第34話 飛び越えて⑤
「こたえた‼」
エノーが方向転換して動き出したのを確認して、キースもおなじく船の進路を変更させながら後を追った。後にはモーリスさんの船が付いてきている。
「エノーが泳いでいく先に、必ずセリーナはいる‼」
キースの言葉に、クレアとイアバルは同意を示す。彼らと共に生活しているからこそ、信頼できる関係が構築されている。
オルカは頭が良い。一度覚えた音は忘れない。それに何より、ずっと一緒だった主人が吹いていたホイッスルの音だ。彼が聞き間違えるなんてことがないのは、ここにいる全員が承知している。
泳いでいく先を睨み付けていると、次第に視界が霞みがかってきた。海霧で周囲を覆われていて、行く先に注意しつつ進んでいく。先に進むと、徐々に視界が晴れて海の向こう側に船があるのを発見した。
「あれだ!」
「通りで見つからないわけだ。あの海賊はあえて視界が悪く座礁する可能性のある航路を進んでいたから、警備の目を掻い潜れたんだ」
「どうします⁉」
船を発見できたのは良いものの、これから先をどうしていくのかキースたちにはわからない。ここは警備隊に任せた方が無難だ。
「————なんだろう?」
クレアは船首のあたりに光り輝くものを見とがめて目を凝らした。海で培われた視界は、誰の言葉よりも信頼できる。
目を細めると、棒につるされたセリーナがいるのを視界におさめた。
「キースあれ見て‼」
「セリーナっ!」
おなじく目を細めたキースは殴られたのか頭から血を流している姿を捉える。しかも両手を縛られた上から、さらに縄で吊されて、今この瞬間に首を切られようとしている。
バン!とフレッドが威嚇射撃をする。
海賊がその音に気を取られている隙に、モーリスが細い縄に照準を合わせて猟銃を発砲した。弾は縄に命中し、セリーナは落下して甲板まで転がった。
「チッ!海に落としたかったんだが」
どうやら海に落下させて救助する算段だったのが、誤算で逆に甲板に転がってしまったらしい。こうなると直接乗り込んで救出するか、彼女が自らの足で海に飛び込むしか方法は残されていない。
セリーナは顔を起こしている。気を失っていないのなら、あとは彼女が飛び込むだけ。
「セリーナ!おまえの居場所はレナ島にある!おまえはもう〈渡しの部族〉の一員、島の人間だ!皆おまえの帰りを待ってる!だから信じろ!————飛び込め‼」
キースはありったけの力を込めて叫んだ。
セリーナの瞳はキースを捉え、目を見開いていた。そして我に返ると、甲板から海に向かって飛び込んだ。
キースも船から飛び降り、海中に沈んでいくセリーナに向かって泳ぎ出す。両手足を縛られている彼女の沈降速度ははやく、追いつけない。だが、エノーが彼女を咥えて水上に泳ぎだしたのを見て、自分も上昇を開始した。幸いそこまで深く潜っていなかったので潜水病を気にする必要はなかった。
エノーからセリーナを受け取ると、彼女の呼吸を確認しようとするがそれよりも先に彼女の瞳が開いた。
「————うれしかった」
キースがなにか言うより先に彼女が口を開く。
「まったく、おまえは人騒がせな奴だ」
結局、キースはいつも通りの調子で合わせた。ちょっとだけ、恥ずかしくて耳が赤くなっているのだけは見逃してもらいたい。
「セリーナ!キース!大丈夫?」
クレアの問いにキースは拳を突き出してこたえる。エノーも胸ビレをパタパタさせてこたえている。
————大丈夫、セリーナは無事だ。
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