第25話 恐怖の対象④

 フレッドは周囲を見回して切迫感に汗を流していた。


 自分が目を離していた隙にセリーナを見失ってしまい、捜しているのだが見つかる素振りがなく、彼女の身になにかあったのだろうかと不安になる。グラスを見たいと言っていたので、工芸ガラスが立ち並ぶ店のどこかにいるはずなのだが、セリーナの姿はない。もうすぐ日が暮れてしまい、店じまいをしている人たちがやたらと目立った。


「すみません、つばの広い帽子を被った少女を見かけませんでしたか?」


 とにかく聞いて回るしかないと考え、フレッドは手で彼女の背を示しながら店主に訊ねる。


「さあねえ、私は見ていないけど」


 女店主は片づけの手を止め、頬に手を当てて頭を捻るも否定する。


「おい!その娘さんならうちの商品買っていったぞ!」


 落胆しかけたところで、別の商人が横から割って入ってきた。


「ほんとうですか⁉それ、いつ頃です?」

「お昼過ぎだったよ。ほれ、このオルカ柄のグラスを買っていったんだ。あんた娘さんの保護者か?」


 セリーナと街に出たのは昼食後のことだったから、時間は間違っていない。


「はい。はぐれてしまって、まだ見つかっていないんです」

「おいそれはまずくないか。よし、俺も手伝おう」


 それから手分けして二人でセリーナを捜した。手伝ってくれる人が増えてくれるのはありがたかった。


「セリーナ、どこだ‼」


 フレッドは彼女の名前を呼んで探し回った。急激に沈んでいく太陽が夜の街へと誘っていく感覚に表情が硬くなる。


 しばらく名前を呼びながら歩き回っているとすすり泣く声が聞こえた。誰だろうと周囲を見回すと、暗がりに小さな子がうずくまっているのが視界を捉える。


「君、どうしたの?」


 一瞬セリーナかとも思ったのだが、寄ると彼女よりもいささか幼い女の子であるのがわかった。だが、ほっとくわけにもいかないのでやさしく少女に問いかけた。


「私の代わりに、お姉さんが連れ去られちゃったの。たすけてって言って回ったんだけど、相手にしてくれる人いなくて」


 少女は嗚咽混じりにこたえると、わっと泣き出した。


「それ、つばの広い帽子の女の子だった?」


 フレッドは再度質問を投げる。


「うん。金髪のきれいな女の人だった」


 少女の返答に心臓が飛び上がる。彼女が言っているのはセリーナのことだ。


「————怖いだろうけど、その場所教えてもらえる?」

「……わかった」


 泣き続けて落ち着きを取り戻した少女は立ち上がり案内をした。

 陽光がなくなり夜の街と変貌を遂げた裏路地は、暗澹とした未知の世界へとつながり恐怖の沼へと誘っているみたいだった。


 途中、隅に帽子が落ちているのを発見する。フレッドがセリーナへと渡した帽子だ。


「ここです」


 少女が告げた場所周辺を隈無く観察する。彼女が何に巻き込まれたのか、手がかりをできるだけ掴んでおきたかった。


 角の一角に包みが置いてある。そっと中身を開くと、オルカ柄のグラスが四つ丁寧に梱包されていた。


 フレッドは急いで立ち上がり、少女を連れて裏路地を出た。


「旦那!どこ行ってたんだ。ってそれは娘さんが買っていったグラスじゃないか」


 商人は胸に抱えている包みを見て言った。


「裏路地で見つけました。申し訳ありませんがこの子を連れて、一時帰宅します」

「帰宅って、どうするつもりだ?これは人攫いだぞ」

「俺はモーリスさんの知人ですので。事情を説明します」


 商人は目を丸くしてから、口の端を上げる。


「旦那、総元締めの知り合いか。なら俺も連れていけ」


 疑問符を浮かべたフレッドに商人は名乗りを上げる。


「俺はドミニク島治安機関の警察官、シャモルダだ。底辺警察官だが、機関の人間がいた方が話を進めやすいだろ?」

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