第10話 オタルとフルド
オタルと旅を初めて1週間になる。
1週間前オタルに金を借りた後、オタルの手紙を送るついでにその金で最低限の装備を整えた。途中憲兵に相談したが、帰ってくるのは無理そうだと言われた。最悪だが仕方ない。男らしく割り切ることにした、、、がぶっちゃけ一週間たっても割り切れていない。
通行証、財布、愛用の剣、なにより手帳が手元にあったのは不幸中の幸か。
そして、金を貸して下さったオタル様、本当にありがとうと心の中で感謝する。
オタルはお金は返さなくてもいい、あげると言ってくれだが、俺の小さなプライドで借りるという形になった
そうしてオタルとの旅が始まったわけだが、
はっきり言って最初のオタルはうざかった。
俺の荷物を持とうとしたり、火の番、薪拾いも自分一人でして、俺を休ませようとした。
うざったくなり「お前、奴隷気質抜けてねーぞ」と言ったら困った笑顔でえへへと、苦笑いして、ごめんと言った。
だから決め事を作った。
1.自分の荷物は自分で持つ。
2.薪拾いや、野宿などの旅の作業は二人でする。
3.火の番は交代でやる。
4.料理はオタル、基本手伝う
複数人で旅をするならこれは常識だが、、オタルと旅をするなら、こういう決め事は絶対必要だと思った。甲斐甲斐し過ぎるのははっきり言ってうざい。
最初は戸惑っていたが、今になっては中々楽な旅になっている。なりより毎日手の込んだ美味い飯が食べられるのは大きい。
そうやってこの1週間で大分打ち解けたと思う。今ではオタルから敬語が出ることなんてなくなった。いい傾向だと俺は思う。
次の街ウランダが見えてきた。
「この辺でいいか」
「そうだね焚き火の野宿の用意しとくよ」
「了解、じゃあポスギル見てくるわ」
そう言って剣、財布、通行証と取り出して、他の荷物はオタルに預ける。そしてオタルは自分のバックにくくりつけられた皮袋を取り外し俺に渡した。
「おっも」
皮袋はかなりの重さだ。オタルに軽々と渡された荷物は、こちらの手に取った瞬間あまりの重さにバランスが崩れる。オタルがこれと共にこれの倍以上の荷物をずっと運んでると思うと素直に感心する。
「大丈夫?」
「お、おう、まあ、流石にこの距離ならな、買ってくる分はこれだけでいいか?」
そう言ってバックから取り出したメモを見る。
調味料や、消耗品、保存食などの必需品が書かれてある。街に入れないオタルの代わりに俺ができる役割の一つだ。
ーーーーーーー
重い皮袋を運びながら街の門へと向かう。
門の前にはテントがいくつか並んでいる。
よくあることだ。階級の低い通行証の者は審査で数日ここに留まることもある。
持ってないものは高い金を支払い通行証を発行するにも数日かかる場合もある。そして金のないものは必然的に街の周りでテントを張って暮らすことが多いのだ。
関所のある街の周りには大体こういう風景がある。
「・・・・おっも」
ようやく、ついた頃にはその重さに後悔していた。長い列が目の前に並んでいた。
ある者は通り、ある者は追い返される。
これはまだ時間がかかりそうだ。
そう思っていると。初老の物乞いが、列の並んでる人達を前から順に話しかけていた。俺との距離は少しずつ近づいてくる。
「通行証をお譲り頂けませんか?」
そう列の人たちに話しかけているようだ。ある人は無視、ある人は虫を払うように老人を煙たがる。
そして等々俺の所まできた。
「お願いします。通行証をお譲り頂けませんか?」
こういうところにはよくいる。通行証を買う金もない人は持ち物を売って金にするか、大体こうことをして物乞いをしている。前の街パルミアの関所にもこんな風景だった。余分にあるなら渡したいところだが、そうはいかない、一般の通行証とは違い、俺の通行証は銀等級で、個人に割り振られたもの、ほかの人に渡してもなんの意味も無い。別人が使えば逆に捕まってしまうこともある。
特殊なもので、俺が持っている時だけ文字が出る特別品だ。
可哀想だが、物乞いにそれを見せると残念そうに後ろの並んだ商人の所へ行くと怒鳴れ追い返された。
もう少し優しく断ればいいのに、、、
1時間は経ったか、ようやく俺の番がきた。ここはからは違う領地になる。検問が厳しいのも仕方ない。門の番兵が目の前を遮った。
「通行証を」
門番の言葉通りに通行証を渡す。通行証は俺の手から離れると文字は消え。ただの銀の板になる。裏表確認してから俺に返した。
通行証を受け取ると再び文字が浮き出る。
「裏を見せて」
兵士は通行証の裏表を念入りに確認する。
「確認した。荷物の検査をする。」
皮袋を地面に置き、中を開ける。
「素材か?」
「はい、全部そうです。換金しようと思って」
兵士はある程度中身を取り出して調べる。
「ほかの荷物は?」
「仲間に預けてます」
「なぜ一人で?」
「そいつ、通行証持ってないんですよ。だから向こうで待ってもらってます」
「そうか、冒険者だな」
「はい、まあ」
「それは助かる、今冒険者が少ないんだ、できればクエストを受けてやってくれ」
「はい、そのつもりです」
「まあ荷物も問題ないな、いいぞ通れ」
「ありがとございまーす」
入って見ると流石に大きい街だ。パルミアよりは汚いが賑わいならそれ以上だ。
とりあえず市場での換金を目指した。
ーーーーーーー
懐があったかい。かなりの金になった。荷物も軽くなって動きやすい。その足取りでポストギルドに向かった。
「いらっしゃいませ。ポストギルド、ウランダ支店です」
今回の受付嬢も可愛い、目の保養になる。
「手紙の配達と、フルド・キャンセム宛に手紙はありますか?」
そう言って銀の通行証を差し出す。
「御本人様ですね。少々お待ちください、ご確認させていただきます」
パルミアを旅立つ前、もう一度オタルの手紙を出しにいった。
内容はオタルの返事と、俺が仲介人になるという内容だ。次に行く街を書いて送ることで、"旅人探し"をしなくて済む、ゲラルドワーカーズにとってはかなりの金の節約になるはずだ。ウランダに来ることを知らせてある。そして宛先を俺にする事で本人確認の手間を大幅に減らせる。
今回、俺の名で届いていれば、うまく伝わったことになる。
「大変お待たせしました。一通届いております」
「こちら受取証書にご記入と、通行証の判をよろしくお願いいたします。」
名前のサインを書いて通行証の裏を受取証に当てる。すると通行証の文字が受取証書に移された。認印のようなものだ。便利なもんだ。
あとはメモの品を揃えるのと、情報を探すだけだ。
「とりあえず、情報っと」
先に情報集めだ、冒険者ギルドによることにした。
人に聞きながら冒険者ギルドを見つける。入って見ると、門兵の言っていた通り人手が足りないようだ。数人の冒険者しかいない。しかも、ほとんどが若い。おそらく新人冒険者だろう。
冒険者ギルドの受付の前に行く。
受付嬢はたった二人、ポストギルドとはえらい違いだ。でも二人ともなかなか可愛い
「こんにちは、冒険者様ですか?」
「えーと、そうなんだけど、冒険者のプレート無くしちゃって、通行証でなんとかできる?」
パルミアで盗まれた荷物の中には冒険者の等級を表すプレートも入っていた。銀等級まで行っていたのに
「そうですか、、以前の等級は?」
「銀です」
「え?、、あぁ、少々お待ちください。記録にお名前があるかもしれません、確認してみます」
なんださっきの反応は、まあわかるよ?
あれだろ?鉄等級、良くても銅等級にしか見えないんでしょ?
と心の中で訴える。
受付嬢は分厚い本を開く、冒険者の銀等級からは名前がほぼ全ての支部に名前が乗る。プレートをなくしても通行証があればどうにかなるようにできている。
そして「うっそ、本当にある」と言葉が漏れる。
おい、聞こえてるぞ。なんて失礼な受付嬢だ、まあ可愛いから許す。
「フルド・キャンセム様ですね。ご確認しました。クエストを希望で?」
「うん、とりあえず、オークの情報ある?」
ーーーーー数日前ーーーーー
「 その、フルド、次の街に着いたら、その、オークの情報も欲しいんだ」
夜の森の中、俺たちは火を起こし野宿をしていた。
美味いオタルの飯を平らげ、寝るまでの間の雑談の途中、オタルは重たい口調そう言った。
「オーク??仲間でも探してんのか?」
「違うよ、その・・・」
俺の言葉にオタルは困った顔をした。旅を初めて大分こいつの表情も読み取れることができるようにななっていたが、今は初めて見るような表情をしている。
「なんだよ?」
「・・・・殺す、、」
意外な言葉だった。こんな奴から殺すなんてことを初めて聞いた気がした。
「理由は?聞いてもいい感じ?」
「・・・・うん・・・・」
ほんの少しの沈黙
「オークが凶暴なのは知ってるでしょ?」
「まあな、強盗、強姦、殺戮大好きってイメージだよな」
「うん・・・その通りだと思う」
その言葉にオタルは俯く。
まずいこと言ったかな?と罪悪感を感じた。
「お前、もしかしてオークは人を襲うから殺すってことか」
「・・・・・うん、オークはね。楽しんで殺すんだよ。何回見て思ったんだオークなんていない方がいいんだ」
オタルの拳がギュッと握られる。
「お前そうやってオーク殺して回ってんのか?」
「・・・うん」
まさか、そんな秘密があったとは、旅を始める時は言い出せなかったんだな。まあ、押し切るように同行するようにしちまった俺が悪い。
「オークねー、俺でも一頭やるが精一杯か?群となるとキツイよな」
「そんな!フルドには迷惑はかけないよ、僕一人でやるから、情報だけでいいんだ」
オタルはそう言い終わると何かに気づいたようにまた俯いた。
「あはは、僕一人じゃなくて、一頭か」
小さな声でそう言った。
俺にもちゃんと聞こえていたが、何も言ってやれなかった。言葉がみつからなかった。
自己嫌悪か、自分がオークであることでどう生きていけばいいのかわからないのか。
会って数日だ。俺はオタルのことなんてまだ少ししか知らない。ほとんどのことを知らない。
このままこいつは一人でオークを殺しながら旅をして、もしオークがオタルを残して絶滅したとして、こいつはそれからどうするのだろうか。
ゲラルドワーカーズに帰るのか?いや、こいつは帰らない。仲間たちに迷惑をかけたくないが為にこいつは多分、一人を選ぶんじゃないのか?
そうなったら、こんなにもいい奴が孤独に終わるのか?
それは余りにも、なんというか・・・・気持ち良くない。
・・・・決めた、こいつにしよう。こいつが良い。
「まあ、そうだな、どうせ、俺なんてやることなくてぶらぶらしてるだけの流浪人だしな、一応冒険者としてクエストもしとかんと階級落とされるかもしれねーし」
「でも」と言うオタルを気にせずに俺は言葉を続ける。
「いいじゃん。お前がほとんど倒してくれれば、俺は楽して金稼げる」
こいつの強さは知ってる。なんどか手合わせした。もしこいつが冒険者になるのなら金クラスにも余裕でなれる。
「俺の身体が丈夫なのは知ってるだろ?心配いらねえって」
はっきり言ってオタルは押しに超絶弱い。
困った顔で考え込むオタル。
「いいじゃねーか、付き合わさせろよ」
「・・・・」
もうひと押し
「俺いないとまた手紙出せなくなるかもよ。」
再び考え込むオタル。
「・・・・わかったよ、でも」
「でも?」
「・・・・・もうちょっと稽古つけて、強くなってから、、その・・・・まだ、その」
「弱いから?」
オタルは申し訳なさそうに、コクリと頷き、小さい声でごめんと呟いた。
「・・・・ま、まあなんだ、あーそんな、気にすんなよ、弱いのはわかってるし、じゃあ稽古頼みますぜ」
「・・・・うん、僕も頑張るよ、人に教えるのは久々だからなんか楽しみだよ!」
嬉しそうに笑顔になるオタル。その楽しみにしているオタルを見て不安に駆られる。
もしかしてスパルタだったりして・・・・
「・・・・お手柔らかにしてくれよ?」
こうして俺はオタルの稽古を受けながら旅をすることになった。
ーーーーーーーー
「オークのクエストは1件あります。」
クエストの依頼書の束を開き、調べ終わった受付嬢がそう答えた。
「受けるよ、詳細頂戴」
「かしこまりました。手配いたしますので、そちらの席でお待ち頂いてよろしいですか?」
「ういっす」
返事をして席が4つ程置かれたテーブルへ歩き、腰を下ろす。
受付のカウンターに目をやると2人の受付嬢のが小さい声で話している。
確実に俺関係のことだろう。
不安になる。内容は想像つくが・・・・・
ひとりの受付嬢が受付から出て、こちらに向かってくる。手には書類を持っている。
「大変お待たせしました。フルド様こちら、オーク討伐のクエストになります。
そう言って出されたクエストの紙、確認をしてみる
「ハフの村 オーク1体・・・か・・・ハフの村ってどのくらい?」
「ここから北に馬車で2週間程になります。徒歩でしたら4、5週間は確実にはかかるかと」
受付嬢はそう言って、わかりやすいように地図を広げ指差し、場所を教えてくれた。
距離はそこそこある。報酬は悪くはないが、報酬の半分は色々と持っていかれそうだ。
わざわざそんな遠くからクエストが来るとは。この地域は切羽詰まってんのか・・・・
「山の中か・・・もしかして寒い?」
「はい、もう雪が降っている頃でしょう」
アイスバング大陸の近くか、山となればそりゃ寒いだろうな。
「受注してもよろしければ、こちらにサインと印証を宜しく御願いします」
「はーい」
カウンターのペンで名前を書き、ポストギルドの時と同じように通行証を当て印証を移す。
「確認いたしました。いってらっしゃいませフルド様。神の御加護があらんことを」
受付嬢から受注証明を受け取りカウンターを後にする。出口の扉に目を向けると、
バタン
とその扉が勢いよく開いた。
現れたのは黒髪の美女、明らかに俺よりも長身だ。毛皮のスカートと革の胸当て、見るからに上質な装備だ。
耳がとんがっている。亜人、エルフあたりの種族だろうか。
その美女は俺に目線を向けることなく、俺とすれ違うと、その足でカウンターの前に立ち止まった。
そして、彼女は腰袋からプレートを取り出してカウンターに置く。
冒険者としての証明証の等級プレート。
そのプレートを見た瞬間、受付嬢二人は驚いた顔になる。一人は手で口を覆った。
無理もない。そのプレートの等級は俺の銀等級とは比べ物にならないものだからだ。
そう、彼女が出したプレートは白銀等級、最上級ランクだ。
俺も白銀等級なんて数回しか見たことがない。
それでも、おー白銀かよすげー、ぐらいにしか思わなかった。が、彼女の次の言葉には驚くことになった。
驚く受付嬢を気にせず黒髪の美女はこう言った。
「オークの情報ある?」
受付嬢がちらりと俺を見た。それを追って美女も俺に目線を向ける。
「なに?なんかよう?」
真顔でこちらに言葉をかけた。睨み付けたような眼光に正直怖気付いた。
「いえ、なにも、す、すいませーん」
ペコペコと頭を下げて、俺は逃げるようにギルドから出た。
こえー女
俺はそそくさと人混みに紛れその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます