閑話 調べれば調べるほど異常【ネミラス視点】
「ふぅ……」
コーヒーを飲み、深くため息を溢します。
ただいまの時刻は深夜2時。40歳を超えての深夜勤務は、身体に応えますね。コーヒーが無ければ、寝落ちしていることでしょう。
「お疲れ様です、ギルドマスター」
扉を開けて部屋に入ってきたのは、受付嬢のフルフレさん。本日の彼女の勤務は、夜勤です。
どうやら、私のためにコーヒーを淹れにきてくれたようです。
「ん、あぁ。ありがとう、フルフレさん」
「滅相もあります。もっと感謝してください!」
「ハハハ……」
フルフレさんは受付嬢の中では、一番冒険者人気が高い。それに加えて、仕事も受付嬢の中で一番優秀だ。
だが……今の受け答えからもわかるように、少し変わっている。そういうところが、人気の秘訣なのだろうか……?
「何を調べていたんですか?」
「……数日前に『
「えぇ。忘れたくても忘れられませんよ!」
「……でしょうね。私もそうなんだから」
今年で41歳になりますが、『
フルフレさんも同じ思いなのでしょう。
「『
「……今、なんて言いました?」
「え? さすがにビックリですよって言いましたけれど……?」
「その前です。「『
「え、えぇ。あれ? 言ってなかったでしたっけ?」
「……初耳です」
受付嬢として、そういう大切なことは言ってほしいです。
……まぁ、時すでに遅しですけれど。
「ちなみに出会ったのは、いつ頃の話ですか?」
「この職に就く前なので、確か……3年前くらいですね」
「だったら、にじゅう──」
「歳は言わないでください!!」
「おっと、これは失礼しました」
そうですね、デリケートな問題ですから。
私がデリカシーに欠けていました。猛省。
「話を戻しますけれど、私が25歳の時に出会いました」
「自分で言うのはいいんですね……。まぁ、いいです。続けてください」
「あの頃、私は血気盛んで……少々荒れていたんです。気に入らない人はシメて、敵対した魔物は全て惨殺していました」
「確か……"暴鬼"なんて異名を持っていたんですよね」
「あはは……完全に黒歴史ですね。荒れていた私は、多くの冒険者にケンカを売ったんですけれど……その中にいたんですよ」
「『
「私は怯むことなくケンカをふっかけたんですけれど、結果は……惨敗です。あの日から、私は更正を決意しました。敗北してから、ケンカの無意味さに気づけたんですよね」
「それは何より……なんですかね?」
良い話風に聞こえますけれど、よく考えるとそんなこともないですね。荒れていただけの女性が、ただ更生しただけのよくある話です。
彼女にシメられた数多くの犠牲者や、ケンカを挑まれた『
「それで……どうでしたか? 『
「規格外……という他ないですね。手も足もでなかったです。当時、私はB級なのにですよ!!」
冒険者には、E級からSSS級までランクがあります。
一般的にB級から上級の冒険者として認められる風潮がありますので、当時のフルフレさんの実力は確かなものだったでしょうね。
「そうですね。フルフレさんの言う通り、『
「まさか……あのテイマーの人も?」
「えぇ。とはいっても、『
「……? どういうことですか?」
私はコーヒーを口に含みます。
うん、美味しい。フルフレさんのコーヒーは最高ですね。
「フルフレさん、"史上最強"のテイマーと聞いて、誰を思い浮かべますか?」
「え、えっと……上級職『ビーストテイマー』に唯一就いた、ルクミ・ミルクティアさんですか……?」
「その通り。テイマーを極めると解放される『ビーストテイマー』に史上初にして現在のところ唯一就き、7種の竜種と5種の魔王種を仲間にした彼女こそが"史上最強"のテイマーでしょう」
「その話が一体、何の関係があるのですか?」
確かに、この話だけなら意味がわからないでしょう。
「ルクミさんとアルガさんの共通点、何かわかりますか?」
「えっと……2人とも人間です!!」
「それもそうですが……正解は2つあります。1つ目は2人とも"独学"でテイマーになっている点です」
「別に普通じゃないですか? 私も独学ですよ?」
戦士のフルフレさんは、ピンと来ていない様子です。
「戦士や武闘家などの前衛職は、歯に衣着せない言い方をすれば誰でも就けます。身体を動かすことさえできれば、特殊な知識は必要ないですからね」
「まぁ……確かに簡単でしたよ」
「ですが魔法師や治癒師などの後衛職に就くためには、独学では厳しいです。魔法の扱いは日常生活では培われることは少ないので、学院などに通って勉強する必要があります」
「テイマーも同じという訳ですか?」
「テイマーに就くためには、魔物に対する深い知識と魔法師並の魔力操作を必要とします。不遇職だと揶揄されていますが、就職難易度は高いんですよ」
「なるほど……具体的にはどれくらいですか?」
「100人に1人程度しか受かりません。学院で3年勉強しても、落ちるなんてザラです」
「確か普通の魔法師が10人に1人ほどですよね……。そんな狭き門に独学で受かったんですか……」
彼は『歩く魔物図鑑』と呼ばれていたそうですが、それは決して誇張表現ではないでしょう。独学でテイマーになったのですから、あらゆる魔物の知識ぐ頭に入っていても不思議ではありたせん。
「2つ目の共通点は、『ベビードラゴンを仲間にしている』ところです」
「ベビードラゴンって、あのレアだけど弱い魔物ですよね?」
「えぇ。そうです」
「ベビードラゴンをテイムすることって、そんなに難しいのですか?」
「ベビードラゴンのテイムに必要なレベルは"1"です。ですがベビードラゴンを含めた竜種は、テイマーの才能を見極める能力が優れています。並外れた才能が無ければ、レベルが足りていてもテイムは不可能です」
「つまりベビードラゴンをテイムしている時点で、アルガさんの才能は人智を逸脱しているという訳ですね」
「えぇ。そうですね」
アルガ様は調べれば調べるほど、その異常性が見えてきます。
独学でテイマーになった件や、ベビードラゴンのテイムだけではありません。
2歳の頃、魔物と会話ができたという逸話。
5歳の頃、スライムをテイムしたという逸話。
10歳の頃、魔王の復活を予言したという逸話。
その他にも、数々の逸話が出てきました。
彼は……何者なのでしょうか。
「テイマーとしての才能なら、ルクミ様に匹敵かあるいはそれ以上の才能を有しているかもしれませんね」
「そこまで……ですか!?」
「決して誇張している訳ではありませんよ。あくまでも客観的な評価です」
アルガ様が『ビーストテイマー』になる日は、案外すぐそこなのかもしれません。
いえ、それだけに留まらず、もしかすると……世界最強の冒険者になるかもしれませんね。
「ふふっ、彼の成長が楽しみですね」
私はコーヒーを口に含み、笑みを浮かべました。
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