第10話 パルパリ迷宮 1/2


 次の日、俺はパルパリ迷宮にやってきた。

 パルパリ迷宮は街から数キロ離れた草原に、ポツリと存在している。


「相変わらず、にぎわっているな」


 ざっと見渡す限り、100人以上の冒険者がいる。

 どいつもこいつも新品の装備をしているので、新人冒険者ばかりなのだろう。

 まぁ、パルパリ迷宮自体が初心者向けの迷宮なのだから、当然と言えば当然なのだが。逆に冒険者歴2年の俺が挑む方が、異常と言えるだろう。


「さて、入ろうか」


 俺はパルパリ迷宮の入り口である井戸まで近づき、潜り込んだ。

 ちなみに迷宮のほとんどが、入り口が井戸の形をしている。理由は知らん。



 ◆



「……相変わらず、気分が滅入るな」


 井戸に入ると、そこには……気が滅入る空間が広がっていた。

 レンガで出来た壁と床。等間隔で壁に設置されたロウソク。

 そして……所々水たまりのある床。コケが生えた壁。カビ臭い空気。

 

 以前この迷宮に挑んだことがあったが、心底気が滅入ったものだ。

 あの時は二度と挑まないと決意したものだが……。ハァ、弱い俺が悪いんだな。

 さっさと配合素材の確保やレベルアップを行って、こんな迷宮とはおさらばしよう。ずっとここにいると、肺と頭が腐ってしまいそうだ。


「とりあえず……出てこい」


 3匹の仲間を召喚する。


「ドラァ!! ……ウッ」 


「ガルゥ!! ……ウッ」


「ピキー!! ……ウッ」


 3匹とも召喚と同時に、顔を歪めた。ルルには顔がないのだが、なんとなく歪ませたんだろうなと感じた。

 人間よりも感覚が鋭敏な魔物だからこそ、人間以上にこの迷宮は耐えがたいのだろう。……悪いことをしたな。


「3匹とも、こんな迷宮には長居したくないだろう。さっさとレベルを上げて、さっさと配合素材を調達して、さっさとこんな迷宮からオサラバしようと考えているんだが、お前たちはどう思う?」


「ド、ドラァ!!」 


「ガ、ガルゥ!!」


「ピ、ピキー!!」


「なるほど、3匹とも賛成のようだな。ならさっさと、迷宮散策を行おうか」


 幸いなことに、パルパレ迷宮は5層までしかない。

 1つのフロアも短く、敵も最大でD級までの魔物しか出現しない。

 要は完全に初心者向けの迷宮という訳だ。


「さっそく迷宮散策を……行うまでもないか」


 ふと視線を右に向けると、通路の奥に魔物が存在することがわかった。

 

「ブーン……」


「鋼色をした60センチほどのカナブン……メタルカナブンだ!! 経験値が豊富だぞ!!」


 一般的な魔物の数十倍以上の経験値を誇るメタルカナブン。

 防御力が高く素早しっこいため、倒すことは一苦労だが倒してしまえば一気にレベルアップできる。この機会だけは逃したくない。


「魔法や特殊な攻撃は通じない!! 全員物理攻撃で殺せ!!」


「ドラァ!!」 


「ガルゥ!!」


「ピキー!!」


 俺の指示と同時に、3匹は駆けだした。

 メタルカナブンはまだこちらに気づいていない。

 これは……いけるかもしれない。


「ドラァ!!」 


「ガルゥ!!」


「ピキー!!」


 ララのパンチ、リリの噛みつき、ルルの体当たりが命中。

 メタルカナブンの装甲に若干ヒビが入るが、まだ絶命には程遠い。


「メタルカナブンは生命力が極端に少ない!! そのまま押し切れ!!」


「ドラァ!!」 


「ガルゥ!!」


「ピキー!!」


 ララはそのまま殴打。リリは何度も噛みつき、ルルは【ニードル】で攻撃。

 メタルカナブンの装甲のヒビがさらに広がる。逃げ出したいようだが、続けざまに襲い掛かる攻撃に逃れられないようだ。

 そして、ついに──


「ブ、ブーン……」


 メタルカナブンの身体が粉砕した。


「よっしゃぁあああああ!!!!」


 柄にもなく大喜びしてしまう。

 脳内に響き渡るファンファーレ。レベルアップした証拠だ。

 それは3匹も同じようで、3匹とも大喜びしている。

 

 さっそくステータスを確認しよう。

 そう思った時だった。


「ド、ドラッ!?」


「お」


 ララの身体が光りだす。

 これは以前にリリにも起きた現象……進化だ!!


「ド、ドラッ……!?」


 光の中でララのシルエットが変わっていく。

 小柄だった身体が、見る見るうちに大きくなっていく。

 そして、光は──晴れた。否、晴れてしまった・・・・・・・


「キドラッ!!」

 

 そこにいたのは──


「……え?」


 なドラゴンの姿が、そこにはあった。



 ◆



 魔物は進化する。

 そしてその進化先は、『配合』を行うと変わる場合がある。

 リリに獣系の魔物を多く配合した結果、リリは通常の進化先である『ウルフ』ではなく『ビーストウルフ』という別種の魔物に進化した。


 そう、そのことは知っていた。

 だが……気づくのが遅すぎたのだろう。

 俺はララに……不要な配合を行いすぎた。


「キドラッ!!」


 ベースとなっている容姿は、ベビードラゴンに進化先である『リトルドラゴン』と同じだ。

 大きさは150センチ程度になり、全身がガッチリとした。首と上腕は身体の大きさに比べると、いささか長く感じる。

 眼つきは鋭くなり、牙も生えた。滑らかだったオレンジ色のウロコは、その色を保ったままザラザラとした感触になった。

 背中の翼はその大きさをほとんど変えておらず、飛べるかどうか怪しい。


 ここまでなら、普通のリトルドラゴンの特徴だ。

 ララもおおよその要素は、ただのリトルドラゴンと大差ない。

 そう、身体に付与された要素が多すぎるだけだ。


 右腕はリトルベアのように毛深く、強靭だ。

 片翼はバットのように、漆黒色に染まっている。

 左脚はゴブリンのように緑色で、若干頼りない。

 左手の指先はゴブリンのようになっており、モノを掴めそうだ。

 頭部にはホーンラビット由来と思われる、1本の角が備わっている。

 本来ならオレンジ色のウロコで覆われているハズの皮膚は、様々な魔物の皮をツギハギにしたような、若干グロテスクなそれに変容している。


「なんだよ……これ……」


 そう呟き、恐る恐るステータスを開いた。


────────────────────


【名 前】:ララ

【年 齢】:1

【種 族】:リトル・キメラドラゴン

【レベル】:1


【生命力】:58/58

【魔 力】:32/32

【攻撃力】:62

【防御力】:64

【敏捷力】:54


【汎用スキル】:剣術 Lv6

        短剣術 Lv11

        体術 Lv2

        引っ掻き Lv12

        噛みつき Lv11

        突進 Lv10

        超音波 Lv3


【種族スキル】:ベビーファイア Lv21

        超音波 Lv11

        ニードル Lv6

        毛棘飛ばし Lv3

        火炎車 Lv5

        毒爪 Lv8

        

【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:《下級の火球ファイア・ボール》 Lv3


────────────────────



「理由は……わかっている。全て俺の責任だ」


 リリが進化して、進化先に配合素材の要素が大きく関わると気づくまでに、俺は幾度も配合を繰り返した。否、繰り返してしまった。

 やたらめったらと深く考えもせずに、適当な魔物と配合を繰り返してしまったのだ。

 リリはたまたま獣系と多く配合を行えたが、ララは違う。ゴブリンなどのヒト型系やリトルボアなどの獣系、その他にも関係性の少ない魔物と多く配合をしてしまった。


 進化先に配合素材の要素が大きく関わることに気づいたのは、つい先日のこと。

 つまり……遅すぎたのだ。ララの進化までに甲虫系の魔物と配合させて軌道修正を行おうとしたが、既に遅すぎたのだ。


 結果、ララは歪な進化を遂げてしまった。

 合成魔物キメラの名の通り、様々な魔物と無理やり掛け合わせたような姿。

 まぁ……アレだな。俺は結構好きな容姿だ。歪ではあるが。


「ステータス的にはそう悪くないな」


「キドラッ!!」


「それに……ここから軌道修正をすればいいか」


 魔物の進化は1回だけでは終わらない。

 その回数は魔物にもよるが、ベビードラゴンの場合は計4回進化すると言われている。つまりララはあと3回は進化のチャンスがあるのだ。


「軌道修正は今からでも、十分間に合うな」


「キドラッ!!」


「それに……メタルカナブンのテイムに成功すれば、ララは手っ取り早く進化できる」

 

 ララに必要な甲虫系と鋼系の要素。メタルカナブンはそのどちらも用いる。

 つまり、これ以上ない最高の配合素材なのだ。


「よし、それでは……メタルカナブン狩り兼テイムに勤しもう!!」


「キドラッ!!」


「ガルゥ!!」


「ピキー!!」


 こんな場所に長居はしたくないが、強くなるために我慢しよう。

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