閑話~朝の私~


 「ふあああぁぁ。」


 欠伸をしながら伸びをする。

 早朝の澄んだ空気が気持ちいい。

 私は寝台から出て、いくつか扉を開けると調理室に入る。

 ケトルを取り出し、お湯を沸かす。そして、昨日のうちに持ち運んでもらった朝食を並べた。

 お湯が沸けるまでは、手先を動かすために、楽器を演奏する。毎日弾かないと、腕がなまってしまうのだ。

 シュテマーエンゲルという楽器だそうだ。初めて聞く楽器だけれど私は弾ける。なぜなら、音楽を愛する芸術の女神が持っていた、ディタルハープと全く同じ形をしていたのだ。

 私もよく付き合わされたから、楽器はいろいろと弾ける。

 ・・・そろそろお湯が沸いたころかな。


「さてと...。」


 私は楽器を置き、紅茶を作りに再び調理室へと戻った。

 テーブルの上に朝食のセットを並べると、椅子に座って『いただきます』と言う。

 神の箱庭ではなかった習慣だった。いただきますの意味は、この料理を作るにあたって命を絶たれた動植物と、食材を作った人と料理をした人への感謝の心だそうだ。

 食事をするにも、細心の注意が必要だ。カトラリーを使うときは、音を立ててはいけない。そして、できるだけ優雅に美しく、動こうと心掛ける。できるだけ早く、貴族としての常識と、大領地の領主候補生としての自覚を身につけなければいけない。

 ・・・まあ、側近を退けてる時点で貴族とは程遠いか。

 私は食事を終え、今度は服を着替えるために、部屋の外にいる不寝番に声をかける。貴族女性の服は、一人では着ることができないのだ。


「アインゾーネ様。お目覚めになられましたか。」

 

 不寝番が私に気づく。今日の不寝番は、昨日筆頭側仕えとなった、ベネディクタだ。不寝番は、筆頭側仕えであるベネディクタと、昨日の夜、追加でつけられた3人の側仕えたちが交代でしている。


「ええ。服を着替えるから手伝ってほしいの。」

「かしこまりました。」


 ベネディクタは、私にどんどん服を着せてゆく。

 ・・・やっぱり、‘‘プロ‘‘はすごいね。

 そうして服を着ると、ベネディクタは空の食器をもって腰を落とし礼をして退いた。

 

「ふう。確か今日から、勉強が始まるんだよね。時間は8時から。」


 どこかで鐘の音が聞こえる。おそらく7の鐘だろう。この世界では、一時間ごとに鐘の音が鳴るのだ。その鐘はこの領地のどこかにある、神殿にあるそうだ。

 私は8の鐘が鳴るまで、のんびりと楽器を弾いたり、紅茶を飲んだりして休んだ。

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