第25話 VS吸血姫


 まるで相手にならない。

 そんな戦いが、続いた。


「くッ、《赫血の剣ブラッド・ソード》!!」


 吸血姫が放つ、5本の血の剣。

 赤黒いソレが、俺に向かって飛んでくる。


「ララ、【ドラゴンブレス】だ」


「デドラァ!!」


 ララの口から放たれる、灼熱の火炎。

 ソレは血の剣を焼き払い、鉄臭さが鼻腔をくすぐる。


「ルル、【肉裂爪】だ」


「ルガァ!!」


 自慢の魔法を焼き払われ、驚き戸惑う吸血姫に追い討ちを仕掛ける。

 ルルは一瞬で間合いを詰めて、吸血姫を攻撃した。


「ぐッ、あぁッ!?」


 服が破かれ、たわわな乳房を露呈した吸血姫。デカいな……。

 だが性的な興奮はしない。服だけではなく、皮膚までもが裂かれたからだ。

 綺麗な服とカーペットが、滴る血で汚されていく。


「調子に……乗るな!!」


 吸血姫がそう叫ぶと、痛々しい傷が瞬く間に癒えた。

 さすがは吸血姫の上位種、再生能力も並では無いようだ。


「何故だ! 何故、貴様の矮小な魔物風情が……我に勝る!!」


「お前が弱いだけだろう」


 実はそんなことはない。

 この吸血姫は間違いなく、強い。俺がこれまでに相対してきた中で、シセルさんに次いで強いだろう。


 ララとルルはSS級であり、吸血姫はSSS級の魔物だ。単純なステータスだけならば、雲泥の差があるだろう。

 だが、相手が悪かった。この場には俺がいるのだ。

 

 戦いが始まる前に、俺は支援魔法を唱えた。

 ブレスを強化する支援魔法、《息吹の強化ブレス・アップ》を。

 攻撃力を強化する支援魔法、《 筋力の強化パワー・アップ》を。

 その他さまざまな支援魔法を、2匹に唱えた。


 結果、2匹は吸血姫SSS級を越えた。

 ランクによる絶対的な差が、俺の手によって覆ったのだ。

 

「黙れ黙れッ! そうだ! 貴様はテイマーだったな!!」


「あぁ、その通りだ」


「使役する魔物は強くとも、貴様は脆弱な人間に過ぎない! 貴様さえ殺せば、万事解決だ!!」


 どこからともなく細剣を取り出した吸血姫は、俺に向かって一直線に駆けてきた。

 その表情は喜色満面。ニコニコの笑みを浮かべている。


「3匹とも、何もするな」


 3匹にそう命令する。

 そして襲いかかってくる吸血姫を、短剣で受け止めた。


「我を受け止めるとは、運がいいな! だが、ここからが真の地獄だ!」


 吸血姫は細剣を振るい、俺を刻もうとしてくる。

 縦横無尽に振るわれる斬撃は、その剣の細さからは想像もできないほどに重い。

 俺はそんな斬撃を、短剣で防ぐ。


「フハハハハッ! 我がロリルシア流の剣術はどうだ!! 守るだけで精一杯のようだな!!」


「……白兵戦とは悪手だな」


「負け惜しみか? 弱者のソレはいつだって、聞くに耐えないな!!」


「……今のは少し、イラついたぞ」


 せっかく手加減してやっているというのに、図に乗りやがって。

 コイツの実力は理解した。これ以上は試す必要もないだろう。


「我が必殺の剣技、受けてみよ──」


「おらッ!!」


 吸血姫の剣が光り輝くと同時に、俺は吸血姫の腹に蹴りを加えた。

 メキリッと骨が砕ける音と、ゴニュリッと内臓が破裂する感触が靴越しに伝わってくる。


「ぐふッ──!?」


 口から血反吐と吐瀉物を撒き散らしながら、吸血姫は吹き飛ぶ。

 そのまま壁に衝突し、壁にめり込んだ。


「わ、わたしが……あ、いや。わ、我が……」


 ブツブツと呟きながら、吸血姫は壁から這い出る。

 腹部からは臓物が漏れ、ボタボタと様々な体液が垂れ流れている。服は既に大破し、ほぼ全裸だ。


「う、アァアアアアッ!!」


 吸血姫が耳障りな叫びを上げると、痛ましい傷は全て癒えた。全回復したのだ。

 さすがは吸血姫、あれほどの傷でも致死には至らないか。


「貴様、名は何という?」


「……アルガ・アルビオンだ」


「そうか、アルガか」


 吸血姫はニコッと微笑んだ。

 敵ながら……少しドキッとしてしまう。


「認めよう、貴様は強い。だからこそ……これで最後にしよう」


 吸血姫はそう告げると、左手を天に掲げた。

 

「光栄に思うがいい」


 吸血姫の頭上に現れる、無数の魔法陣。

 その数はおよそ……100。

 

「我の最強の魔法、貴様に放ってやる」


 魔法陣から形成されたのは、無数の武器。槍や剣、矢や槌など様々な武器の数々だ。

 そのどれもが赤黒く、血液で出来ている。

 まさしく吸血姫らしい魔法と言えるだろう。


「この魔法に耐え切った者はいない。全てが終わった時、貴様は──立っていられるかな?」


 吸血姫が左手を振り下ろすと、無数の武器が降りてきた。

 赤黒いソレらは、俺たちの命を削ろうと迫る。


「ララは【ドラゴンウィング】を、リリは【電磁防壁】を使ってくれ」


「デドラァ!!」


「ルガァ!!」


 ララの翼が光り輝き、数回ほど羽ばたいた。

 発生した突風が襲いかかる武器を、次々と地面に落としていく。地面に落ちた武器たちは、すぐに溶けて血液に戻った。


 ルルのツノが光り輝き、俺たちを覆うように電気のドームを創り出した。

 電気のドームに当たった武器たちは、弾け飛んだ。


【ドラゴンウィング】と【電磁防壁】によって、俺たちに襲い掛かる100の武器は全て消えた。

 その様子を一部始終見ていた吸血姫は──


「これなら……きっと……お父様を……」


 ブツブツと呟く吸血姫。

 その表情は何故か、歓喜に満ちている。


「そろそろ終わりにしよう」


「え、あ、え?」


「全てが終わった時、俺は立っていた。だったら、次は俺の番だろ?」


「え、えっと、そ、そうですけど……」


「俺たちの最強の一撃、お前に放ってやるよ。光栄に思え」


 俺は再度、ララとリリに支援魔法を唱えた。

 ヤツの再生力の高さは、既に確認済みだ。

 だからこそ、支援魔法を重複させる。

 一撃で屠れるように、重く鋭い攻撃を仕掛ける為に。

 

「ララ、リリ。準備はいいか?」


「デドラァ!!」


「ルガァ!!」


 ララの口からは焔が漏れ、リリの身体は紫電が走っている。

 2匹とも準備は十分のようだ。


「行くぞ──」


 2匹に命令をしようとした、その時──


「ちょっと待って!! 降参、降参します!!」


 と、吸血姫は泣きじゃくりながら、そう言った。

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