体情報を読み取り、事前にプログラミングされた動きを行える。
シールは両腕の二の腕に一枚ずつと両足のふくらはぎの裏に一枚ずつ。後は腰の付け根と背中の首の付け根に一枚ずつ付ければいい。
かなり複雑なプログラミングが組み込まれているようで色々な場面に対応できるらしい。
まずその一つとして、『守る君19号』の起動条件に外的な害意や悪意がある。
人間とは寝ている状態や気を失っている状態でも五感はある程度働いていて、無意識下で感じた自分への敵意に反応して起動する仕組み。
これによって、泥酔状態で無理やり強姦される恐れはない。
私はこのシステムが発動した瞬間の記憶はないのだが、恐らく私が嫌悪を抱くワードを田ノ下が口にしたのだろう。
言葉や行動といったものが起動のトリガーになりえる。
そして、田ノ下がカバンを漁るのをやめ、こちらに振り向いた辺りから私の意識は覚醒した。
上半身裸の田ノ下が真っ先に視界に入ってきたのには寒気がしたが、『守る君19号』が勝手に私の体を動かしてくれる。
チップにプログラミングされている動きには主に合気道を元にした動作が組み込まれている。しかも、相手の動きに合わせてこちらも動いてくれる優れもの。
これがあればひ弱な女性で護身術の心得がない人でも、大の男の人を投げ飛ばす事が出来る。
しかし、相手が達人級の人だとその限りではないけど、心技体を極めたような人が女性を襲うなんて思いたくない。
『守る君19号』はあくまで、事前にトレースした動きをプログラミングする事によって再現できるシステム。
だから、私が『守る君19号』を使って、100mを全力疾走しても、オリンピック選手には勝てない。
どれだけ体を効率的に動かせたとしても、基礎体力と筋肉量に大きな差がありすぎるのが理由。
故に、格闘技のプロには恐らく勝てないだろう。
だけど、ただの大学生の田ノ下が『守る君19号』に勝てる道理はない。
田ノ下が私の手首を掴もうと手を伸ばしてきたが、私の体は勝手に翻り、田ノ下の鳩尾にパンチをお見舞いした。
その際、私の口から変な声が出た。
この声に関しては、凛々子の遊び心だと思う。
試作品の為、色々試したいのは分かるけど、私は全く要らない機能だと思う。
説明書には正確なこれの名称は『守る君19号・漢バージョン』と、書かれていた。
その機能は凛々子がチョイスした漫画やアニメのキャラクターのセリフや彼女が考えたオリジナルのセリフを発する事ができる。
無駄機能として、声質も変えているらしい。
私は全く要らない機能だと思う。
私のパンチ受けた田ノ下は眉を
当然よね。
泥酔してさっきまで寝ていた女の子の動きじゃないし、声も強面の男の人になっている訳だし。
でも、酔って寝ている無抵抗の人を襲うような最低な人には慈悲なんてない。
再び田ノ下が手を伸ばしてきたが、今度は逆にこちらが彼の手首を掴み、背中で捻り上げた。
ひざ裏を軽く蹴り、膝立ちにさせる。
そして、親指で田ノ下の肺辺りを突いて、呼吸運動を一時的に停止させた。
実際どういった武術を用いているのかは分からないが、合気道ではなさそう。
田ノ下はそのまま意識を失い、前のめりに倒れた。
その際、私はまた変な声を出した。
起動の原因の元を絶ったので、『守る君19号』がその機能を停止し、体の主導権が私に戻った。
しかし、運動音痴の私は普段から積極的に運動をしておらず、ゆえに筋肉量が足りないのだろう、使用後の反動として手足が震え、まともに立っていられない。
私はその場にへたり込み、肩で大きく呼吸をした。
呼吸の乱れは数十秒もすれば収まったが、体の震えはすぐに収まりそうもない。
『守る君19号』の護身術は相手を一時的に無力化するもので、対象を害する類のものではない。
だから、暫くしたら田ノ下は目を覚ますだろう。
今は呼吸運動を取り戻し、息をしている。長時間の気絶を促すような攻撃は後遺症を与えかねない。
エーエヌティーアール社は人体への配慮を欠かさないを信条にやっている。
しかし、その信条がこの状況だと、かえって私を追い詰めている。
この与えられた短い時間でこの状況を打破できないかも。
今すぐ、立ち上がって逃げ出す事も出来ないし、誰かに頼る事も・・・
その時、私の脳裏には昨日の凛々子の言葉とヒデ君の顔が浮かんだ。
「・・・・・・・・」
凛々子の言葉を家に帰った後も何度も反芻した。
私はずっと幼い頃の自分に囚われていると思う。
ヒデ君に守ってもらってばかりで、その所為で彼が傷ついて・・・
私はそんな自分が嫌で嫌で仕方なかった。
だから、自分一人でも立てるように強くなろうと思った。
でもそれ以来、ヒデ君に頼る事に恐れを抱くようになった。
また彼が傷つくんじゃないのか、全ては頼りない私の所為で・・・
それでヒデ君に嫌われるんじゃないのかと考えただけで、その恐怖でどうにかなりそうになった。
だから、高校生の頃の繫味君の一件もヒデ君には何も相談出来なかった。
私はどうしようもなく弱い。
でも、ヒデ君も凛々子もそんな私の心を見透かしているのか、いつも私に優しく声を掛けてくれていた。
私は、私は・・・
震える体を必死に動かし、どうにか自分のカバンの中からスマホを取り出した。
そして、通話履歴の一番の上の人物をタップした。
ワンコールですぐに通話は繋がった。
「―――ヒデ君、助けて・・・」
私は震える体で何とか声を絞り出した。
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