閑話 ムカつく【ラトネ視点】


「本当にムカつくわね!!」


 さっきアタシ達の寛大な勧誘を断った挙句、アタシ達を脅したアルガが本当にムカつくわ!!

 何よ!! 見ない間にちょっと強くなったからって、あの態度!! 傲慢よ!!


 ……まぁ、ちょっとカッコよくなっていたけど。

 だけど、クスリでよくなった容姿よ!! やっぱり、ダメよ!!

 でも……カナトよりも大きくなっていたし。カッコよくなっていたし。

 ううん、ダメなものはダメなんだから!!


「本当にムカつくっスね。あの態度はあり得ないっス」


「私たちが慈悲深く勧誘してあげているというのに……本当に度し難いですね」


「だが……アルガを仲間に引き入れられなかったのは、かなり大きいな」


 カナトの言う通り、アルガはここで勧誘しておきたかったわ。

 認めたくないけれど、どうやら他のテイマーのいうことは正しかったみたい。

 アルガはテイマーの中では並外れた才能を有していて、魔物に関する知識も並外れているらしいの。


 もちろんテイマーの中での話だから、アタシ達からみたらゴミみたいな才能なんだけど。

 だけど……どんな魔物のことも知っている、あの知識だけは認めてあげるわ。


「どうするっスか? このままだと、わたし達はまた前進できないっスよ」


「あぁ、わかっている。……クソ、認めたくないな」


「そうですね……あの役立たずテイマーの知識がなければ、迷宮の攻略がここまで難しいだなんて認めたくありませんね」


「本当!! あぁ!! ムカつくわね!!」


 アルガがいなくなってから、アタシ達の活動は……少しばかり、難しくなったわ。


 これまではどんな魔物が現れても、アルガに聞けば弱点や特徴を教えてくれたわ。

 だけどアルガがいなくなくなってからは、当然だけどそうはいかなくなったの。


 弱点もわからない未知の魔物を相手に、アタシ達は……連戦連敗よ。効果的な攻撃もわからないで試行錯誤している間に、倒されちゃうの。

 ここ数週間は、ロクに迷宮を踏破できていないわ。


 だからこそ、ここでアルガを仲間にしておきたかったのに……。

 どうしてアイツは、大人しくアタシ達の元に戻ってこないのよ!!


「だけど、安心してくれ。俺に考えがある」


「あら、どんな考えなの?」


「以前、先輩冒険者が言っていたんだ。一度も戦闘を行わない、そんな冒険者の話を」


「一度も戦闘を行わない……? そんなことが可能なんスか?」


「あぁ。全てのザコ敵から逃げて、ボスは毒薬などで倒すんだ。先輩はこの戦法を使う冒険者を『チキン戦法の冒険者』と呼んでいたな」


「一度も戦わないといいながら、ボスは倒す必要があるのですね。ですけれど、それなら私たちにでも可能そうです」


「毒薬なんて使わなくても、俺たちには『力』がある。最強の魔法を使うラトネ、拳で全てを粉砕するサンズ、傷ついた仲間を癒すナミミ。そして何より、俺がいる」


 カナトの言葉を受けて、まるで霧が晴れたかのような気分になるわ。

 さすがはカナト。言うことが違うわね!!


「ザコ魔物を避ければ、残るはボス魔物だけ。弱点なんか狙わなくても、俺たちの力があればゴリ押せるだろう!!」


「確かに……わたし達が苦戦していたのは、すべて道中のザコどもっス。狙う敵をボスだけに絞れば、道中の消耗も少ないから倒せる可能性が高いっスね」


「そしてボスを倒せば……再び、私たちは前進できますね!!」


「あぁ!! よく考えれば、俺たちにアルガはいらない!! 不遇のテイマーなんて、不要なんだ!!」


「そうよ!! 魔物の知識しかない頭でっかちは、アタシ達には必要ないのよ!!」


 さすがカナト、いいこと言うわね。

 カナトの作戦は、素晴らしいわ。

 この作戦がうまくいけば、あらゆる迷宮が攻略可能になるってことだものね!!


「よし!! それじゃあ早速だが、明日迷宮に挑むぞ!!」


 あぁ、なんて気分がいいのかしら!!

 アルガが不要なことに気づいて、さらに新たな一歩を踏み出せるんだから!!

 

 こんなに素晴らしい日は、存在しないわ!!

 アルガなんて……いらなかったのよ!!

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