第16話 再会


「……もしかして、アルガか?」


「……チッ、カナトかよ」


 楽しい気分が台無しだ。

 コイツらとは二度と出会いたくなかった。

 自己中で傲慢、俺を評価できないクズども。

 新たに武具を新調した日に出会うなんて、最悪だ。


 しかし……カナトって、こんない小さかったんだな。

 160センチだったあの頃は、見上げるほど大きく見えたが……。

 確かカナトの身長は175センチだ。197センチの今の俺からしたら、そりゃ小さいが……俺の思っていた以上に小さく感じる。


「どうしたんだよ、その身体!! それにその装備!!」


「アンタ……危ないクスリに手を出したのね!! 低身長で弱いから!!」


「とうとうしちゃったんスね? 万引きして防具を強くしても、本人の力量がゴミなら意味ないっスよ?」


「懺悔しましょう。あなたの罪は重く、神がお許しになるかわかりませんが」


 めんどうな女どもだ。

 こういうところが、大嫌いなんだ。


「ハイハイ、じゃあな」


「おいおい待てよ、アルガ。久しぶりの出会いなんだ、少し話しでもしようぜ?」


「……悪い、急いでるんだ」


 少し話? 冗談じゃない。

 俺のことを散々悪く言っておいて、よくもまぁそんなことを言えたもんだ。


「何よ!! 失礼じゃないの!?」


「そうっスよ、カナトさんがこう言っているんだから、素直に話しに乗ったらどうっスか?」


「意地を張っていないで、私たちとお話ししましょうよ」


「……鬱陶しいな」


 ヒステリックバカ、若作りバカ、清楚系バカ。

 こんなバカ女達と四六時中一緒にいて、よくもまぁ狂わないもんだ。以前の俺は、若干のノイローゼになっていたというのに。


「ん、おい!! アルガ、腰に着けているそれって!!」


「え……あ」


 しまった。角笛が見られてしまった。

 あぁ……めんどうなことになりそうだ。


「オーガのレアドロップ……だよな?」


「あぁ……うん。そうだ」


「へぇ……適当なパーティに腰巾着として加わって、そのパーティの慈悲で角笛を譲ってもらったのか?」


「これは俺1人……正確には仲間の魔物と一緒にだが、なぁ実質ソロで手に入れたんだ」


「ウソよ!!」


「不遇職であるテイマーが、ソロでオーガを倒せる訳がないっス」


「嘘までつくなんて……度し難いですね」


 ほら、めんどうなことになった。

 はぁ……さっさと帰りたい。


「信じなくてもいい。それより、俺さっさと帰りたいんだけど」


「でもよ、アルガ。俺たちはもっとスゴいぜ!!」


「聞いていないし……」


 カナトは懐からあるアイテムを取り出した。

 見せつけるように天に掲げ、俺に自慢してくる。


「お前はD級のレアドロップだが、俺たちはB級のレアドロップだ!!」


 カナトが見せつけてきたのは、金色の指輪。

 緑色の宝玉の埋め込まれた、綺麗な指輪だ。


「『ゴーストプリンス』のレアドロップか」


「さすがはテイマーだな。魔物に関する知識だけは、人一倍といったところか。それ以外はゴミ以下だけどな」


「……で、何が言いたいんだ?」


「お前がセコセコと腰巾着として他のパーティに寄生している間に、俺たちは4人でゴーストプリンスの討伐に成功したんだよ!! レアドロップもゲットしてな!!」


「いや、俺はソロで。いや、聞いていないか。で……自慢しているところ悪いが、そのアイテムの効果は知っているのか?」


「は? 知らねェけどレアドロップアイテムなんだから、強いに決まっているだろ!! 少なくとも、D級のオーガよりは、格段に強いぞ!!」


「……1つ忠告だが、帰ったら図鑑を見た方がいいぞ」


 ゴーストプリンスのレアドロップアイテム、『引き裂かれた愛の指輪』。

 その効果は……特にない。

 着装したところで、魔力を込めたところで、何の能力も発動しないのだ。


 アイテムのレア度とその価値は、比例しないことの方が多い。同時に魔物のランクが上昇したからといって、魔物が落とすアイテムが絶対に良くなるなどということはない。

 現にクソの役にもたたない指輪よりも、ずっと低ランクのオーガの角笛の方が価値が高い。その辺に生えている薬草の方が、綺麗なだけの指輪の何倍も役に立つ。


 通常ドロップの方がレアドロップよりも強くて価値があるなんて、ザラにある話だ。

 低ランクの魔物が落とすアイテムの方が、高ランク魔物が落とすアイテムよりも優れているということもよくある話なのだ。


 まぁ、コイツらはそのことに気付いていないだろうがな。

 強い魔物のドロップアイテムは、絶対に強い。などという、時代遅れな考え方をしているのだろう。


 滑稽だな。憐れで惨めだ。

 真の価値に気付くことができずに、真の価値を知る俺に自慢をしている姿は。


「おいおい、悔しいからって嫉妬するなよ」


「嫉妬……お前にはそう聞こえたのか」


「テメェの角笛よりも、俺たちの得た指輪の方がずっと強いし、価値があるんだよ!!」


「あぁ……うん。そういうことにしておこう」


「悔しいだろ!! 戻ってきたくなっただろ!!」


「いや、全然」


 人の話も聞かず、無駄に自慢をしてくる連中ともう一度組みたいなんて、余程のバカじゃないと思わないだろう。

 少なくとも、俺はそんなバカじゃない。


 それにしても……こいつら、本当に何がしたいんだ? マジでただの自慢がしたいのか?

 仮にそうだとすれば……かわいそうだな。

 自慢できる人が、周りにいないのだろう。

 自己顕示欲を満たしたいというのに、それを満たしてくれる人がいないのだろう。

 ……心の底から憐れんでしまう。


「もしも……もしお前が戻りたいんだったら、別に戻ってきてもいいぞ」


「……はぁ? 俺の話聞いていたか?」


「気まずいのもわかる!! 照れ隠しだろ!! 本心を出せないのは、よくわかる!!」


「いや……え、そんな風に思われていたのか?」


「だが……どうしてもっていうのなら、お前が戻ってくることも許可してやるよ。テイマーはクソ職業だが、お前の魔物に関する知識は……認めているからな」


「あぁ……なるほど。完全に理解した」


 つまりコイツらは、俺に戻ってきて欲しいのだろう。

 魔物に関する知識の豊富な俺を失い、出会う魔物の特徴がわからなくなった。弱点や有効属性、その他もろもろを俺はコイツらに教えてやっていたからな。

 そして敵対する魔物のことがわからなくなり、勝率が低くなった。迷宮攻略も難しくなった。


 だからこそ、俺に戻ってきてほしいのだ。

 俺の知識さえあれば、迷宮攻略が容易くなるから。魔物の討伐が容易になるから。


 しかし、それを素直に言うにはプライドが邪魔をする。

 結果、こんな回りくどい言い方になっている。

 大方、そんなところだろうな。


「……呆れた」


「は? 何がだよ」


「今さら戻ってこいだと? もう遅いんだよ」

 

 短剣を抜き、3匹の仲間を召喚する。

 3匹を見た彼らは、目をギョッと見開いた。


「な、なんだよ!! そいつら!!」


「気持ち悪い……。何よそのキメラみたいな魔物!!」


「毛深いウルフ……。あんなの見たことないっスね」


「普通のスライム……? いいえ、以前と比べて何かが変わっていますね」


 お前らの感想なんて、どうでもいい。


「今すぐ俺の前から失せろ。さもないと──」


「わ、わかった! か、帰ってやるよ!」


「野蛮ね! これだからアンタのことは嫌いなのよ!!」

 

「ワタシ達と組むのが嫌なら、素直にそう言えばいいのにっス」


「すぐに暴力に訴えるなんて、やはり彼は優れたテイマーではありませんね。真に優れたモノなら、対話で穏便に解決するハズですから」


 ゴチャゴチャと言いながら、カナト達はダッシュで駆けていった俺の3匹に対して勝てないことを察したのか、慌てて逃げていった。

 ……情けない連中だな。


「本当に腹の立つ連中だな」


 自慢と再勧誘。

 神経を逆撫ですることに関しては、天才的だと言えるだろう。


「アイツらがバカにできないほど、強くなってみせよう。できるだけ早く」


 ヤツらの顔を見たことで、俺のやる気に火が付いた。

 早速明日は魔物のテイムを頑張るとしよう。

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