夕食会と側近

  それぞれが、好みの紅茶を飲みながら黙っている。

 ・・・そういえば、ギルベアトって誰だろ?話の内容的に養父様のお兄さんだと思うけど。

 そんな疑問を解消しようと私は問いかける。


「ギルベアト様とは、いったいどなたでしょう?わたくし、幼いころのことは覚えていないのです。」


 ・・・うん。嘘は言ってないよ!!だって本当に、神の箱庭にいた頃も幼い時なんて知らないし、3歳のころからの記憶しかないもん。

 私の言葉に、ハリエットは悲しそうに顔をゆがめ答える。


「ギルベアト様は、ショフテン様のお兄様です。ショフテン様たちが次期領主の位を決めるため話し合っていたころ、名もなき貴族に妻と一緒に殺されてしまったのです。ギルベアト様の妻であるガブリエル様が子供ができたっと仰っていましたが、あなたのことだったのですね。そういわれてみれば似ているところがあります。ギルベアト様の瞳も闇のように濃い青色でしたから。」


 しんみりとした空気を入れ替えるように、イーノフォンゾが話し始める。


「私もその時、次期領主候補となっていたのだ。しかし私は特になりたくもなかったため、上級貴族で昔から騎士を輩出してきた家系である、リターマルダ家に婿入りしたのだ。さあ、晩餐を始めようではないか。」

「ああ。そうだな。」

「ええ。そうですわね。」


 晩餐を始めようという声に賛同するように空気が入れ替わってゆく。

 側近の一人が今日のメニューを読み上げた。

 ・・・ん~。よくわかんないけど。フレンチのフルコースと一緒なんだね。私の知らない呪文のような名前も並んでいるけど。確か、ジャガイモとかにんじんとか、そんな私の知ってる食べ物の名前も変わってるし、追々覚えていかないとね。

私が脳内のリストにやることを加えていると、アトランティスが口を開く。


「さて。来週の春を祝う宴についてだが、まずアインゾーネ。其方がギルベアトの娘であり、領主一族へと戻ったということを貴族たちに伝えようと思う。後はいつもと同じだ。フェシュナインド。アインゾーネには詳しく何を行うか、教えてやってくれ。」


 ・・・あっ。フェシュナインドが教えてくれるんだね。

 フェシュナインドは、カトラリーを置く。


「かしこまりました。アトランティス様。」

「うむ。いい返事だ。よいか?アインゾーネは其方の弟子であり妹だ。しっかりと師匠としての、そして兄としての責務を全うするのだぞ。」

「承知いたしました。」


 そのあとも談笑が続き、今は食後の紅茶を楽しんでいた。

 ・・・そういえば、さっきはそれどころじゃなかったけど、フェシュナインドは武術にも秀でてるのかな?後で聞いてみよ。でも本人は絶対、謙遜するから誰か別の人に....

 私がそんなことをボーと考えていると、アイガスティーの筆頭側近だと思われる人が前に出てきた。


「アイガスティー様。そろそろ....。」

「ん?ああ。もうそんな時間か。ラウセンド、キャロライン。其方たちはもう下がりなさい。寝る時間だ。」


 ・・・寝る時間?幼い子は、寝る時間も決まってるの?

 私が不思議に思っていると、隣に座っていたフェシュナインドが、私にそっと耳打ちする。


「7歳までの子供は、8時までに部屋に戻るのが決まりなのだ。7歳までという区別は、社交界に出られるようになる歳だからだ。」

「へえ~。そうなんだ。」


 二人でこそこそと話していると、キャロラインが私の前にやってきた。


「あの、お姉様。」

「はい?どうしましたか?」


 キャロラインが上目遣いで、私に話しかける。


「今日はあまりお話しできなかったので、また今度お茶会をしませんか。」


 あまりの可愛さに思わず私が答える。


「ええ。もちろんいいですよ。」


 ・・・痛っ。ちょっ、はたかないでくださいよ。

 私の太ももをフェシュナインドがはたいたのだ。

 ジトーとした視線を向けても、知らん顔だ。

 ・・・ええ。言いたいことはわかりますよ。即答してはいけない、ですよね。言質を取られるなって。


「ありがとうございます!!お姉様!!」


 キャロラインはそういうと、扉の向こうに消えていった。

 ・・・あぁ。本当にかわいい。


「ふふ。アインゾーネはキャロラインにすっかり懐かれていますね。親としてはなんだか羨ましいです。」

「うむ。そうだな!!」


 オトゥリーナの言葉にアイガスティーが頷く。

 そんな和やかな雰囲気を切り裂くように、ショフテンが口を開いた。


「さあここからは、最近現れるようになった不審人物についての話だ。」


 ショフテンの真剣な表情に自然と背筋が伸びる。


「不審人物は、すべてとはいかずとも捕らえ牢につないでおいた。アトランティス、イーノフォンゾ。その後、何か情報は入ったか?」


 そう問いかけられ、アトランティスはイーノフォンゾに視線を向ける。するとイーノフォンゾが話始めた。


「捕らえられた不審人物を拷問し、情報を引き出そうとしましたが皆一様に情報を口にしようとしたら、腹部からたくさんの針が出てきて爆発し、死に絶えました。一人、何者かに助けを求めたものがいました。」


 ・・・こ、こわっ!爆発?針?すごい痛そう。ていうか、拷問?なにそれ?

 悔しそうにイーノフォンゾは顔をゆがめる。

 それを見たアイガスティーがイーノフォンゾをねぎらう。


「なるほど。イーノフォンゾ。しかし、よくやった。」

「ええ。そのような、魔術が存在するということが分かっただけでも進歩です。」


 アイガスティーに続きハリエットもそういう。


「しかし、いまだ背後が分からぬ。これからも何が起こるかわからぬゆえ、皆気をつけるように。」


 皆がその言葉に頷いた。


「それからアインゾーネ。其方の側近をつけることとなった。出てきなさい。」


 ・・・側近?やっぱりいるの?じゃあなんでフェシュナインドは側近がいなかったんだろう。

 私が疑問に思っていると、側仕えのお仕着せを着た女性と、簡易鎧を付けた騎士が二人出てきた。

 そして、順番に挨拶してゆく。


「お初にお目にかかります。今日からアインゾーネ様の筆頭側仕えとなりました、ベネディクタと申します。よろしくお願いします。」

「お初にお目にかかります。今日からアインゾーネ様の護衛をすることになります。レオナルトです。これからよろしくお願いします。」

「お初にお目にかかります。今日からアインゾーネ様の護衛騎士となりました。エリザベートです。よろしくお願いします。」

「ええ。これからよろしくお願いします。」


 ・・・ええと。側仕えのベネディクタと、護衛騎士のレオナルトとエリザベートね。

 側仕えのベネディクタは、30から40くらいの年齢で、レオナルトとエリザベートは私と同い年か少し上くらいだと思う。

 するとフェシュナインドが近くにやってきた。


「レオナルトとエリザベートはイーノフォンゾの子供で、リターマルダ家の人間だ。リターマルダ家は、代々領主一族に仕える、優秀な騎士を輩出してきた。」


 ・・・へえ~。そうなんだ。イーノフォンゾの子供ってことは、設定上は私のいとこにあたるのかな。


「さて、そろそろ我々も終わりとするか。」


 ショフテンの声を終わりとして、夕食会は無事?終わった。




 ~ところ変わって、部屋へ戻る道のこと~


「あの......。フェシュナインド様。」

「どうしましたか?」


 私はフェシュナインドの耳元に顔を持っていき、袖で口元を隠す。


「側近って、退けることはできないの?正直言って、めんどくさいし鬱陶しい。」

「まあな。別に退けてもいいのではないか。最悪人前に出るときだけ、体裁を整えればよいのではないか?」

「そうだよね。私もそれでいいと思う。」

 

 と、いうことで、私は側近を普段は退けておくことにした。もちろん、ばれないように口止めはしたよ。

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