第21話 ドミニク島への渡航⑤

 フレッドさん一家以外の人と、こうして一つ屋根の下で夕食をいただくのは新鮮な気持ちになる。レナ島で出される麦飯が基本かと思いきやパンが食卓にならんでいたり、魚よりも肉がメインに出されていたりと、久しく口にするものばかりだった。


 セリーナは料理を手伝い、食卓に並べる準備をやらせてもらいながらモーリスさんの余談に耳を傾けた。驚いたのは、モーリスさんは港でも顔が利く人らしく、ドミニク島の治安を維持する人たちとも顔見知りとのこと。若い頃は悪人集団を一人素手で卒倒させる離れ業も持っていたとか。ただ、彼自身真珠を扱う職人としての姿が本業なため、手を痛める危険性がるのを危惧してすぐ引退したらしい。


 モーリスさんは人を飽きさせない話し方をする人で、セリーナは夢中で聞き入っていた。港に到着してすぐ話しかけてきた男性の言う印象とはまるで異なる人で、逆に好印象な人物だった。


「モーリスさんってすごい人だったんですね」


 夕食と風呂を終えて寝支度をしていたセリーナはフレッドにつぶやいた。

 部屋のベットは一つしかないので、話し合った結果セリーナが使用させてもらうことになり、その隣にフレッドが布団を敷いて寝るかたちとなる。


「ああ見えてもここ近辺の総元締めだからね、彼の右に出る人はそういないよ」


 フレッドは笑いながらそう言った。


「最初に聞いた人柄とは違いますね。やさしいおじいさんって感じで」

「はっはっは。まあ誰にでもやさしいわけではないけど、まっとうに生きてる人には味方になってくれる人だね」


 彼の言う意味がわからなかったセリーナは首をかしげる。


「世の中お金を得るためには戦術が必要だ。言葉を巧みに操る術もその戦術の一つ。戦術を正道な道で使っていたら、それは道理のある生き方になる。だが、道理を外れた近道を無理矢理こじ開けて通ろうとする悪人もいるのさ」


 ドミニク島での犯罪の横行を示しているのだ。治安機関と交流を持つモーリスさんならば、そういった対応をするのもうなずける。


「……じゃあ港で会った人はそうじゃなかったってことですか?」

「ああ、彼はしょっちゅう馬鹿騒ぎをして灸を据えられているだけだ。漁師は豪快な性格を持つ集団の集まりだからな、羽目を外しすぎて手に負えなくなったところに喝を入れられてるんだよ。彼らにはモーリスさん説教がなによりの薬だからね」

「モーリスさんが怒ってるところ、想像できないですね」

「本気の怒声はどの漁師にも引けを取らないぞ」


 笑って言うフレッドさんの声色は敬慕が含まれていた。モーリスさんへの信頼度合いが如実に伝わってくる。


「もう寝よう、明日もはやい」


 フレッドは部屋の灯りを消した。


 セリーナもベットへ横になって目を瞑る。レナ島へ来てから、フレッドさんと二人だけで会話をする機会がなかったので、こうして一対一の会話は初々しい気持ちなった。彼との談話は心地よく、改めてフレッドさんと出会えて良かったと感じた。

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