第14話 オークと魔女と異世界人

とある日、私はオタル、フルドと共に川沿いで野営を張っていた。




「おらぁ!!」




大声とともにフルドは勢いよく剣を振った。


剣は届くべき標的のオタルにはあたることなく空を切る。




剣を軽々と避けたオタルに対し、フルドは目でオタルの体を追う事で精一杯の状態だ。


次の体制に構える事も出来ずにオタルの拳がフルドの顔にクリーンヒットした。


衝撃で吹き飛ばされたフルドは木や地面を削りながらバウンドし、最終的に木に叩きつけられてズルリと地面に落ちた。




「うっわ」




思わず声がでた。この状況、今何も知らない人が見ればオークが男を殴り殺したように見えるだろうが、私はもう何度もこの光景を見ている。




これはフルドの為の稽古、実践稽古だが、フルドは剣を振り回し、オタルの攻撃を避けられずこうやって吹き飛ばされているだけ。




こんなことで強くなるのだろうか。




まあ、しかし、感心する。なんと丈夫なことか




あのフルドという男、異常だ。




オタルはちゃんと手加減をしているのであろうが、それを考えてもフルドが飛ばされバウンドした木や地面の削れ具合を見ればそれが相当の力で叩かれたことは明白だ。




その拳を何度受けても、小突かれた程度の仕草ですぐに立ち上がる。


今回も、「うおーー、脳揺れた〜」と、軽く頭を叩きながら、元気に立ち上がる。




「あんたの加護ってよっぽどね」




「そういえば加護ってなに?魔法とはちがうみたいだけど」




オタルは何も知らないようにキョトンとした顔になる。




「あーあれ?言ってなかったっけ?俺が丈夫な理由だよ」




加護持ち




神の加護をもって生まれた者のことを指す。


加護にはいくつも種類がある。




千里眼、魔物の服従能力、未来予知、転移など様々だ。中には特有の武器を出現させる能力も確認されている。


他にも、鍛えもせずに高い筋力や高い魔力を持った者も、この加護持ちとして言われることがある。




「あんたの場合、鉄壁ってとこかしら?」




「ちげーよ、丈夫だよ。"鉄壁の盾"ってやつがいるし、俺は〝丈夫″だな」




そしてもう一つ、この加護持ちを持っているほとんどの者にはある共通点がある。




それは別の世界からの訪問者だということ




「あんたは、どっち?転生?転移?」




「多分転生だな」




「どうやって死んだの?」




「病気、まあそれでも10年以上は前の話だからよ、あんま覚えてない」




そんな会話の中、オタルはある疑問をフルドに投げかけた




「じゃあフルドはもっと年上ってこと?」




「あー、まあ、この身体の年齢ならオタルと一緒ぐらいだろ?確か17・8かそこら辺で死んだからまあトータルで30年以上にはなんのか」




フルドが自分よりも長い人生を送っていることに驚いた。




「そんなことより、飯にしようぜ、腹減った」




「まだ終わってないよ、もう少し」




「オタル師範まじぱないっす」






結局のところオタル、フルド、そして私は共に旅をすることになった。




私の受けたテトのオークの群れの退治のクエストもオタルに知らせたが、やはりハフの村に行くという。




理由を聞くと。




「多分誰も受けそうにないから」




と即答した。まあ納得だ。


テトに関しては報酬もいい、名を挙げるにも持ってこいだ。どこかの冒険者達にすぐに退治されていることだろう。




それと逆にハフの村に関しては普通の報酬の割に長距離の移動、目標に関しては、オークが一頭のみ、はっきり言って赤字になる可能性だってある。




前日




「なにがそんなに気にくわないかね」




「いい?クリフォードに関しては一般人に関わってほしくないの!わかる?」




フルドに睡眠薬が効かずオタルに見つかってしまったあと、私とオタル、フルドは再び焚き火のある野宿の場所に戻り、今後のことについての言い合いを始めていた。




「そのクリフォードってのが、オークの頭ってのも、下手すりゃ大規模な集団かもってわかったけどよ・・・オタル、そんなやばいのか?」




「うん、オークって何かしら襲ったりするから見つけやすいんだけど、


このクリフォードの群れは全然足取りが掴めないんだ。


何頭からか聞き出したはいいけど、場所も方角もわかってないみたいだし、」




「あれだろ?二人が出会ったオークは群れから追い出されて、刺客に追われてるって奴だろ?」




「うん、オークがそうやって階級を作る自体が異常なんだ。強い弱いだけで上下を決めるから」




「だから俺がいて何が問題なんだよ」




理解の遅いフルドの発言に私は苛立ちを募らせる。




「わかんない奴ね、そんな大層な集団が全然確認されないのよわかる?クリフォードって奴がかなりの知略家か、もしくはバックにかなりの奴がいる。数も未知数、虎視眈々と街の一つを落とす可能だってある。下手をすれば国家レベルの危険対象よ」




「だからってオタルと一緒に旅しちゃ悪いってことにはなんねーだろ。」




「あんたね・・・」




「大体、そんな大層なことならお前一人でやればいいだろ、第1、情報がいるなら人が多い方がいいだろ?」




「なに?あんたに情報の収集ができる?人脈なさそうだけど」




「お前、オタルと対応がちが・・・・まあ、できなくはない。ちゃんと信用できるルートだし」




「まずあんた自体が信用できないんだけど?」




フルドを別れさせる口実を探す、この会話が億劫になってきた。そんな時、オタルが「あのー」と話し始めた。




「僕はフルドとハフの村に行こうと思います。


フルドならオークぐらいになら殺させることはないと思うし、今まで良くしてくれてるし・・・・」




「ほらみろ、オタルもこう言ってるんだぜ?


つか、お前が一緒に来る方が意味わかんねーよ」




・・・・・・・・




ダメだ。と諦めた。




これ以上はオタルからの私の印象に悪影響が出るかもしれない。




まあ、当たり前だ、いかに私が美人でも、一度だけあった女より、数日共に旅をした男の方が信用されるのは当たり前だ。




確かに、言われてみると別に私一人で情報収集をするという手もある、ただ、オタルという貴重な戦力(飯)も捨てがたいのだ。




オークを探していた経験、知識、戦闘力、そして何より美味い飯、


先生のお墨付きだし、オタルと共に情報を集めればかなり早く集まる筈・・・だが、このいかにも足手まといな男が付いて来る。






「・・・・・はあ、わかったわよ・・・くそ」






ーーーーーーーー




こうして妥協の結果、ハフの村に二人と一頭・・・・いや、めんどくさいのでもう3人と言おうか




改めて、ハフの村に向けて、三人で道中を共にすることになったのだ。


稽古を終え、食事が始まる。


移動中に採れたキノコをふんだんに使う、シンプルに焼いて塩でいただく。




この旅の最大のいい点は、新鮮な肉が毎日食べられることだ。


オタルとフルドお陰で肉の獲得には事欠くことはない。


余分に取れた時には保存食にする。このフルドが作る燻製肉はなかなかにうまい。




このフルド、オタルと同じように、狩りや森の知識、料理に対しても、他の冒険者に比べてかなり秀でている。


一緒にいくのは嫌っだったが、まあ、なかなかどうして。


今までパーティーを組んだ男共みたいな腕っ節だけのに比べるなら、なかなかに使える。






「どうするオタル?まだ進む?」




まだ、太陽は高い、この場を片付けて進もうと思えば進める。


私の質問にオタルはきょとんと食事の手を止めた。




「え・・・えーと、フルド、どうする?」




「いやそれはお前が決めろよ」




フルドに話をして振るが、フルド自身はオタルに決める義務があるかのように返した。


大方、オタルは自分が決めていいの?と不思議に思ってるような顔をしている。




「・・・うーん」




「言っとくけどな、俺はお前に付いて行ってんだからな、お前がまだ進むならそうするし、休むなら休む、ただえさえ俺のせいで遅れてんだろ?」




なんだ、自覚はあったのか、


オタルは今まで一人の時はその俊足で走って移動していた。


フルドも、それを知ってか、出来るだけ走って移動はしているが、やはりオタルにとってはかなり遅い。




オタルは心配し、出来るだけ歩くようにはしてはいるが、これは元々オタルが体力のないフルドへの体力作りと足腰の強化のために始めたことだという。


余程疲労が堪らない限りは走って移動しているようだ。




フルド、少なからず、足を引っ張っている負い目を感じているのだろう。文句も言わずに走っていた。




しかし現状はそんなに早く体力がつくわけでもなく。バテてこうして早めに稽古と食事にしているというわけだ。




そんな時私はあるモノの存在を思い出した。




「面白いものあげましょうか?」




私はポーチの中からある小瓶をフルドに差し出した。




「面白いもん?」




「強心薬、劇薬だけど、あんたならちょうどいいくらいに聞くんじゃない?」




「お前なんてもんを」




こいつの丈夫という加護には、おそらく毒物にも耐性がある。私の睡眠薬が効かなかったのも加護のおかげだろう。




「まあ少し飲んで見なさいよ」




「お前これ使ったことあんのか?」




「うん。大丈夫、あ、口つけないでね」




本当は使ったことはない。そんな場面に合わないし。普通の人に飲ませれば、死ぬ危険性もある。




こいつなら大丈夫だろうと、私は根拠のない謎の自信があった。




仏頂面で薬をにらみながら、それをほんの少し口の中に垂らす。




「・・・まず」




やはりまずいのか・・・・




「どお?」




と、オタルは心配そうにフルドの身を案じる。




「そんな早く効くわけないだろ」




フルドの言葉通り、その後も効果ははでなかった。




食後の話の結果、結局後片付けを終わらせて進むことにした。


するとフルドは、もう少しと薬を瓶の半分程飲ませてくれと言ったので、瓶を渡した。




そして驚き動揺した。


軽く致死量を超えた量をゴクリと飲んだのだ。






そしてしばらくしてやっと効果が出始めた。




「すげぇこれ!!行ける行ける!!きつくない」




「フルド・・・目がすごく充血してるよ」




テンションの上がるフルドと、それを引き気味に心配するオタル。


薬の効果はわかったが、笑いながら走るフルドに私も若干引いていた。




結果をいうとかなりの距離を移動できたが、




次の日、疲労と筋肉痛がフルドを襲った。


まあ、当たり前か、


おそらく痛覚まで鈍くなっていたのかもしれない。




そんなフルドに合わせ、移動のペースは格段落ちた。結局、飲まない方が進んでいたことに気づき少し後悔した。




いくら丈夫で、毒や薬にも耐性があるといっても、筋力や体力、魔力、スタミナは多少鍛えてある常人と大差ない。魔力に関しては並み以下かもしれない。




普通は魔力補正で筋力や、それに伴う衝撃波などと言った攻撃力が上がり、その影響で防御力も上がるのだが、フルドに関してはそれは関係ないらしい。




まったく、わけのわからない加護だ。

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