第24話 イザルト迷宮へ

 次の日、俺たちは『イザルト迷宮』へやってきた。

 そう、カナト達が惨敗した迷宮へ。


「こんな迷宮も攻略できないなんて、本当に彼らはアルガくんと一緒にパーティを組んでいたの?」


「えぇ。お恥ずかしながら……」


 と、魔物を倒しながら談笑する。

 SS級の迷宮であるが、今の俺の敵ではない。

 現れる魔物もかつては苦戦しただろうが、今の俺からすれば……あまりにも弱すぎる。


「ブラァアアア!!」


「うるさい!!」


 突進してくるレッドバッファローという魔物を、殴り飛ばす。

 爆散、レッドバッファローは肉塊となった。

 

 レッドバッファローもSS級の魔物で、決して弱くはない。小さな町程度なら壊滅できるほどの力を持つ、強力な魔物だ。

 ただ……相手が悪すぎただけだ。


「こんなの準備運動にもならないよ! こんな迷宮でチキン戦法を行使するなんて、冒険者の才能がないんじゃないのかな?」


「そもそもチキン戦法なんて欠陥戦法を採用するなんて、バカにも程がありますよ。本当に……元パーティメンバーとして恥ずかしいです」


 チキン戦法が通用するのは、道中のザコのみ。ボスが相手だと、何の役にも立たない。

 そんな基本的なことにも気付けないなんて、あまりにも頭が悪い。バカ中のバカだ。

 

「でも、ちょっと気になることがあるんだ」


「どうしました?」


「この迷宮のボスは『吸血鬼』なんだけど、彼らの証言と私が知っている吸血鬼像の乖離が激しいんだよ」


「あぁ、確かに。それは俺も気になっていました」


 彼らの証言だと、

・無力なカナト達を嘲笑っていた

・ラトネを捧げると、カナト達を見逃した。

 の2つの特徴を持っていたらしい。


 1つ目の証言は、吸血鬼の特性に合致している。

 吸血鬼は知性と誇りが高い魔物だ。

 他の生物を見下し、蹂躙することを史上の喜びとしている。

 ランクはSSであり、カナト達が手も足も出なくとも不思議ではない。


 だが、2つ目の証言が気になる。

 吸血鬼は誇り高いため、獲物が逃げることを嫌っている。例え帰還石を用いたとしても、魔法で妨害してくるハズだ。

 生贄を捧げようと、決して見逃してくれない。吸血鬼とはそういう魔物なのだ。


「もしかして何か……そう、突然変異でも発生した個体が現れたのかもしれないね」


「吸血鬼の突然変異……『吸血姫』や『吸血貴』みたいなことですか?」


 吸血鬼の突然変異であり、強化された個体『吸血姫』と『吸血貴』。

 両者とも並の吸血鬼よりも圧倒的に強く、そして気高い。

 故に並の吸血鬼よりも、見逃すことを嫌うハズなんだが……。


「一番下まで降りれば、答えが待っているよ」


「えぇ、そうですね」


 そんな談笑を交えながら、俺たちは迷宮を下っていった。



 ◆



 あれから数十分、俺たちは最下層に降り立った。

 目の前には巨大な鉄扉。つまりボス部屋の扉だ。


「この門の奥に、答えが待ち構えているんだね!」


「楽しみですね」


 俺は鉄扉を開く。

 部屋の内装は絢爛豪華という他ない。

 壁にはよくわからない絵画が飾られ、床には真っ赤なカーペット。甲冑や壺なんかも飾らせている。


 だが、煌びやかな部屋さえも曇らせるほど、あまりにも美しい少女がそこにはいた。


「フハハハハッ!! よくぞ来たな!!」


 高笑いをしている、1人の少女。

 肩まで伸びた桃色の髪を靡かせ、真紅の瞳でこちらを見ている。

 服装は黒をベースとしたゴスロリ、白いリボンの刺繍がチャーミングだ。


 身長は150センチほどで、肌は病的なほど白い。

 服を押し上げる胸部おっぱいは、シセルさんに匹敵するほど大きい。

 当然のように顔も整っている。シセルさんが美人系だとすれば、コイツはかわいい系だ。


 見た目だけならば、18歳前後の可憐な少女にしか見えない。

 だが笑う口元から覗く、尖った犬歯。それがコイツの正体がバケモノなのだと、そう実感させてくる。


「我が名はレイナ・ラ・ロリルシア!! 偉大なる『吸血姫』の1人だ!」


 と、吸血姫は語った。


「シセルさん、コイツは俺1人で対処してもいいですか?」


「うん、構わないよ」


 『吸血姫』はSSS級の魔物だ。

 強靭な身体能力、膨大な魔力、迅速な再生能力。あらゆる能力が高い。

 吸血鬼を軽く屠れる冒険者でも、吸血姫には敗れてしまうことも珍しくない。


 シセルさんを除けば、これまでに相対してきた敵の中で最強だ。

 昇格試験のレントでさえも、コイツには敵わないだろう。カナト達が惨敗したことも、納得だ。

 だからこそ、俺1人で倒すことに意味がある。


「来い」


「デドラァ!!」


「ルガァ!!」


「ピキー!!」


 3匹を召喚する。

 恐れを抱いている様子はなく、気炎万丈のようだ。


「ほぉ、テイマーか。だが低俗な魔物を使役したところで、我には届かないぞ?」


「試してみるか?」


 俺たちは吸血姫に挑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る