第27話 VS狂気の吸血貴 1/2
下の部屋に降りた時、一番最初に感じたのは……異様な臭気だった。
生臭く、不愉快な臭いだ。腐らせた卵と牛乳をグチャグチャに混ぜたような、嫌な臭いが部屋中に漂っている。
「臭いね……」
「えぇ……吐き気がします……」
俺とシセルさんは思わず、鼻を摘まむ。
だが、レイナは違った。彼女はただ部屋の中央を、一心不乱に見つめている。
「お父様!!」
天井と床、両方がレンガ造りなこと以外は何の特徴もない部屋に、彼女の声が響き渡る。
そして彼女の声は、部屋の中心にいた
「グギュルゥウウ……」
最初、俺はソレが何かわからなかった。
ソレが動き出すまで、俺はソレのことを岩だと認識していた。
今思えば、違和感を抱くべきだ。何の変哲もない部屋に、岩が置いてあるんだから。
だがしかし、俺はソレが動き出すまで何の違和感も抱くことができなかった。
動き出したソレは、あまりにも奇妙な形をしていた。
体長はおよそ3メートルほどだろうか。ひどくノッポではあるが、ソレはヒトの形をしている。
上半身が裸なこともあって、痩せさばらえて骨と皮だけになった上半身を露出してしまっている。漆黒のズボンを履いている下半身も同様に、ガリガリに細い。
ヒトの形をしているが、明らかに異色な部分が2つ存在する。
1つ目はその両腕だ。
痩せた身体には不釣り合いに、太く巨大な腕が生えている。
筋骨隆々……なんて言葉では、とても足りない。
巨人の腕を移植したかのような、身長と同じくらいの長さと身体の倍以上の太さを持つ腕が生えているのだから。
2つ目はその顔だ。
桃の髪と赤い瞳。それ以外は全て、異常だった。
緩んだ口元からは獣のようにヨダレを垂らし、その瞳は焦点が合っていない。
喉から出る声も全て、まるで獣の唸り声のようだ。
全てにおいて理性を感じさせず、全てにおいて狂気を感じさせる。
まるで気が触れたように。
「お父様……」
そんな不審な人物を、レイナは父親だと言っている。
確かに髪色と瞳は似ているが、今のソレをレイナの父親だと認識することは非常に難しい。
「……アルガ様」
「……なんだ」
「……お父様を……殺してください」
「……あぁ」
小さく零したレイナの言葉。
それはレイナが絞り出した、避けたかった言葉だと理解するのに時間は必要なかった。
「あ、よく見ると隣に石像があるね」
「確かに。あれは……ラトネですね」
石像になったラトネが、お父様の隣に置かれていた。
お父様の何らかの攻撃を受けて、石化してしまったのだろう。
吸血鬼に石化攻撃なんて無かったハズなのだが……と思うが、そもそも狂気に堕ちた吸血鬼の話自体聞いたことがない。聞いたことのないヤツが、聞いたことのない攻撃をしても驚くことではないか。
「しかし、アイツらはレイナを倒せたのか? そんなわけないよな……」
レイナを倒さなければ、この部屋にはたどり着けないハズだ。
そう思いながら部屋中を見渡してみると、俺たちが落ちてきた穴とは違う穴を発見した。
「なるほど、別ルートの穴もあったのか」
つまりカナト達は別ルートの穴から、運悪くこの場に落ちてしまったのだ。
そして運の悪さは重なり、ラトネを失ってしまったと。
……ここまでくると不憫だな。あんな連中だが、少し同情してしまう。
「……あぁ、なるほど。ようやくわかったよ」
シセルさん、何がですか?
そんな言葉を口にしようとした、その時──
【進化条件を満たしました】
と、目の前に出現したウィンドウ。
そして光り輝く、ルルの姿があった。
「……え、こんな時に?」
困惑をしている間に、ルルの光が晴れた。
そこには──漆黒のスライムがいた。
◆
────────────────────
【名 前】:ルル
【年 齢】:1
【種 族】:ショゴス
【レベル】:1
【生命力】:98564/98564
【魔 力】:125487/125487
【攻撃力】:102556
【防御力】:104111
【敏捷力】:101017
【汎用スキル】:引っ掻き Lv71
噛みつき Lv70
突進 Lv70
【種族スキル】:狂気乱舞 Lv77
狂気錯乱 Lv77
恐怖付与 Lv77
神経攻撃 Lv77
潰エタ希望 Lv77
祝福セシ滅亡 Lv77
忌々シキ太陽 Lv77
悪ナル上位 Lv77
滅ビヨ人類 Lv77
超音波 Lv17
ニードル Lv7
毛棘飛ばし Lv4
火炎車 Lv6
毒爪 Lv10
【固有スキル】:回復のコツ LvMAX
恐怖を啜るモノ LvMAX
【魔法スキル】:《
《
《
《
《
《
────────────────────
思わずステータス画面を開いたが、これは……予想以上だ。
全部のステータスが大幅に上昇している。今ではララとリリと並ぶ……いや、それ以上の強さだ。
その上、見たことも聞いたこともないスキルで、溢れかえっている。
見た目こそ以前までとほぼ変わらず、ただ色が漆黒に染まっただけだ。
だがその中身は……別人、いや別スライムと言っても過言ではない。
そもそも……スライムなのかどうかもわからないが。ショゴスだからな。
「進化したんだ、スゴいね!!」
「俺も驚きです。……どうして、こんなタイミングで」
「それはきっと──」
「──お父様が来ますよ!!」
シセルさんは何か知っていそうだが、今は聞くことができなさそうだ。
お父様が思い切り俺に向かって、突進しているからな。
「グギュルゥウウ!!」
巨大な拳を握り締め、俺に向かってくるお父様。
込められた魔力は甚大で、直撃すると少々面倒だな。
「ルル!!」
「ショゴー!!」
俺の声に反応するルル。
よし、さっそく試してみよう。
効果はわからないが、ぶっつけ本番だ。
「【狂気錯乱】だ!!」
「ショゴー!!」
俺の命令に従い、ルルは紫色の波動を放った。
その波動はお父様に命中し──
「グギュルゥウウ……!!」
お父様はその場に倒れ、のたうち回った。
巨大な手で喉を搔きむしり、皮膚がズタズタになっていく。
だが吸血鬼特有の再生能力で、その傷は瞬時に癒えていく。
「え、え……?」
「ルルちゃん、ショゴスになったでしょ?」
「え、どうしてそれを……?」
「私が邪神に勝った話は知っているでしょ?」
「え、えぇ。まぁ」
「その時ね、邪神の配下としてその魔物、ショゴスがいたんだ」
「……え?」
どういうことだ?
ショゴスは配合時にのみ生まれる、特殊な魔物ではないのか?
ララやリリと同じく、野生には存在しない魔物ではないのか?
……いや、そんなことは今はどうでもいいか。
大切なのは、ショゴスがどんな魔物かだ。
いったいどんな攻撃をしたのか、それが必要な情報だ。
「ショゴス……いや、邪神系の魔物はこの星の魔物とは違う、特殊な能力を持っているんだ」
「それは……?」
「”精神汚染”、平たく言うと精神をおかしくさせる効果だね」
俺はすかさず、ショゴスのスキルを確認した。
【狂気錯乱】
宇宙を由来とする魔物のみが習得可能なスキル。
対象を狂気に陥れ、精神的に追い詰める。
発狂した相手にも効果アリ。
「……本当だ」
「あの吸血鬼が打たれたクスリ、それは多分邪神由来の物質だと思うんだ。血液であったり尿であったり、ともかく邪神に関係のあるモノが打ち込まれたと思うんだ」
「それでは……お父様がおかしくなったのは、全て……その邪神の影響ということですか!?」
「うん。そしてその狂気に堕ちたお父様を、ショゴスの攻撃でさらに深淵の狂気に堕としたってわけだね」
喉元を掻きむしりながら、ビクビクッと痙攣しているお父様。
……悪いことをしている気分だ。
「アルガ様、お願いがあります」
「あぁ、わかっているよ。ルル、解除してくれ」
「ショゴー!!」
ショゴスが何をしたかはわからないが、お父様がスクっと立ちあがった。
相変わらずその眼は焦点が合っていないが、少なくとも先ほどよりはマシだ。
「3匹とも、戦えるな?」
「デドラァ!!」
「ルガァ!!」
「ショゴー!!」
こうなる前は、きっと気位の高い吸血鬼だったのだろう。
品があり、他の吸血鬼からも一目置かれる存在だったのだろう。
ならば……最期くらい、正々堂々と戦わせてやろう。
「グギュルゥウウ!!」
「行くぞ!!」
俺たちの最後の戦いが始まった。
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