第3話 最端の島➀
「ふんふーん」
その日、クレアは朝日の昇る砂浜を機嫌良く散歩していた。胸元にある黒光りするホイッスルが目映い光に反射している。遠浅の砂浜の向いから顔を覗かせる太陽は、太陽までの道のりを示しているみたいで、そのまま走って行けば触れることができてしまうのではないかと錯覚してしまう。クレアはエメラルドグリーンの景色をうっとりと眺めた。
しばらく耳を澄ませていると、遠くからこの島に定住しているオルカたちの鳴き声が風に乗って聞こえてくる。今日はやたら賑やかにコミュニケーションを交わしているようだ。
クレアは散歩だけに留めておこうと思っていたのだが、彼らの声を聞くと、いてもたってもいられなくなり、早々に岩礁から波の綾に飛び込んだ。
深く潜ってから浮上すると、ホイッスルを手に取り勢いよくピイッと息を吹き込む。すると一頭のオルカがすり寄ってくる。
「おはよう、ピオ!あたしがいなくて淋しかったでしょ?」
クレア彼の頭部をなで回した。ビィッと鳴いてすり寄ってくるこのしぐさがたまらなく愛おしい。
ピオはクレアにとって海での相棒だ。海に出るときは、理由がなければ必ず彼を連れているくらい、信頼している。
しばらくピオと戯れていると、数頭のオルカたちがクレアを囲んでいた。
「皆でお出迎え?でも、あたしが遊んでたこと、父さんたちに言いつけないでよ。怒られちゃうから」
笑ってこたえていたが、そのうち一頭がクレアの背中をとんと押すしぐさに疑問を持った。キュイと数頭が鳴いている。
「どうかした?」
ビュイーと近くからではない声が小島の方から聞こえてくる。どうやらそこにいるオルカとやり取りしているらしい。
「もしかして小島になにかあるのかな?」
人が住んでいない小島に無断で立ち入る輩がいるのは知っている。その度にオルカが教えてくれるのだが、警戒するときのような音を発していないあたり、違うのだろう。
クレアは手でサインすると、ピオの背びれを掴んで一気に小島まで向かう。
砂浜で一旦彼の背中から降り、辺りを見回した。異変という異変を森を中心に観察していたため、すぐ近くにあるものに気付くのが遅れた。
人影が砂浜に倒れている。
肩が開いていて、とても高級そうな服装を纏っている少女だ。波打ち際に裾が濡れ、ユラユラと漂っている。
クレアは目をこすった。
今日に限って早起きできたというのもあり、寝ぼけているのかもしれない。それに、今日に限ってゴーグルなしで海に入ったのも原因だ。幻覚でも見ているのだろう。
クレアは抜き足差し足で少女に歩み寄る。呼吸を確認すると、かすかに息が手に当たったので、生きているらしい。
クレアはある物語を思い出す。
これは……
「に、人魚だ————‼」
叫び声に似た悲鳴は、ザザーンという風浪によってかき消された。
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