第17話 ドミニク島への渡航➀

「セリーナ、一週間後ドミニク島へ一緒に渡らないかい?」


 島民総出の浜揚げ作業が終わり、再び島での日常をこなしていて幾日か経過したある日、ようやく島以外の場所へ赴く機会が舞い込んだ。


 セリーナはここ数日間、キースからのスパルタ教育により、もとの国のことを考えている余裕すらなかったのだが、フレッドからの提案を受けて、そういえばまだ島以外についてなにも知らないことに気付く。心身に余裕がなかったのもあるが、これは無意識のうちに避けていたのもあるだろう。


「え?なら、あたしもついていく!」


 フレッドの誘いを同じく隣で聞いていたクレアがいち早く手を挙げて主張をし始める。


「クレアは駄目だ。二人一緒に面倒見切れないし、あそこは犯罪が頻発していると知っているだろう?ただでさえセリーナは外見が目立ってしまうし」


 父親からの一蹴を受け、あからさまに落ち込むクレア。


 セリーナは以前クレアがドミニク島は観光資源があるけれど、その代償として犯罪が多いと言っていたのを思い出す。そのような日に焼けた肌の人が多い町中に、一人だけ異色の人種なんて混じっていたら恰好の餌食になり、トラブルを招くのは想像に難くない。フレッドは危険になる可能性があるのを百も承知で自分を同行させてくれようとしているのだとわかった。


「一緒に行っても良いんですか?」

「仕事のついでに、知り合いや店を回って情報収集するのも悪くないと思ってね。それに、セリーナはこの島の外を知らないから、息抜きついでに知っておく必要だってあるだろうからね」

「……わたし、ドミニク島へ行ってみたいです」


 セリーナは逡巡したが、フレッドの好意に甘えることにした。狭い空間だけでは視野が狭くなってしまうだろうし、なにしろ自分自身が城にいた頃とあまり変わらない知識量で、俗に言う世間知らずな状態のままだ。国に帰る帰らないの問題よりも、まずは外の世界を体感するのも必要だと感じた。


「よし、それなら約一週間分の宿泊の用意だけしておいてくれ」

「わかりました!」


 セリーナが返事をすると、フレッドは仕事のために家を出てしまった。


「ねえ、父さんと本当に行くの?」

「う、うん。せっかくフレッドさんから誘ってもらったし、チェヴェノ王国やレヴィル諸島について学んでおきたかったのもあるから」


 意気揚々と同行を求めていた表情から一変し、珍しく不安そうな顔をしたクレアに眉をひそめる。


「どうかした?」


 セリーナがそう問いかけても「なんでもないよ」と言い張るクレア。しかし、彼女は言葉よりも表情で語る場合が多い。彼女の表情は陰りを見せたままだった。

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