第12話 VSオーガ


 その後、俺は迷宮散策に数十時間費やした。

 おかげさまで俺のレベルは150を超え、3匹もレベル20を超えている。

 テイムに成功したメタルカナブンが3匹とかなり少ないが、出現率が低くすぐに逃げるメタルカナブンを3匹もテイムできたのだから上々だろう。


 ちなみにモンスターハウスには、出会うことができなかった。

 どうやら俺の運は、闘気を得た段階で尽きたらしい。

 ……悲しい。


 数十時間迷宮を散策し続け、さすがに風呂に入りたくなったので俺たちは最終層の5層までやってきた。ちなみに俺は臭くない。

 5層に降り立つと、目の前には巨大な扉があった。ボス部屋の扉だ。

 ボスを倒せば帰還ゲートが出現し、帰還が可能になる。さっさと倒して帰ろう。


 扉を開く。

 そして、部屋にいたのは──


「オガガ……」


 それはヒト型の魔物だった。

 3メートルを超える長身に、筋骨隆々の身体。

 皮膚は浅黒く、頭部には大きな角。もちろん牙も生えている。

 右手には巨大な棍棒。防具は腰蓑だけと貧相。

 

「オーガか」


「オガァアアアア!!」


 D級の魔物、オーガが俺たちの前に立ちふさがった。

 

「……以前までの俺ならば、きっと焦り糞尿を漏らしていただろう」


 だが、今の俺は違う。

 レベルは50もあり、何よりも最強の味方が3匹もいる。


「テイムはする……が、まずは弱らせてからだな」


 いくらボスとはいえ、俺が戦えば一撃で屠ってしまう。

 その為、今回の戦闘では俺は戦わない。

 全て3匹に任せ、俺は指示を出すだけにしよう。


「オガァアアアア!!」


 パルパリ迷宮最後の戦いが、幕を開けた。



 ◆



「ララ!! 殴れッ!!」


「キドラッ!!」


 棍棒を振り回すオーガの攻撃を潜り抜け、ララはオーガの腹を殴る。

 ゴブリンと配合したことで得たスキル【体術】のおかげで、ララのパンチの威力が増している。

 メタルカナブンの甲殻にも一撃でヒビを入れるその拳は、如何に屈強なオーガであっても悶絶するほどだった。


「キドラッ!!」


 その後、ララは軽く飛翔。

 そして、炎を纏いながら回転してオーガを攻撃した。


「なるほど、【火炎車】か」


 『ファイアーネズミ』という魔物から得た、【火炎車】というスキル。

 炎を纏いながら回転するという攻撃は、シンプルながらも強力だ。

 現にオーガは腹を焼かれ、悶えている。


「オ、オガガ……」


「リリ!! 首に噛みつけ!!」


「ガルァ!!」


 腹を抑えて蹲るオーガに対して、リリが追い打ちをかける。

 首に噛みつき、牙でその肉を抉る。

 大量の出血をしてしまうが、リリの攻撃は止まない。


「ガルァ!!」


 リリは少し離れ、毛を逆立てた。

 そして、逆立てた毛をオーガに飛ばす。


「なるほど、【毛棘飛ばし】か」


 『ヘッジホッグ』という魔物から得た、【毛棘飛ばし】というスキル。

 トゲのように鋭い毛を飛ばす攻撃は、シンプルながらも強力だ。

 現にオーガは毛棘が突き刺さり、苦しんでいる。


「オガガ!!」


「ルル!! ニードルで突き刺せ!!」


「ピキー!!」


 リリを突き放そうと暴れまわるオーガを、ルルが【ニードル】で突き刺す。

 腹に突き刺さったルルは、突き刺さったまま動かない。おそらく【毒爪】の要領で毒を注入しているのだろう。


「オ……ガァ!!」


 思い切り暴れまわり、オーガはリリとルルを突き放した。

 だが被害は甚大で、喉元と腹部から多量の出血が見受けられる。

 おまけに毒を注入された影響か、顔色もかなり悪い。


「よし、そろそろいいだろう」


 苦しみ悶えるオーガに近づき、唱えようとする。

 だが、その瞬間にオーガは俺に向かって、拳を振るってきた。


「オガァアアア!!」


「……ハァ、D級のお前じゃ無駄だ。俺には傷1つ与えられないぞ」


 オーガの拳が俺の頭部に命中するが、無傷。

 傷1つ付かない俺を見て、オーガは驚愕している。


「オ、オガァ!!」


「ハァ……何度攻撃しても、全て無駄だ。いい加減、諦めろよ」


 オーガの連打。

 だがそのどれもが、無傷。

 攻撃力が50を超える程度のオーガの攻撃では、俺には傷を与えることなど不可能なのだ。


「鬱陶しい。そろそろやめろ」


 攻撃してくるオーガの右腕を掴み、思い切り引っ張る。

 すると──肩からオーガの右腕が千切れた。


「あ」


「オガァアアアアア!!」


 轟くオーガの咆哮。

 滴るオーガの鮮血。

 やばい、やり過ぎた。


「さっさとテイムしよう。《仲間術テイム》」


 オーガの身体に触れ、唱える。

 するとオーガの身体は淡く輝き、俺の影に入っていった。

 

「……俺の勝ちだ!」


 D級の迷宮を実質ソロで踏破した。攻略した。

 その事実が俺の胸を熱くする。

 

 カナトパーティ時代、俺は腰巾着と煽られた。バカにされた。

 ソロでは何もできず、俺たちがいなければ無能だと揶揄された。

 悔しい気持ちでいっぱいだったが、その言葉は事実だったので言い返すこともできなかった。


 だが……今は違う。

 かつての雪辱を払うことができたのだ。

 D級の迷宮を難なく踏破し、ボスに圧勝できたのだ。

 

「……あぁ、気分がいい」


 心の底から、歓喜する。

 なんと……最高の気分なのだろうか!!

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