第17話 めんどうなやつら その2


「やめろよ」


 ハァ……めんどくさいな。

 どうして俺とは直接関係のない連中が、俺関連のことででケンカをしているんだ。

 冒険者という生き物は、どうしてこうも血気盛んなんだ。


 だが……俺のことを良く言ってくれる連中を、無下にするほど俺は腐っていない。

 自分をよく言ってくれるやつらは、大切にする主義なんだ。それ以外はどうでもいいけどな。

 

「あ゛?」


「なんだぁ? デカい男!!」


「いや、待てよ……。テメェ!! アルガだな!!」


 テイマーのことを蛇蝎だかつの如く嫌っておきながら、一目見ただけではわかんないのかよ。少し思い出す時間がなければ、俺のことがわからないのかよ。

 なんというか……コイツら本当に俺のことが嫌いなのか? 本当に嫌いなら思い出す間なんて必要なく、一目見ただけで眉間にシワを寄せると思うんだけどな。

 

「……初対面だが俺はすでに、お前たちのことが嫌いだ」


「そうかよ!! 俺たちもテイマーは嫌いだ!!」


「テイマーを見ていると、虫唾が走るんだよ!!」


「ノコノコとやってきやがって!! ブッ殺してやるよ!!」


 脳筋バカどもめ。

 こういう連中が、俺は嫌いだ。


「物ごとの価値基準が違うみたいだな。テイマーの話題を出した冒険者を、次から次へと襲うなんて賊のすることだ」


 そう呟き、俺は3匹を召喚した。

 懐から【黒竜の牙】も取り出す。


「気ッ色悪ィドラゴンだな!!」


「獰猛すぎるウルフだな!!」


「普通のスライムなんて、ナメてんのかよ!!」


「ゴチャゴチャ言うな。俺を殺したいんだろ?」


 周りの冒険者が集まってくるが、好都合だ。

 不遇職と冷遇されているテイマーの認識を、ここで解いてやろう。

 テイマーだって、ちゃんと戦えるというところを披露してやろう。



 ◆



 結論から述べると、コイツらはなんてことなかった。


 ララの組み付きにより、地面に転がされる屈強な男A。

 リリの体当たりにより、壁まで吹き飛び気絶する屈強な男B。

 ルルのニードルにより、腹を貫通して悶絶する屈強な男C。


 結論から述べよう。

 俺たちは──圧勝した。


「す、スゲェ……テト達を一瞬で!!」


「あのテイマー……まさか、最近話題の合体テイマーか!?」


「いや、でも……合体テイマーだとしても、テト達を一瞬で倒せるかよ!!」


「アイツ……どこであんな魔物を手に入れたんだ? あんな魔物、見たことないぞ!?」


「……謎が多いな。多すぎるぜ、アイツ……」


 周りの冒険者が俺のことを考察しているが、今はどうでもいい。

 それよりも──


「……お前ら、本当にB級か?」


「ぐッ、このドラゴン……俺よりもパワーが強いだと……!?」


「……」


「ぐ、あ、は、腹が……!!」


 この程度でB級になれるのならば、この世にいる冒険者は全員がB級なれるだろう。

 ……違和感を抱く。不信感を抱く。


「冒険者カードを見せてもらうぞ」


 気絶しているヤツから、冒険者カードを拝借する。

 そして注意深く、そのカードを見ると──


「……ん? もしかしてこれ……やっぱりそうだ」


 違和感を抱いたので、冒険者カードの表面をゴシゴシと手で拭ってみる。

 するとメッキが剝がれたかのように、冒険者カードの表面にヒビが入った。

 ヒビをペリペリと剝がし、その下にある本物・・の冒険者カードを確認する。


「……やっぱりそうか。お前たち、冒険者カードの偽装を行っていたんだな」


 冒険者カードの偽装は、れっきとした犯罪だ。

 バレてしまった場合、5年以下の懲役又は金貨10枚以下の罰金と定められている。


「ハ、ハァ!? 偽装!!?」


「マジかよ……俺よりも下じゃねェか。俺、アイツらにカツアゲされたぞ」


「俺も……。なんだよ、俺たちよりも弱いんじゃねェかよ!!」


「アイツ……マジで許さねェ!!」


 コイツらに騙された冒険者は、多く存在するようだ。

 偽装するような軟弱な連中に、これまで脅されてきたんだからな。

 俺とコイツたの戦いが終わった後、彼らの私刑が始まるだろう。あぁ、おっかないな。


「どうりでおかしいと思ったんだよ。その実力、B級にしてはあまりにも弱すぎるからな。なぁ、E級のテトども」


「て、テメェ!! よくも俺たちの秘密を!! あ、あと!! このドラゴンを離せ!!」


「見栄を張ってB級だと偽装して、得た地位はどうだった? 快感だったか? 幸福だったか?」


「だ、黙れ!! クソテイマーが!!」


「口だけは強いが、実力は弱いんだろ?」


 【黒竜の牙】の刃先を、屈強な男Aの頬に軽く当てる。

 すると屈強な男Aの頬は、徐々に腐りだした。


「ん? あぁ!! 頬が痛ェ!?」


「本当にくだらない連中だな。ララ、腹を殴れ」


 ドラァ!! という元気な叫びとともに、ララは思い切り屈強な男Aの腹を殴った。

 貫通はしていないところから、頑強さだけはB級相当なのだろうと推測できる。

 そのまま屈強な男Aは気絶した。


「痛ェ……クソ、血がドンドン出てきやがる……」


「よし、次はコイツだ」


「ドラァ!!」


「ゴフッ!!」


 またしても腹を殴るララ。

 屈強な男Cは無事に気絶。


「……ふぅ」


 ため息を零すと、周りの冒険者の歓声が聞こえた。


「スゲェ!!」


「テイマーって、こんなに強いのかよ!!」


「いくら偽装していたE級とはいえ、圧勝するなんて思わなかったぜ!!」


「マジで何者だよ!! 凄すぎるぜ!!」


「さすがだぜ!! ア・ル・ガ!!」


「ア・ル・ガ!!」


「ア・ル・ガ!!」


 気分は悪くない。

 俺の名前でコールが叫ばれるなんて、これまでの人生経験ではなかったからな。

 それにここまで称賛されたことも、一度もなかった。



「スゴい!! スゴいよアルガさん!!」



 と、感極まる冒険者の中から、1人の女性がスッと前に出た。

 腰まで伸びた漆黒の髪、透き通る湖のように蒼い瞳。年齢は18歳くらいだろうか。

 身長は160センチほどだろう。漆黒のコート越しのシルエットは、華奢な印象だ。


 漆黒のコートを押し上げる胸部おっぱいはかなり大きく、俺が出会ってきた女性の中で一番大きいかもしれない。

 当然のように顔も整っている。こちらも俺が出会ってきた女性の中で、一番美人かもしれない。


 誰だ、この美人は。

 昔に美人に騙されたことがあるから、俺は美人を見るといぶかしむ癖があるのだ。

 少なくとも、俺の知り合いにはこんな女性はいない。……もしや美人局つつもたせか?

 話題になった俺のことを騙そうと、そういう魂胆か?


「あ、ごめんね。自己紹介が遅れたね」


 ニッコリと微笑み、美人は自己紹介を始める。


「私の名前はシセル・ル・セルシエルだよ。唐突だけどアルガさん、あなたとパーティを組みたくてここまで来ちゃった」


 人類最強の女性・・・・・・・は、そう告げた。

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