第6話 強敵出現


「さて、どうしたものか」

 

 ソードベアをテイムすれば、戦力の大幅な拡大に繋がる。

 配合素材にするも良し、仲間にしてそのまま使うも良し。つまりテイムをしてしまえば、どう扱っても戦力の大幅な拡大に繋がるのだ。


 だがしかし、倒せば莫大な経験値を得られるだろう。

 ソードベアはその強さに比例するように、経験値が豊富だ。1匹倒すだけで5000以上の経験値を獲得できる。

 ソードベアを倒せば、俺たちは一気にレベルアップできるのだ。


「悩ましいが……今回は倒すか」


 テイムはまた今度にしよう。

 ソードベアは珍しい魔物ではないから、また近い内に出会えるだろう。


「3匹は下がっていてくれ。コイツは俺が倒す」


 そう言い、3匹を影に戻した。


「ガルァアアアア!!」


「慌てるな。今から相手してやる」


 俺はナイフを片手に、駆け出した。



 ◆



 ガギンガギン、キンキンキン。

 ナイフがソードベアの毛皮に触れる度に、火花を散らせながらそんな音がする。


 ソードベアの毛皮は硬いと知ってはいたが、想像していた以上に硬い。

 ナイフが刃こぼれしまくっている。


「ガルァアアアア!!」


「よっ」

 

 毛皮の硬さに加えて、強靭な腕による引っ掻き攻撃。これが厄介だ。

 俺は敏捷が高いので難なく避けることができるが、少しでも触れてしまえば大ダメージは確実だ。


 いくらA級タンク並みの耐久性があっても、コイツも攻撃力だけならばA級相当の魔物だ。

 だからこそダメージは大きく、少しの油断が致命的になる。


「ナイフは通じない……かといって、体術は痛いだろうから却下。難しいな」


 打撃は通じるだろうが、あの鋭い毛皮を殴る勇気はない。

 となると……どうしたものか。


「ガルァアアアア!!」


「うーむ」


「ガルァアアアア!!」


「どうしたものか」


 ソードベアの攻撃を避けながら、攻略方を考える。

 なかなか思いつかないな。ここはとりあえず、自身のステータスでも見てみるか


「あ、いいのがあるじゃないか」


 目に留まったのは【種族スキル: 蜘蛛糸】。

 本来は粘着性の強い糸で相手を拘束するスキルだが、聡明な俺の頭脳は違う使い道を考えついた。


「ハッ!! うわ、思った以上に出るし、ベトベトするな」


 手首から糸が出るが、思った倍の糸が噴射されてドン引いてしまう。白くて粘っこくて……アレを想起させる。

 

「いや、下ネタはやめよう。ハァ……下ネタだと意識したから、やりづらいな」


 その糸をグルグルと、手に巻き付ける。

 完成したのは、簡易的なグローブだ。これでソードベアの毛皮も怖くなく、余裕で殴ることができる。

 ……帰ったら手を洗おう。

 

「これでお前の毛皮も怖くない!」


 脱兎の如く駆け、ソードベアの懐に潜り込む。

 腰を落とし、腕を引き絞り──


「食らえ! 下ネタパンチ!!」


 ──拳を突き出した。


「ガルァ……」


 腹がへこみ、吐瀉物を撒き散らすソードベア。

 腹の毛は全て折れ、尚且つ俺にダメージはない。


「さすがに風穴は開けられないか。だが痛くはないから、これから何発も殴れるな」


「ガルァ……ッッ!!」


「ヤル気か? 付き合ってやるよ」


 俺は今、"ハイ"になっている。叶うならば、この戦いを永遠に続けていたい。

 戦うことが楽しい。嬲ることが快感だ。

 あぁ、一方的に倒すことって、こんなに楽しいのか。


「ガルァッ!!」


「オラッ!!」


「ガッ……、ガルァッ!!」


「オラッ!!」


 ソードベアの猛攻を掻い潜り、腹を殴る。

 堅牢な毛皮は、今ではそのほとんどがへし折れている。美しい白銀の毛が、本人の血で真っ赤に染まっており痛ましい。


 内臓はグチャグチャになっているだろう。

 吐くものも既になく、ソードベアは虚な目で腕を振るう。

 当然ながら、そんな攻撃は通じない。


「ガッ……、ガルァ……」


「無駄なんだよ。オラッ!!」


 弱々しいパンチを避け、鼻を殴る。

 クマは鼻が弱点だ。それはソードベアにも当てはまる。


「ガッ……、ガルァ……!!」


 鼻を押さえ、仰け反った。

 両手で鼻を押さえているせいで、腹がガラ空きだ。


「オラッ! オラオラオラオラッ!!」


 殴打。殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。


 チャンスを逃すハズが無く、何百もの拳を叩き込む。

 メキメキ、グチャグチャと音がする。

 心地よく、グロテスクな感触が返ってくる。

 それらを求め、俺はさらに拳を贈る。


 何百回目か攻撃の時、気付いた。

 既にソードベアが、息絶えていることに。

 俺のレベルが、30を超えていることに。


「終わりか……」


 無残なソードベアの死骸を前に、様々な感情が交差した。

 戦いが終わり、虚しい気持ち。

 更なる戦いを求める、血気盛んな気持ち。

 強くなったことを改めて自覚した、嬉しさ。

 それらの感情が、心を巡る。


「俺……本当に最強になれるかもな」


 ゴブリンを倒した時とは、まるで言葉の重みが違う。

 A級の魔物を倒したのだ。それも圧勝という形で。


 18年間、恥の多い人生を送ってきた。

 不遇職だと罵られ、パーティから追放され。

 そんな俺の人生に、ようやく春が訪れたのだ。こんなに嬉しいことはない。


「……もっと強くなろう」


 カナトたちに、追放したことを後悔させる程に。

 不遇職だと罵られない程に。バカにされない程に。

 今よりもずっと、強くなってやる。

 最強のパーティを作り、これから無双してやる。


「……強くなろう」


 再度、俺は呟いた。

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