第12話 エルダとビンゼル
あのオタルと言う謎のオークと出会って1ヶ月が過ぎていた。
ここは水の都パルミア。本当に綺麗な街だ。旅を疲れを癒すには最適な場所だ。何より食事の質がいい。一番安いところでも中々の出来だ。
私はカフェでケーキと紅茶を味わいながら、ある人を待っていた。ちなみにケーキはもう4個目だ。明日までにはここのケーキ全種類を食べ尽くすつもりだ。
話変わって、私の持論だが、街の良し悪しは料理の味で決まると言っても過言ではない。
犯罪が多い街の料理はまずいし、ここパルミアみたいな犯罪の少ない街は、安いところでも美味い。
そういえば、あのオタルも言っていた料理は心を豊かにすると。間違いない。逆でもそうだ。豊かになれば料理も美味くなる。
オークなのになかなかわかるやつだ。
あの村の料理も質素だが、なかなか美味かった。今度また立ち寄ろう。
ちなみにあの村で一緒にいたビンゼル達は勇都に戻った。いや戻らせた。お陰で伸び伸び旅も男遊びもできる。
「相変わらずの暴食っぷりね。流石グラトニーフレイヤ」
ケーキを幸せな気分で頬張っていると、横から声がかけられた。視線を向けると緑の髪をした若々しい女のエルフがそこにいた。
「このぐらい普通でしょ?先生、久しぶり」
エルダ・クロニクル、私の魔法の師匠だ。
相変わらずの美貌。私と合わせて美女が二人になったテーブル。自然と街行く人やカフェの客の視線が集まる。
「ええ、2年ぶり、あ、メイドさん、度数一番強い奴ボトルで、」
「も、申し訳ありません、当店は酒類は扱っておりません」
エルダにそう声をかけられた猫の亜人のメイドは、困ったようにそう返した。
「え、そうなの?えー、ないの?じゃあ紅茶で、あと適当につまみ持ってきて、何でもいいから」
「か、かしこまりました」
猫の亜人メイドは頭を下げてカウンターに戻っていく。動く耳がなんとも愛らしい。
「先生、ここ酒場じゃないのよ」
「言ってみただけよ、で、随分とビンゼルをこき使ってるみたいね」
「人聞きの悪い、シラドが怪我したから養生の為に戻したんです」
「ビンゼルも大変ね、もう歳なのに、ま、それはいいとして、本題に移るけど、オタル君にクリフォードの情報だったわね」
「ええ、やっぱり知ってるの?」
「オタル君はある程度、クリフォードはねー、多分別人」
「じゃあオタルから」
「可愛い愛弟子の為に報酬はここの奢りね」
「わざわざ来てもらったんだから、宿代でも払うわ」
「いいのいいの、ナンパした男の家泊まるから」
「相変わらずね先生」
「フフフー、で、オタル・ハッシュドアね?、良く覚えてる、えーと、何から話そうかな」
「そうね、何で勇王勲章持ってるの?」
「あーそれ、深層に3年いたのよ、私が推薦した」
「あいつ一人で?」
なぜか先生は、きょとんとした顔した。
「なに?」
「一人・・・ね、まあそうよね、あれは一人で数えてしまうわ」
ああ、そうか、オークは魔物だ。数え方は頭だ。
「話続けるわね。まあそれだけじゃないのよオタルの功績は」
「・・・・・・」
ーーーーーーーーー
先生の話を聞いて1時間は経っただろうか。いつのまにか頼んだケーキの数は2桁になっていた。あと2品で、この店のケーキは制覇できる。
「あんた良く食うわね」
「まだまだ」
「で、オタルについてはこのくらいでいいかしら?」
「そうね、大体はわかったわ」
「じゃあクリフォードについてだけど、どうして?」
「知ってるの?そのクリフォード」
「だから多分別人よそれ、私の知ってるクリフォードは友人の赤ちゃんなんだけど、もう天国に逝っちゃってるわ」
「そう」
「まだ、あんたが生まれる前の話よ。赤ちゃんの突然死なんて珍しいことじゃないわ。まあだからそのクリフォードは全く別のものね。ちなみにどこでその名前を?」
「オークが言ってたの。オタルは多分オークの親玉だって」
「オークの群れね」
「ボスはオークらしいんだけど、どお思う?」
「そーねー、オークにしちゃ頭良さそうね、その群れの数もわかんないの?」
「多いいとしか」
「でも、もしそんなに多いなら今までに討伐クエとか出てると思うんだけどね〜、何?オタルちゃん、その群れに入りたいの?」
「逆、滅ぼしたいんだって」
「あらー、同胞でしょ」
「あれとオークが同胞って違和感あるけど、」
「確かにねー、あの子はそこらのよりよっぽどピュアだったしねー」
「なんかしたの?」
「何も、隣で男女の営みをエロく話しただけ」
「・・・・先生」
「耳塞いでさ、必死になんかの計算してたわ、いや、それがほんと童貞って感じで」
「先生、そうやって産な人いじめるのやめたほうがいいわよ、いつかセクハラで捕まりそう」
「そんなことないわよ、こんな美人にいじめられて嫌な男っている?」
「はあ、まあいいけど」
「で、なんだっけ?」
「同胞でしょってとこ」
「あーそうそう、あの子がオーク討伐ねー」
「うん、そんなとこ、で、お願いしたんいんだけど」
「了解、私でも調べて見てってことね」
「いいの?」
「ほっといたら大きな案件になりそうだしね。それに暇だし」
「ありがとう、先生、ビンゼルは一緒?」
「うん、あんたの後ろ」
え?と後ろを振り返る。座っていたのは白いシャツに茶色いベストを着た高貴そうな老人。
遅れて後ろを振り返る老人と目が合う。
本当にビンゼルだった。
「・・・・・・服装変えると、わからないもんね」
「わざと、一般人のように振る舞うのも疲れますな、フレイヤ様」
「そうね普段のあんたの歩き方なら、多分怪しんでた」
「シラドは?」
「勇都の学園に入学させました」
「そ、私もその方がいいと思うわ」
シラドは戦いや隠密だけでなくもっと教養を積んだ方がいい。未来の選択肢が広がる。
「じゃあこれからは先生との仲介役として先生と一緒に行って」
「ですがそれは」
私の言葉に困った顔をするビンゼル。
「ちょっとー、監視役を私に押し付ける気?」
「監視ではない、護衛だ」
「一緒じゃない、まあ私は全然いいわよ、あなたがいれば情報の集まりも倍以上になりそうだし心強いけど」
ビンゼルは私には敬語を使うが先生には使わない。古くからの仲らしい。
「お願い」
「まあ、仕方ない、エルダ、今度アルフ様に会うときは口裏を合わせてくれ」
「いいわよー任せて」
再び深いため息をするビンゼル。
「・・・・はあ、フレイヤ様これを」
ビンゼルはベストの裏から紙を取り出し、私に差し出した。
「これなに?フルド・キャンセム?だれ?」
「はい、ポストギルドに溜まっていたオタルハッシュドア宛の手紙を受け取った者です。調べると銀階級の冒険者でした。とりあえず報せておこうかと」
「・・・でなんなのそいつ」
「わかりません、冒険者になったのはおよそ3年前、特に悪い経歴はありません。冒険者になるまでほ経歴がないところを見ると農村の出かと」
「怪しいわね。オタルを騙してるかも、あの子騙されやすそうだし」
先生の発言に不安がよぎる。なぜ心配しているんだ私は・・・・
「・・・・そうね、でいつどこの情報?」
「昨日、この街です」
「うそ、メイドさん!これとこれ急いで頂戴」
「おー、制覇しちゃった。メイドさん軽く引いてるわよ」
「いいじゃない別に」
「オタルくん探しにいくの?随分ご執心ね」
「・・・・そんなんじゃないわ。あいつはあいつで、なんかの情報集めてるかもしれないし。近くにいるんなら聞き出した方がいいでしょ」
「そう言うことにしとくわ」
「わかってる。もし想像通りなら、ほっといたらかなりヤバいし、アルフの耳にも入れといた方が良さそうね。私達は情報集めながら勇都に帰るわ」
「お願いね、先生、報酬は父さんに請求してね」
「りょーかーい」
「フレイヤ様、お気をつけて」
「うん、2人もね」
席を立ったビンゼルと先生はカフェから出た。
ケーキはまだだろうか。早く平らげて早くオタルを探しに行かなくては。
ーーーーーーー
カフェから出た街道、ビンゼルはエルダに声をかける。
「全くフレイヤ様はお前に似て大変だ」
「そお?」
エルダの言葉にビンゼルは眉間に手をあて、深くため息をする。
「いいじゃない、あの子の歳だもん、自由にさせましょ」
「・・・・・・・・・」
「でも、珍しいと思わない?」
「何がだ?」
「フレイヤよ、他人についてあんなに聞いてくるなんて」
「オタルハッシュドアか、確かにあんなに珍しい者はそうそうおらんからな」
「そおねー、あ、そう言えばその服似合ってるわよ」
「煩い、動きにくくてかなわん」
「またまた照れちゃって、こうやって旅すんの30年ぶり?あれ?40年だっけ?50年?」
「あれからそんなになるか」
「・・・・なに?」
「クリフォードか・・・・」
ビンゼルは空を見上げ古い記憶を思い出す。
「気になる?」
「気にならん訳ないだろ」
「まあね、関係ないわよ、たぶん」
2人の顔に不安が現れる。
二人は無言のまま、町の人混みに消えて行った。
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