第28話 VS狂気の吸血貴 2/2

「ハァ!!」


「グギュルゥウウ!!」


 拳と刃がぶつかり合う。

 血が飛び散り、床を赤く染め上げる。

 剣戟、拳戟、剣戟、剣戟、拳戟。

 手数は俺の方が多く、お父様の拳からは血が絶えず吹き出る。


 お父様の拳は重い。

 【黒竜の牙】でお父様の拳をいなす度に、ミシミシという嫌な音がする。

 このまま馬鹿正直にいなしていれば、いずれは砕けてしまうだろう。


「グギュルゥウウ!!」


 お父様が拳を突き出す。

 俺はそれを避け、お父様の手首に刃を当てた。

 そして──振り抜く。


「ヤァッ!!」


「グギュッ……!!」


 お父様の手首を切り落とした。

 鮮血が溢れ出て、強靭な腕が若干痩せ細る。


「グ、グギュァアアア!!」


「無駄だ、再生はしない。腕が腐っていくのが、わかるだろう?」


「グ、グギュァアアア!!」


「……いや、わかる訳ないか。理性がないのだからな」


 手首を失ったまま、お父様は殴りかかってきた。

 ……痛ましいが、それが望みなのならば……相手をしてやろう。


「【紅蓮拳】【竜ノ鱗】【鋼鉄拳】」


 俺の拳が真っ赤に燃える。

 お父様を倒せと轟き叫んだ。


「ヤァッ!!」


「グギュァアアア!!」


 お父様の拳無き拳と、俺の拳がぶつかり合う。

 ジュッと肉が焼ける音て、バキッと骨が折れる音が聞こえる。

 

 お父様の拳は重い。だが、俺ほどではない。

 スキルを使って硬めた俺の拳と、ただ筋肉を発達させただけのお父様。

 どちらが強いかなんて、考える必要もないだろう。


「グ、グギュァアアア!!」


「まだまだ!!」


 続けて、俺は拳を突き出す。

 【毒針】【戦杭】【槍穿】【竜拳】。

 【筋力強化】【貫力強化】【ニードル】。

 パワーアップに繋がるスキルを全て使い、お父様を殴る。殴る。殴る。


「グ、グギュァアアア……」


 ベキベキと骨が砕け、ズタズタと肉が千切れるお父様。

 お父様の細い身体では、俺の拳は重すぎるようだ。


「【蜘蛛糸】【毛棘飛ばし】」


 お父様を蜘蛛糸で簀巻きにし、髪の毛を飛ばす。

 ドスドスと突き刺さる髪の毛、蜘蛛糸の簀巻きが赤く染まる。


「グ、グギュァアアア!!」


 だが、お父様も負けていない。

 渾身の力で、見事に蜘蛛糸から脱出した。


「【飛蝗蹴】!!」


「グギュッ……!!」


 お父様の腹を蹴り、距離を取る。

 レイナとは違って体重が重い分、お父様が吹き飛ぶことはない。

 だが俺の蹴りは相当ダメージを与えたのか、口から血反吐を流している。


「ララ、【ドラゴンブレス】!!」


「デドラァ!!」


「リリ、【サンダーブレス】!!」


「ルガァ!!」


 お父様に放たれる、灼熱と雷撃。

 それらは命中し、お父様の身体に深刻なダメージを与える。


「グギュルゥウウ……!!」


 灼熱と雷撃が晴れると、そこには……黒く炭になったお父様の姿。

 片足は完全に炭化してしまい、もげてしまっている。

 両腕は無事だが、ガードをしていた影響か骨が露呈している。

 その他の部位も深刻なダメージを負ってしまっており、再生能力だけでは追いつかないだろう。

 少なくとも、今すぐ戦える状況にはなさそうだ。


「グギュルゥウウ……ニンゲン、コロス……」


「理性を取り戻したか……?」


「ユルサナイ……ユルサナイ……」


「……いや、そうではないな」


 吸血鬼も首を切断されれば、死んでしまう。

 俺はお父様の首元に、短剣を当てた。


「さようならだ」


 そのまま短剣を振り抜き──

 ──お父様の首を刈った。


「……娘を頼む」


 俺の耳に、そんな声が聞こえてくる。

 えっ、思い聞き返そうとするが、既に遅い。

 お父様の身体は崩れ、既に灰になっていた。


「……お父様、どうか……安らかに……」


 レイナの祈りが通じたのか、お父様の灰は天に昇って行った。

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