勉強の始まりと神様 


  私は今、フェシュナインドの部屋にいます。

 そこで、勉強をする予定です。


「ねえ。フェシュナインド。」

「どうした。」


 フェシュナインドは紅茶を用意する手を止めて、こちらに振り向く。それと同時に、不思議な色をしている髪が鮮やかにきらめき、さらさらと揺れた。

 ・・・ほんっと、いつ見ても何をしてても、羨ましいくらいに美しくて綺麗。瞳はまるで心を見透かしているようだし。私にも少し分けてほしいくらいだよ。

 しかしそんなことを思っても、虚しくなるだけで私が美しくなるはずもない。

 

「なんだ?そんな目で見て。」


 どうやら、知らない間にジトーとした目をしていたようだ。


「何でもない。それより今日から、何を教えてくれるの?」

「君はこの世界の形は知っているはずだ。アトランティスから聞いた。だから今日は、身分がどのように分類されているかと、貴族学院についてだ。」


 私の前に紅茶を置き、話始める。


「まず、身分の分類の仕方だ。平民と貴族を分けるの違いは、能力があるかどうか、魔力を制御しなくてはいけないかで別れる。」


 ・・・へえ~。この世界に来た時にできた疑問が一つ減ったね。でも、魔力の制御って?

 私のそんな疑問を心を見透かしているかのように、フェシュナインドは微笑んで口を開く。


「能力がある程度の魔力を持つ者たちは、成人までに魔力をコントロールできるようにならないと、己の中にある魔力が暴走して苦しみ、死んでしまうのだ。」

「ふうん。って、えっ!!そうなの!?」

「ああ。」


 フェシュナインドが何とでもないようにそう言う。


「でも、もし平民の中にそんな魔力の人間が生まれたらどうするの?そのまま死んでしまうの?」

「それについても話すが、そのような子供、めったに現れはしないのだ。」


 彼の説明によると、そもそも生まれてくる子供の魔力量は、皆一様に両親の魔力量を足して2で割った数字の前後らしい。ごく稀に、両親の魔力量を大きく上回る子供が生まれるが、その場合はその魔力量にあった家系へと養子として入るそうだ。しかし、平民はやはり貴族へとなることはできず、死んでしまうという。


「そのため、この世界では婚姻の際のお互いの魔力量がとても重要視される。お互いができるだけ近い魔力量の持ち主と結婚するのだ。ちなみに私は、そのごく稀に現れる子供の一人だ。私の魔力量は両親を大きく上回っている。」

「そうなんだ。じゃあ恋愛結婚はないの?」

「いや、あるにはある。少ないがな。大体は二通りあり、懸想した相手が近い魔力量の持ち主だった場合と、周りの反対を押し切り懸想した相手と結婚する場合だ。ちなみに、アイガスティーとオトゥリーナ様は後者だな。オトゥリーナ様は他領の中級貴族なのだ。当然、魔力量は釣り合っていない。」


 ・・・魔力量か。なんだかそれだけで仕切られるなんて嫌だな。


「身分っていうのはいったいいつできたの?」

「それについては、貴族学院の話に合わせて話す。」


 フェシュナインドは紅茶を一口飲む。私もすっかり冷めきってしまった紅茶で口を潤す。

 

「貴族学院の話をするにあたって、この国の歴史、創世物語から話そうと思う。」

「この国の歴史?」

「そうだ。この空の彼方に浮く大地の始まりから話す。」


 ・・・初めて聞いたときは衝撃だったな。大地が宙に浮いているなんて。まあ、神の箱庭から出たこともないから、本の中で読んだだけだし、本当の意味で世界を見たことはなかったけど。

 

「この世界はもともと、空に浮いてはいなかったのだ。」

「そうなの?」

「ああ。はじめはちゃんとすべての大地がつながっていた。だがある日、一つの小さな木が生まれ、初めの小ささは幻だったのではないかと思うほどに、大きく育った。すると、ある日突然その大きな樹は、周りの地面をも巻き込みながら、空の彼方へと消えた。そこにいた多くの人々も一緒に。巻き込まれ消えた大地は、もともとあった場所に大きな穴をあけたと言われている。」


 ・・・すごい...。思ってたよりもずっと壮大な話。

 私がその話に夢中になっているのに気づいて、フェシュナインドは眩しそうに目を細め、微笑んだ。


「そこにいた人々は、とても驚き、会えなくなってしまった大切な人のことを思い泣いたそうだ。今まで繋がっていた大地は、ひび割れ16個に分かれていたし、空と地上とで引き離された者たちもいた。しかし、人は強かった。絶望から立ち直り、明日を生きるために再び歩み始めたのだ。そんな生活を続けているうちに、人々は自分の体に異変が起きていること察した。そう、魔力が生まれたのだ。人はその強大な力を使いこなすことはできず、皆17を越えたころくらいに、苦しみ死んでいった。」

「っ。」


 悲しみに顔を思わず歪めると、私を安心させるように彼は笑う。


「だが、その世界に一筋の光が差し込むのだ。」

「光?」

「ああ。人々にとっては希望の光ともいえる存在が現れるのだ。」


 フェシュナインドは、再び紅茶を飲む。たくさんしゃべっているから口の中を潤しているのだろう。


「その人物は、年若い一人の男だった。その男もまた少しすれば、17を迎えその顔を苦しみで歪ませる運命にあったのだ。そんなある日、その男は大樹、後の『ウェルトバウン』に花が咲いているのを目にする。それはそれは美しい花だった。星の数よりもたくさん花は咲き誇っているように見えるのにもかかわらず、男はその中にある一つの花に手を伸ばす。すると、その花はまるで、主を見つけたかと言わんばかりにその者の手に落ちてきたのだ。その男は自分の心に従い、その花を飲み込んだ。すると魔力の制御ができるようになった。」

「へえ~。お花を食べちゃったんだ。」

「ああ。その男は、魔力を制御する術を知り、人々に教えた。そして男は、制御できるようになった魔力を使い、16個の大地すべてを繋げるために魔方陣を作り出す。その魔方陣は今でも使われているのだ。しかしその魔方陣を作ることができるものはもう今は存在しない。男は、その功績をこの国に住まうすべての人々に、称賛され、初代王となった。その王がこの国に『ブディエックウェルト』、という名をつけ、身分と法を作った。」


 ・・・なるほどね。つまり初代王はすごい人なんだ。貴族学院っていうのも、この人が作ったのかな?

 私が疑問をそのまま口のすると、フェシュナインドは満足そうな顔で答える。


「ああ、その通りだ。さすがだな。貴族学院も初代王が作った。ここからは、本題の貴族学院の話だ。」

「うん。教えて。」


 フェシュナインドが姿勢を改めて伸ばすのにつられ、私も背筋を伸ばす。

 フェシュナインドの話によると、貴族学院はその名の通り、貴族の行く学院であり、成人式もそこで行うようだ。


「貴族学院が開いているのは冬だけだ。先ほど言った魔力を制御するための花が咲いているのが冬だからな。貴族の子供たちは15歳の冬に貴族学院に入学し、春に領地へと戻る。そして再び冬に貴族学院へと戻る。それを17歳、成人するまでするのだ。習うのは、基本魔力の制御の仕方などの実技ばかりで、座学に関しては試験しかない。座学は皆、貴族学院に入るまでに何年もかけて習うのだ。」


 ・・・そうなんだ。......うん?ということは、私はその何年もかけて行う教育を一年ちょっとで終わらせなきゃいけないってこと!?

 私がだらだらと冷や汗を流していると、目の前にいる麗しい少年は「ふぅ。」と息を吐いた。

 そしてにっこりと、完璧すぎて精巧な人形のようにも見える笑顔を浮かべた。その笑顔は、川の水面に反射した太陽の光のように、暴力的なほどに美しく、キラキラと輝いていた。

 ・・・ま、眩しい!!目がつぶれちゃうよ!!


「聡明な君にはもう理解できているとは思うが、これから一年と少しの間で、君のそのとっても物わかりのいい頭に知識を詰め込んでいく。私と一緒に頑張ろう。」

「そんな殺生な!!非常識なほどの頭を持つ、天才さんには私、どうやったって追いつかないよ!!私一般人だもん!!」

「君は一般人か?私と同じく非常識な存在だと思うが。」

「う、うぅ。」


 ・・・私が非常識な存在であるということに関しては反論できない。

 でも、私はそれ以外を除けばごくごく普通の一般人だと思う。少なくとも目の前にいる少年と比べたらだけど!!


「わ、分ったよ....。で、でも!!頑張ったらご褒美を頂戴!!」

「褒美か。いいだろう。しかし何を君にあげればいいのだ?」

「そ、それは...、それはその時に決めるから!!約束だからね!!」


 フェシュナインドは静かに頷く。なんだか慌てている私が阿呆みたいだ。

 私が自己嫌悪に陥っていると、彼が私に話しかけてきた。


「アインス。今日のようにすることが終わったら、私も質問してもよいか?」

「質問って神の箱庭のこと?」

「ああ。まあ、それ以外にも聞くかもしれないが。」

「いいよ。別に減るものじゃないもの。」


 フェシュナインドは私のその言葉を聞き、礼を言った。


「では、一つ聞きたいことがある。君の世界の神々たちはどのような姿をしているのだ?」

「神様たち?う~ん。大体は人型かな。でも、時々来てた,八百万の神とかは、動物の形をしている神様もいるよ。例えば、龍とか。」 


 そう。神の箱庭には本当にたくさんの神様がいた。それに、‘‘本‘‘の世界とは言え、神様であるから、箱庭の神様に呼ばれることもあったし、もし呼ばれたら、箱庭に来なくてはいけない。位の順番は、箱庭の神様の方が上だから。箱庭の神様に関しては人型ばっかりだった。私が‘‘本‘‘(あらゆる世界の歴史)で知った、日本っていう国の服装、今私がいる世界の服装と似た服など、いろんな服装をしていた。だから、本当にたくさんの、多種多様な柱たち、神様たちが入り乱れる世界だった。

 私がそれを伝えると、フェシュナインドは満足したかのように頷いた。

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