運命の出逢い
私が『アインス』から、『アインゾーネ』になった日からはや数日。
私は今、領主一族が住むとてつもなく大きいお屋敷のお庭にある木の上にいる。そう、木の上だ。木、とはいってもウェルトバウンじゃない普通の木だけどね。
あの日、私がこの世界に来た日のこと。実はあの後、私が異なる世界から来たことを話したのだ。それと、他にも話をした。
ーーーーーーーー
【ちなみにアインゾーネ。其方のことを、ほかの者にも話してよいか?】
【ほかの人、ですか。】
【ああ、心配しなくともよい。限られた人だけだ。王とこの領地の領主、それから一人の領主の息子だ。】
・・・王と領主はわかるけど、領主の息子?
私が不思議に思っていると。
【すまないな。あ奴だけは、このことを教えずとも其方の真実にたどり着いてしまうと思うのだ。それを考えると後から真実をばらされてしまうよりも、最初から教え、口外することを禁ずると契約で縛ってしまうほうがいいと、考えたのだが。】
アトランティスは難しそうな顔でそういう。
【そ、それなら、そうしていただけると嬉しいです。でもどうして私のためにそこまでしてくれるのですか?】
【其方は正当なる領主候補生だ。まあ、一番の理由はこの世の中の混乱を防ぐためだが。】
・・・なるほど。私という‘‘イレギュラー‘‘で、世を乱したくないのか。でも私が領主候補生かぁ。なんか実感わかない。私は今まで司書だったから。人に仕えられる立場じゃなくて、人に使われる立場だったし。
【それと、淑女の一人称はわたくしだ。】
【申し訳ありません。以後、気を付けます。】
【わははは。いいのだ。いいのだ。世界の常識が違うだろう。それに、ほかの言葉遣いは完璧だしな。】
・・・わたくし、だね。覚えた。
—―――――
・・・っていうことがあったんだよね。
けど、言わなくても自分で真実に気づいてしまうって。とんでもなく賢い人なんだなぁ。
「んんー。疲れた。よしそろそろ。」
そう言いながら私は木の上で立ち、伸びをする。
するといきなり、強い風が吹いた。
「あっ。」
あっ、と思った時にはもう遅かった。
私は木の上から落下する。
「きゃああああー。」
・・・まずい。落ちる!!
目を開けると、視界の中に目を見開いた少年がいた。
「なっ。」
とっさに少年は腕を広げ、私を抱きとめた。
・・・えっ。
「っ。」
・・・あ、あたたかい。どうして。どうしてこんなに、胸が温かくなるの?
私はおもわず息をのんだ。
・・・そういえば私、抱きしめられたこと無かったな。
『抱きしめる』という、『抱擁』というものは知っていた。
本の中でも、たくさん出てくる。
私は、本を読めば、疑似体験ができた。頭の中で想像して、楽しんで。
でもこれだけはできなかった。分からなかった。
だから、たくさんの本を読むたびにどんどん憧れて、羨ましくなってしまった。
でも今、私抱きしめられてる。うれしい。
・・・ど、どうしよう。顔がどんどんゆるんじゃう。
「——ぃ、—ぉ―ぉぃ、ぉい、おいっ!!!」
「はいっ!!!」
「何をしているっ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!喜びのあまり処理落ちしてしまいましたっ!!!」
私は何を思っていたか、何をしていたか洗いざらい吐かされてしまった。
うぅ。恥ずかしいよ。
「はぁ。」
「ご、ごめんなさい。」
目の前の少年は眉間を押さえ、頭が痛そうにしている。
肩につくかつかないかの長さで切りそろえられている、サラッサラでつやっつやの髪。そうサラサラじゃ無くてサラッサラのつやっつや!!色は銀のような金のような、どちらともとれる不思議な色。その髪は、左の端が三つ編みになっていて、青の髪留めで結んである。長いまつ毛に、昼の冬空を思わせる透き通った瞳。筋の通った綺麗な鼻。色白できめの細かい肌に、形のいい薄い唇が乗っている。体は一見細身だが、抱きとめられたときに、鍛えられていると分かった。どこをとっても、美しい。それにこの少年は、声も美しいと私は知ってる。ほんとに女の子みたい。
私が見惚れているとその美しい声に話しかけられた。
「何を見ている。」
「い、いえ。何でもないです。」
そこで私は気づく。
・・・あれ?ここって領主一族の利用するお庭じゃなかったっけ。それにこの口調からして、側近じゃな...い...。
「も、申し訳ありません!!」
私はとんでもない速さで土下座し、目の前の少年に非礼を謝罪する。
もちろん、過去最高の速さで動いたよ。
でもいくら待っても反応がない。
も、も、もしかして。しゃべることもできないくらい怒ってる??
上目遣いでそろそろと相手の表情をうかがうと。
少年は私に背を向けていた。そして、口に手の甲を当て、体を震わせながら声を上げずに笑っていた。
「えっ。わらっ、てる。」
口をぽかん、と開けた私の唖然とした表情が、余計に笑いを誘ったのか、少年は耐えきれないとばかりに笑い声を漏らした。
「ふっ、ふふ、くっ、くくっ、ん、」
・・・この人、私が謝ったのを見て笑ってる?えっ、この世界では土下座じゃなくて、跪くほうなの?もしかして私、間違えた?
私が心の中で羞恥にのたうち回っていると、少年は荒い息を深呼吸を繰り返し、治めていた。
「いや、いいのだ。私こそ、すまないな。」
「も、問題ありませんわ。」
・・・ちょっと傷ついたけど。
「口調も元に戻していい。」
「ですが............貴族的に‘‘アウト‘‘なのでは。」
「あうと、とやらはわからぬが、なんとなくわかった。しかし、私の前でだけは口調を戻してほしい。『アインス』」
・・・えっ。この人、私の名前知ってるの?ということは、この人は.....。
「領主の息子さん?!」
私は思わずそう叫ぶ。
「そうだ。私は、現領主であるショフテン・マン・ウァッサーングが息子。フェシュナインド・マン・ウァッサーングだ。」
・・・この綺麗な美人さんが、とんでもなく賢いって言われてた領主候補生?!
「お貴族様って、名前長いですね。」
混乱しているからすごい見当違いなことを言ってしまう。
「ああ。これは初対面の時に、どこの家の人間か知るためにするものだ。だからそれ以降は皆、名前で呼ばれる。」
「へえー。そうなんだ。」
・・・なんか得した気分。よかった。いちいちあんな長い名前で呼び合うことになるのかと思った。よし。
「わたくしは、現領主であるショフテン・マン・ウァッサーングが養女。アインゾーネ・ファン・エンダーザイト・フィリー・ウァッサーングです。以後、お見知りおきを。」
「ああ。よろしく。」
私は跪き、そう挨拶する。
・・・うふふ。できた!!なんか、かっこいい。
「それからもう一つ。先に言っておこう。」
「はい?なんですか?」
「私が、其方の勉強を見ることとなった。」
「え。ええーーー!?!」
どうやら私はこの天才さん。フェシュナインドの弟子となるみたいだ。
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