第13話 1億分の1のボスドロップ
オーガを倒してからすぐに、2つのモノが出現した。
1つ目は帰還用のゲート。そしてもう1つは宝箱だ。
「ボスドロップ……、あまり期待はしないでおこう」
魔物を倒すと稀に、アイテムを落とすことがある。
さらに落としたアイテムには【通常ドロップ】と【レアドロップ】の2つが存在する。通常ドロップは価値の低いモノがほとんどだが、レアドロップはその名の通り希少価値の高いモノがほとんどだ。
冒険者が迷宮に潜るのは、レアドロップアイテムを狙うためだと言っても過言ではない。
そしてザコ魔物は稀にしかアイテムを落とさないが、ボス魔物は倒すと必ずアイテムを落とす。
そしてボス魔物にも通常ドロップとレアドロップは存在し、その希少価値はザコ魔物のそれとは比較にならない。D級のボスであるオーガのドロップアイテムでさえも、レアドロップだったら5年は遊んで暮らせるほどの価値があるのだ。
……まぁ、レアドロップの確率は1万分の1程度だから、そうそう出るものではないのだが。実際に俺は一度も出したことがない。
簡単に出るのであれば、ボス周回をする冒険者なんていないだろうからな。
「さて、中身はなんだろうな──」
宝箱を開く。
そこには──
「──え」
無骨な角笛が
◆
魔物が落とすアイテムは、基本的に1つのみだ。
だがごく稀に……具体的には10万分の1の確率で、アイテムを2つ落とすことがある。レアドロップよりも低い確率なので、その現象に遭遇した冒険者は少ないが。
理論上はレアドロップを2つ得られる可能性もある。だが、1万×10万=1億分の1の確率なので、俺の知る限りだと歴史上この現象に遭遇した冒険者は存在しないハズだ。
天文学的確率の現象。
普通であれば、遭遇する者など現れない──ハズだった。
「──え」
宝箱の中には、無骨な角笛が
その事実が俺をフリーズさせる。
「お、オーガのレアドロップは……『戦いの角笛』だ。こ、効果は……味方全体の攻撃力を10分間10パーセント上昇させること……だ」
D級にしては破格のアイテム。
オーガを周回する冒険者が多いのは、このアイテムが原因だ。
ちなみに売値は金貨900枚。働かなくとも3年は生きていける額だ。
「れ、レアドロップが……2つ……。つ、つまり……1億分の1の確率を引いた!?!?!?」
眼球が飛び出そうなほど驚いてしまう。
マジか、まさか俺にこんな幸運が降り注ぐなんて。
……ここで運を使い果たしたんじゃないか? 俺、明日死ぬんじゃないか?
「ま、待て。落ち着け、餅つけ。まだ慌てるような時間じゃない」
興奮を鎮める。
そうだ、冷静になれ。
「と、とりあえず……1つは保管して、1つは売却しよう」
そして3年間無職生活……と、いう生き方もアリだろう。
だが──
「……無職を謳歌している間に、カナト達がドンドン成り上がったら嫌だな」
俺を捨てたカナト達を、見返してやりたい。
財力という形ではなく、冒険者として上に立ってやりたい。
そして、こう言ってやるのだ。「不遇職に追い抜かれて、悔しくないのか? 俺を追放したことは、間違いだったな」と。
せっかく強くなれる力に気づけたんだ。
だったら、のうのうと堕落するのは勿体ない。
カナト達よりも強くなって、カナト達よりも上に立ちたい。
具体的には……SSS級になってみせたい。
「そのためには……まずは武器の調達だな」
ナイフを手に取り、ため息を零す。
ボロボロでヒビの入った、なんとも頼りないナイフだ。
中古の安物だから仕方のないことだが、よくこんな武器でこれまで戦えてこれたな。自分でも驚きだ。
「帰還してすぐに武器屋に……いや、その前に風呂か」
数十時間この迷宮にいたので、風呂に入りたい。
まぁ、俺は臭くないんだが。
「その後は……ゆっくり寝ようか。ロクな睡眠を取っていないからな」
ハァ、また長い睡眠を取ることになるのだろうか。
時間を無駄にしているようで嫌なのだが、睡眠不足は身体にも脳にも悪いからな。
眠らない日々を過ごすことは、俺の求める強さから離れてしまうことに繋がる。
仕方ない。グッスリと眠ってやろう。
「さぁ、帰還だ」
俺はゲートに足を踏み入れた。
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