閑話 配合できないテイマー【カナト視点】


 アルガを追放してから1週間が経過した。

 俺たちは新たなテイマーを仲間にし、以前と同様に迷宮を攻略していた……のだが。


「ハァ……テイマーって、どいつもこいつも使えないのかよ」


 新たに仲間にしたテイマーの野郎が、トコトン使えない。

 魔物の知識は乏しく、従えてる魔物もショボい。テイマーらしく本人のレベルも低いしな。


「で、でも、僕は精一杯頑張ってるよ!!」


「頑張っているだけで、結果は残してないだろ。だったら聞くが、あの魔物の名称はなんだ?」


「わ、わからない……すまない」


 またこれだ。

 聞いても何も答えられず、謝るだけ。

 本当に……こいつはテイマーか? 知識が乏しすぎるだろ。


「ハァ……テイマーなんだから、魔物の知識くらいは秀でてくれよ。アルガはどんな魔物か聞けば、聞いてもいない細かいところまで答えたぞ?」


「アルガ様と一緒にしないでくれ! あの御方は独学でテイマーになった天才だ!! 不可能だと言われた偉業を、成し遂げたスゴい御方なんだぞ!! 知識量だって『歩く魔物図鑑』と謳われたような御方なんだ!!」


 アルガを追放してから知ったことだが、どうやらアルガはテイマー界隈では伝説の存在らしい。あんな無能でもテイマーになれるほどだから、テイマーが不遇職だと呼ばれる所以が理解できるな。


「だから、なんだって言うのよ!! アンタに求めているのは、アルガ以上の力よ!! せっかく採用してあげたんだから、期待に応えなさいよ!!」


「む、無茶言わないでくれ! アルガ様を越えるだなんて、僕程度には無理だよ!!」


「本当にテイマーって、どいつもこいつも無能っスね。言い訳を語る暇があるなら、努力をすれば良いンスよ。ワームとかの気色悪い魔物じゃなくて、まずは手始めにベビードラゴン辺りをテイムしてきて欲しいっス」


「べ、ベビードラゴンだって!? ドラゴン種のテイムなんて、千年に1人の天才でもなければ到底無理だよ!!」


「また無理って言いましたね。知識も低ければ、才能もない。ベビードラゴン如きのテイムも無理だって言うのでしたら、テイマーを名乗る資格はないと思いますよ?」


 3人にイジメられるクソテイマー。

 全く、本当に使えないな。この迷宮を攻略し終えたら、追放してやる。


「ハァ……ほら、クソテイマー。アレしろよ」


「アレ……?」


「わかるだろ、魔物同士を合成? 融合? させるアレだよ」


「え、いや……なんだよ、それ」


「ハァ? アルガは無能だったが、これだけは優秀だったぞ? 他の魔物と合体を繰り返して、様々な色に光るスライムは綺麗だったな」


 ゴブリンと合体させれば、緑色に。

 フレイムリザードと合体させれば、赤色に。

 ピンクバードと合体させれば、ピンク色に。

 それぞれ個性豊かに光るスライムを作り出すことは、無能なアルガにとって唯一の長所だった。


「魔物の合体……? も、もちろん錬金術によるキメラ作成じゃないよな……?」


「ハァ? 知るかよ。とにかく、アイツは魔物の合体をしたんだから、お前だって出来るだろ」


「む、無理に決まっているだろ!! そんな様々な色に光るスライムの作成は!! そもそも2匹の魔物を掛け合わせることなんて、テイマーには不可能だ!!」


「テイマーなら、誰でもできるとアルガは言っていたぞ?」


「テイマーは魔物をテイムして、使役するだけの職業だ!! 魔物をレベルアップさせて進化させることはできるけど、他の魔物と掛け合わせるなんて……そんなことはできない!!」


「だったら、アルガが行っていたのは何なんだよ!!」


「わからない、わからないが……」


 クソテイマーは、その先を言い淀む。 

 なんだよ、気になるだろ!!


「さっさと言え!!」


「……おそらく、僕の予想が正しければアルガ様は……」


「早く結論を話せ!!」


「アルガ様は…… 『2つ目の職業セカンド・ジョブ』持ちだ。それも……未知の職業に就いている可能性が高い」


 クソテイマーは神妙な顔で、そう語った。


「アルガが……『2つ目の職業セカンド・ジョブ』だと?」


「あぁ……。魔物同士を合成するという話が本当なら、この推測は正しいだろう」


「お前……それ、本気で言っているんだな?」


「ウソを吐いても仕方ないだろう」


 腹の底から、1つの感情が込み上げてきた。

 それは流れる沈黙を打ち破り、俺の口から漏れ出す。


「アッハッハ!! お前、バカかよ!?」


 大爆笑。腹筋が痛い。

 クソテイマーはポカンと、ハトが豆鉄砲食らったような表情をしている。


「あんな無能が『2つ目の職業セカンド・ジョブ』? おもしろい冗談だな!!」


「本当!! ギャグセンスあるわね!!」


「今すぐにでも、『笑わせ師』に転職すべきっスよ!!」


「うふふ!! バカもここまでいくと、笑えてきますね!!」


 俺たちの笑い声が迷宮に響く。

 本当に……おもしろい冗談だな!!


「冗談……? 僕はマジメに──」


「それ以上はいいよ。シラケるからな」


「待って、最後まで話を──」


「ほら、そろそろ仕事に戻るぞ。さっさと迷宮を攻略して、帰ろう」


 ただのクソテイマーだと思っていたが、意外とおもしろい冗談を言えるんだな。

 無能のアルガが『2つ目の職業セカンド・ジョブ』な訳ないのに。

 テイマーってヤツは実力だけではなく、頭まで弱いのかよ。



 ◆



 あれから1週間が経ち、あのクソテイマー野郎は追放した。別れ際に「あなた方はきっと……後悔することになりますよ」とかなんとか言っていたが、捨て台詞のセンスは三流以下だったな。


 その後も数人テイマーを仲間にしたが、どいつもこいつも使えないヤツばかりだった。

 知識は乏しく、使役する魔物は弱い。おまけにアルガのように、魔物同士を合成することもできない。


「テイマーってのは、ゴミしかいないのかよ!!」


 そう呟くと同時に、クソテイマー野郎の言葉が脳裏をよぎった。アルガが『2つ目の職業セカンド・ジョブ』であるという、おもしろい冗談を唐突に思い出したのだ。


「……まさかな」


「カナト、どうしたの?」


「……いや、なんでもないさ」


 俺も疲れているな。

 ほんの一瞬だけとはいえ、アルガが『2つ目の職業セカンド・ジョブ』である可能性を考えてしまうなんて。

 

 そんな訳がないのに。

 少し休憩を取ろう。そうしよう。

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