第5話 いざ実践へ


 その日の午後、俺は1つの依頼をギルドで受注した。

 内容はゴブリン5匹の討伐。初心者冒険者がよく受ける、人気の高い依頼だ。

 そして俺にとっては、新たな仲間たちの実力を測るのにちょうどいい依頼である。


「ゴブゥ!!」


 街から数キロほど離れた野原に、ゴブリンどもはいた。 

 子ども程度しかない背丈の、緑色の肌を持つ醜悪な魔物。

 手には錆びたナイフを装備しており、防具は革の腰蓑だけ。


 なんというか……あんな弱い魔物が、よく絶滅もせずにここまで生き延びられたな。

 素直に感心する。


「いや、感心している場合じゃないか。さっそくだが、試してみよう」


 俺は影から3匹の魔物を召喚する。


「ドラァ!!」


 1匹目はベビードラゴンのララ。

 配合までしたのに名前を付けないのは非情だと考えたので、名前を付けてあげた。

 バット由来の漆黒の翼をはためかせ、少しだけ飛翔に成功している。


「ウルー!!」


 2匹目はベビーウルフのリリ。

 リトルボアという小型のイノシシ型の魔物と配合した影響で、毛皮は少々強靭になり牙も少しだけ大きくなった。


 新たに得たスキルは『突進』。その名の通り、相手に突進するスキルだ。

 リリの有する『噛みつき』や『引っ掻き』を見ても同じことを思ったが……こんなものをスキルといって、本当にいいのだろうか?


「ピキー!!」


 3匹目はスライムのルル。

 容姿に目立った変化は見られないが、若干ながら身体が大きくなっている。

 配合した魔物はコボルトというイヌの頭を持つ魔物で、ゴブリン同様に最弱の魔物として名高い。……名高いのか?


 新たに獲得したスキルは『噛みつき』。リリの有するスキルと同じで、相手に噛みつくスキルだ。

 スライムの身でどうやって噛みつくのか、非常に気になる。


「よし……それじゃあ行くぞ!!」


 最後にこの俺。

 ステータスが一番高く、蜘蛛糸というスキルを扱える。

 だが装備が貧弱で、手に持っているのは中古のナイフだけだ。

 ゴブリンを倒すだけなら、これでも十分だろうが。


「ゴブ? ……ゴブゥ!!」


 1匹のゴブリンが俺たちに気づいた。

 だが、既に遅い。


「ララ!! 『超音波』だ!」


「ドラァ!!」


 ララが口から超音波を発する。

 マトモに食らった4匹のゴブリンの眼が白目になり、混乱していた。


「ゴブラァ!!」 


「1匹逃れたか!! リリ!! 追え!!」


「ウルゥ!!」


 超音波から逃れ、逃走を図るゴブリンをリリが追う。

 ゴブリンの足は遅く、あっという間にリリが追いついた。


「ウルゥ!!」


「ゴ……ブゥ!?」


 リリがゴブリンに突進を行う。

 リトルボアと配合したことによって、リリの頭部は以前よりも数段硬くなっている。


 そんなリリが、頭からゴブリンにぶつかった。

 ゴブリンの脆い骨がバキッと、折れる音が聞こえる。


「1匹撃破か。よし! ララとルルは残りのゴブリンを狙え!!」


「ドラァ!!」


「ピキー!!」


 未だに混乱しているゴブリンどもに、2匹は攻撃を仕掛ける。


 ララはゴブリンの頭を殴る。

 もちろん攻撃力の低いララでは、一撃で殺し切ることは不可能なので、幾度も何度も殴打する。


 ルルはその身体を大きく広げ、ゴブリンを1匹丸呑みにする。

 その後、半透明なルルの身体の中で確認できたのは、悲惨な光景。


 内部に棘を形成したルルは、その棘でゴブリンを串刺しにした。

 【噛みつき】と【ニードル】の合わせ技だろう。えげつないことをするな……。


「オラァ!!」


 3匹に負けじと、俺も1匹のゴブリンの攻撃を行う。

 ナイフを縦に振ると──


「ゴ……ブ……」


「……え」


 ゴブリンの身体が両断された。真っ二つになった。

 身体の中からは、まるで久寿くす玉のように臓物が漏れ出る。

 飛び散る鮮血が、俺の身体を赤く染め上げる。

 

「……マジか。この俺がゴブリンを両断……」


 俺がナイフを使う理由、それは単純に筋力が足りないからだ。

 剣も槍も盾も、筋力が足りないが故に持てない。

 弓は技量がない為、持っても意味がない。杖は魔法が使えないが故に、持っても意味がない。

 結果、軽く扱いやすいナイフに落ち着いたという訳だ。


 以前はナイフを使っても、筋力が低い為に良いダメージは与えられなかった。

 せいぜい自衛程度。運が良ければ、1ダメージくらいは与えられる。

 ダメージソースとしては一切期待していない、念のために一応所持しておくくらいの武器だったのだ。


「……ステータスの上昇って凄まじいな」


 いくらゴブリンであっても、中古のザコナイフ如きで両断できるとは思わなかった。そもそもステータスが上がったとて、俺がゴブリンを一撃で屠れるなど考えたこともなかった。

 想像以上に強くなった自分に、歓喜と動揺が隠し切れない。


【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】


「ま、待て待て!!」


 突如として目の前に現れた、合計10個のウィンドウ。

 この文字面が正しければ……俺は10もレベルが上昇したことになる。

 たかがゴブリン1匹倒しただけで、だ。


「ゴブリンの経験値って、せいぜい15程度だろ? それで10もレベルアップって……イカれているだろ……」


 いくら経験値を多く貰えるスキルがあったとしても、いくら必要な経験値が減少しても。常識で考えると、こんなことは到底起こらない。

 ……嬉しい限りではあるが、到底理解しがたい現象だ。


「ゴブ……」


「……ん、あぁ。1匹残ったな。こいつはテイムしておこう」

 

 混乱しているゴブリンに、手のひらを向ける。

 そして──


仲間術テイム


 と、呟くとゴブリンの身体を淡い光が包み込む。

 数秒ほどすると光は霧散し、ゴブリンの姿はそこにはなかった。


【ゴブリンをテイムしました】


 目の前に現れるウィンドウ。

 どうやら、成功のようだ。


「……とりあえず、全員のステータスを確認するか」


────────────────────


【名 前】:ララ

【年 齢】:1

【種 族】:ベビードラゴン

【レベル】:5


【生命力】:13/13

【魔 力】:7/7

【攻撃力】:4

【防御力】:2

【敏捷力】:5


【汎用スキル】:なし

        

【種族スキル】:ベビーファイア Lv3

        超音波 Lv2

        

【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:なし


────────────────────



────────────────────


【名 前】:リリ

【年 齢】:1

【種 族】:ベビーウルフ

【レベル】:5


【生命力】:9/9

【魔 力】:2/2

【攻撃力】:5

【防御力】:2

【敏捷力】:11


【汎用スキル】:引っ掻き Lv3

        噛みつき Lv4

        突進 Lv3


【種族スキル】:なし


【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:なし


────────────────────



────────────────────


【名 前】:ルル

【年 齢】:1

【種 族】:スライム

【レベル】:4


【生命力】:14/14

【魔 力】:7/7

【攻撃力】:13

【防御力】:5

【敏捷力】:3


【汎用スキル】:噛みつき Lv2


【種族スキル】:ニードル Lv8

        火炎車 Lv4


【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:《下級の火球ファイア・ボール》 Lv3


────────────────────


────────────────────


【名 前】:アルガ・アルビオン

【年 齢】:18

【種 族】:魔人

【等 級】:E

【職 業】:テイマー・配合術師

【レベル】:10


【生命力】:164/164

【魔 力】:65/65

【攻撃力】:241

【防御力】:238

【敏捷力】:301


【汎用スキル】:鑑定眼 LvMAX


【種族スキル】:配合魔人 LvMAX

        蜘蛛糸 Lv3

        

【固有スキル】:最終進化者 LvMAX


【魔法スキル】:なし


【職業スキル】:《仲間術テイム》 LvMAX

        《配合術ミックス》 LvMAX


────────────────────



「……想像以上だ」


 ステータスが大幅に上昇している。

 配合前のレベルの半分程度だというのに、既に配合前のステータスを凌駕しているなんて。

 これまではスライムしか配合しなかったが、俺はなんと勿体無いことをしていたのだろうか。

 

 3匹の上昇も凄まじいが、何よりも俺の上昇が群を抜いている。

 今考えるとレベルが10上昇したのは、俺が倒した1匹のゴブリンだけではなく仲間が倒したゴブリンの経験値も入っているのだろう。経験値獲得にラグが発生して、遅れて俺のレベルが一気に少々したのだろう。

 まぁ……たかがゴブリン3匹討伐しただけで、レベルが10上昇することも十分に異常なのだが。


 しかし、このステータスは凄まじいな。S級にも匹敵するぞ。

 生命力164……Aのタンクでも到達できない数値だ。

 魔力65……これはC級程度の魔法師に匹敵する。

 攻撃力241……A級の戦士でも、この数値に達せる者は少ない。

 防御力238……A級のタンクでも、中々到達できないレベルだ。

 敏捷力301……S級のアサシンと同等の数値だ。


 全てのステータスが並外れて高い。

 A級のタンクのタフさ、C級の魔法師の魔力。

 A級の戦士の攻撃力、S級のアサシンの素早さ。

 総合的に全てに優れ、尚且つ魔物まで使役できる。

 さらにレベルアップの速度も、尋常ではなく早い。


 客観的に見て、俺は……既に”無能”ではない。

 カナト達はB級であった為、既に俺は彼らを超えてしまった。

 たった1度の戦闘で。ゴブリンを3匹倒した程度で。


「俺……本当に最強になれるかもな」


 そう呟いた、その時──


「ガルァアアアア!!」


 突如として、目の前の草むらから魔物が現れた。

 それは白銀の毛を持つクマだった。

 体長はおよそ6メートル。重さは推定2トン。

 白銀の毛はまるで剣のように鋭く、所々犠牲者の血で赤く染まっている。鮫肌のように触るだけで、傷ついてしまうだろう。


 コイツの種族名は『ソードベア』。

 C級に指定されている、強者だ。

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