第4話

 大学一年生の秋。

 キャンパス内にある大きな図書館で読んだ一冊の本にひどく共感したことがある。

 美少年のドラキュラが人間の美少女に恋をするお話だ。

 彼は彼女のことを好きになればなるほど彼女の血が甘美に見え、今にでもその白い肌に牙を立てたくなるが、しかしそうしてしまえば彼女は人ではなくなってしまう。

 それを分かっている彼は自分の欲求に耐え続け、彼女は彼をドラキュラだと知らないまま彼との仲を深めていく。

 ただドラキュラも人の血を飲まなければ生きられない。彼は彼女から隠れるようにしながら他の人の血を啜り生きていた。

 しかしついに、彼女は彼が人の血を吸っている現場を目撃してしまう。

 彼がドラキュラだということを知った彼女は。

「化け物!!」

 彼を激しく罵って走り去っていった。

 それ以来、彼は血が吸えなくなった。血を吸おうとする度に彼女の言葉を思い出してしまった。

 そしてそのまま、彼は餓死した。


 ――読み終えたその本を机に置きながら、私は思う。

 彼は、私だ。

 好きな人にこそ自分を明かせない。

 明かしてしまえば、きっとその人は走って逃げてしまうから。

 私は、化け物なのかもしれなかった。 

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