第29話 さようなら
「アルガ様……ありがとうございます」
「あぁ、構わないさ。それより……お前は大丈夫か?」
「はい。わたしは……心配いりませんよ」
「本当か?」
「少しだけ……つらいです。ですけれど、あのまま狂ったお父様が永遠に生き続けると考えた方が、ずっと苦しいですので」
「それも……そうか」
目の前で親が殺されたのだから、大丈夫なハズがない。
だがレイナは健気に、「大丈夫」だと告げた。
俺には親がいないからわからないが、目の前で親が殺されて大丈夫なんて……言えるだろうか。
魔物と人間で精神構造が違う可能性も否定できない。
だがそれでも、こうして健気に感謝を告げられるレイナは確実に、強いのだろう。
「ドロップアイテムの確認を行いたいが、まずは……コイツの処遇だな」
目の前にはラトネの石像が転がっていた。
欠けることなく、絶望の表情で石化しているラトネの姿がそこにはあった。
「どうするの? 砕くの?」
「そんな野蛮なことはしないさ。ララ、こっちに来い」
「デドラァ!」
「【ドラゴンブレス】だ」
「デドラァ!!」
ララに命令を下し、灼熱の火炎をラトネの石像に浴びせる。
轟々と燃え盛る火炎が、ラトネを徐々に融かしていく。
数分後、ラトネ像は完全に融けきった。
「よし、復讐終了だな」
「……砕くよりも野蛮じゃない?」
「そんなことはないですよ。さて、それでは」
俺は地面に手を付け、土魔法を唱える。
「《
地面がモコモコと盛り上がり、とある形を形成していく。
それは先ほどのラトネの石像そっくり……いや、その物と化した。
「へぇ、綺麗だね」
「こいつをカナト達にプレゼントします。カナト達はただの岩人形を抱えながら、必死に呪いを解こうとするでしょうね」
「肝心の本人は既に死んでいるというのに、必死に岩人形に希望を見出す姿……想像するだけで哀れだね!」
もちろん、俺の復讐はその程度では終わらせない。
今回の攻略で、ルルが進化した。ルルは精神に作用をする能力を習得したのだ。
これを使わない手はないだろう。
本来考えていた作戦に加え、ヤツらにより一層キツい仕置きをしてやるのだ。
「では最後に、ドロップアイテムの回収をするか」
「……はい」
「大丈夫だレイナ、ここで回収した道具はお前に譲渡してやるから」
「……え? ど、どうしてですか?」
「どうしてって、お前は俺の大切な仲間だからな。その程度、普通だろ?」
「あ、ありがとう……ご、ございます……」
ポロリポロリと泣き出すレイナ。
まったく、泣き虫だな。
「さぁ、開けるぞ」
「は、はい!!」
お父様を倒した時に出現した、宝箱を開ける。
そこには──
「……ゴスロリ?」
箱に入っていたのは、綺麗に折りたたまれたゴスロリ服。
それは以前にレイナが着ていたものよりも、多少かわいいものだった。
「お父様……これは……」
「きっと……レイナに向けての、最後のプレゼントなんだろう」
「お父様……」
ギュッとゴスロリ服を抱きしめるレイナ。
その瞳には、相変わらず涙が浮かんでいる。
「ほら、着てみろよ」
「は、はい……!!」
スルスルとレイナは袖を通していく。
そしてその服を着ると、思っていた以上にピッタリのサイズだった。
「似合っているな」
「あ、ありがとうございます……」
今度は顔を赤く染めるレイナ。
泣いたり赤く染めたり、忙しいな。
「ほら、イチャついていないでさっさと帰ろうよ」
「い、イチャつくだなんて……そ、そんな……」
「えぇ、わかりました」
「あ、ちょっと!! 待ってくださいよ!!」
俺たちは帰還した。
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