この世界と得られた立場

  お風呂から上がって髪を乾かし、この後のことに思いを馳せる。

 ・・・とりあえず、さっきの人は誰だろう?私は一体、どうやってこの世界に現れたのかな。まさか、突然現れたなんてない、よね........。

 ・・・いや、突然現れたのかも。警戒されてるからこそ、あんな、明らかに強い人しか部屋にいなかったんじゃ。

 私が明らかに強いって断言できるのは、私が神々の世界にいたからだ。だってあんなに隙のない人、武勇の神くらいだもの。


「上がられましたか。」

「はい。ありがとうございました。」


 私が目覚めたときにそばにいた強い人が扉を開け部屋に入ってくる。

 そして私の目の前にある椅子に腰かけ、話しかけてきた。


「単刀直入に言う。其方は一体何者だ。何故、突然現れた。」


 ・・・やっぱり...突然現れたんだ......

 今までの丁寧な口調を投げ捨て、警戒もあらわに問いかけてくる。とんでもない威圧感だ。

 一言でも間違えれば、即刻、切り捨てられるだろう。


「私にも、わからないんです。それどころか、この世界すらも存じ上げません。」

「この世界を知らないだと。其方、そう申すか。」

「はい。この言葉に、偽りはありません。」

「そうか。」


 なんて説明すればいいんだろう。違う世界からきた?神々の大図書館に住んでいた?なんて言った時には、狂人だと思われるだろう。

 だって、この世界は本の中なんだから。


「確かにな。魔力にも乱れがない。」


 ・・・私がいたところも‘‘ファンタジー‘‘世界だったけど、魔力は持ってなかったな。だって私、普通の人間だもの。

 ‘‘ファンタジー‘‘っていうのは、大図書館にある本の中で使われていた言葉。使い方はあっているかな?


「ま、魔力、ですか。」

「そうだ。しかし、魔力も知らぬとは。其方の体にもあるのだぞ。それもほとんど見たことがないくらい強大なものだ。」


 ・・・なんと、私は時空の旅人というだけでも周りと違うのに、とんでもない‘‘チート‘‘をもっているらしい。

 ここで説明!時空の旅人っていうのは、違う世界に飛んじゃうことだよ。

 私がそんなことを考えながら、一人百面相をしているのを、男性は不思議そうな顔で眺めている。そして私に話しかけた。


「其方、名は何という。」

「あ、申し遅れました。私の名前はアインス。アインス・エンダーザイト。14歳です。」

「そうか。アインスか。そこでアインス。其方に提案があるのだが。」


 ・・・これは、提案という名の、疑わしいものへの対応かな?


「はい。なんでしょう。」

「領主一族にならぬか。」


 ・・・ふぅん。一族に入れて、魔力の高いものの確保と、私の監視をするつもりかな?


「領主一族、ですか。」

「ああ、其方はこの世界のことを何も知らぬのだったな。」


 男性はそう言い、私にこの世界のことを話し始めた。

 この世界には、『ウェルトバウン』という大きな樹のある王都を中心に、円を描くように、17個の大小ことなる様々な形をした大地が、空の彼方に浮いているらしい。王都以外の大地はそれぞれ領地となっていて、王都と領地、それらすべてを統べる『王』がいるそうだ。

 王都には、王の家族である『王族』がいる。そして、16個ある領地には、それぞれの領地の『領主』が、そして『領主一族』がいるようだ。さらに、その領地に住まう人は上から順番に、『上級貴族』、『中級貴族』、『下級貴族』、そして『平民』。なにが、それらを分けるのか。それは教えてくれなかったけど、大体のことはわかった。


「どうだ。もう一度聞く。領主一族にならぬか。其方のその魔力量は多すぎる。魔力の制御の仕方やこの世界のことを知り、学ばなければいけない。それらのことをするにあたって領主一族であるほうがいろいろと都合がいいのだ。」


 確かに私はこの世界ではとても不安定な存在だ。それに私はこの世界のこと知りたい。

 領主一族であれば、並大抵のことがない限り、殺されることもなさそうだ。


「わかりました。領主一族になろうと思います。これから、よろしくお願いいたします。」

「うむ。では、契約書だ。」


  そういわれ、差し出された契約書にサインする。内容は、現領主の養女となり、領主一族となるというものだった。文字は私が前の世界で使っていたものと同じだったよ。

 すると、とても不思議なことが起こった。契約書が宙に浮いたのだ。そして私の名前と、『アトランティス・マン・ウァッサーング』という文字が、金色に光りながら羊皮紙から飛び出し、交わって、最後は光の粒子となって消えていった。


「綺麗...」

「うむ。契約できた。これから其方は、我が水の領地、ウァッサーングの正当なる領主一族だ。頑張りたまえ。」

「激励の言葉、感謝いたします。領主一族としての自覚を持ち、より一層の努力をし、精進いたします。」

「そんなに畏まらなくてもよい。私の名前は、『アトランティス』。『アトランティス・マン・ウァッサーング』だ。それと、いくら警戒していたとはいえ、淑女の湯上りと寝衣を見てしまったことを謝罪する。」


 そう言い男性は...アトランティスは頭を軽く下げた。


「い、いえ。問題ありません。あと、聞きたいことがあるのですが。」

「なんだ?」

「私の名前は、今のままでいいのでしょうか。」

「確かにな。変えたほうがよかろう。」


 アトランティスはそうつぶやき、真剣な面持ちで考え始めた。

 それにつられ、私も考える。

 ・・・んー。アインスは残したいな。大事な名前だし。そういえば、神々たちは私のことを太陽のようだと例えていたっけ?だったら、太陽をいれて...


「『アインゾーネ』、なんてどうでしょう?」

「おお、いいのではないか。ちなみにどういう意味を持っているのだ?」

「アインスは残したかったのです。大切な名前ですから。ゾーネは太陽という意味です。」

「太陽?其方には月のほうが似ているのではないか。」


 私もそう思う。髪の毛だって銀色だし、目の色は宵闇を思わせるし。

 なんで神々は太陽だって言ったんだろ。


「よし。では其方の名前は今から、『アインゾーネ』。『アインゾーネ・ファン・エンダーザイト・フィリー・ウァッサーング』だ。」


 ・・・長いね。覚えるの大変そう...。

 まあ、今日から私の名前は、『アインゾーネ』。『アインゾーネ・ファン・エンダーザイト・フィリー・ウァッサーング』だ。

 よろしくね。新しい名前。

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