第8話 しばしの別れ

「もう朝、嘘でしょ、、」




私はそう愚痴をこぼした。


空の東側はもう明るくなっている。




村のすぐそばの丘、オークから助けた女、子供達は疲労でぐっすりと草の上で寝ている。


薬も飲ませた、治療もした、とりあえず皆大丈夫だろう。




もうすぐビンゼルが呼びに行った。村の皆が来る頃だ。


流石にあの現場までは危険で来させられないとオタルがたった三度の往復で皆をここまで運んだ。




「あんた、これからどうすんの?」




「とりあえず、旅をしながら情報を集めてみます」




「クリフォードね・・・こっちでも情報集めてみるわ」




「・・・はい」




「まあ、あんたはあんたで頑張りなさい」




「ありがとうございます」




「・・・・もう行くの?」




「はい、村人に見つかると騒ぎになりそうなので」




「そ、達者でね」




「はい、色々とありがとうございます。では」




そう言って頭を下げる。本当に礼儀正しいオークだ。




「えぇ、またね」




私の言葉にオタルはキョトンと不思議そうな顔をした。




「なに?」




「・・・いや・・なんでもないです。では・・・・ま、また」




オークはなぜか嬉しそうにそう言うと、背中を向け森の奥へと消えていった。




完全にオタルが見えなくなった。




放置して、よかったのか、、しかし一緒に行く訳にも、、


今更殺すと言うわけにも、、、




もう少し話せばよかった、だが、呼び止めるのも何か違う。




まあいいか、、、




一緒いく?




そう言いたかったのかもしれない。




「ビンゼル?いる?」




「はい」




返事と共に木の陰から私の見張りが現れる。


この時は珍しくビンゼルから話し出した。




「オタルでしたか、猛者、達人と言うべきですかな」




「知ってるの?」




「はい、情報がたしかなら、ダンジョンの最深層から生きて戻ってきたと」




「ほんと?それは大層なことね」




驚いた。そして納得した。あそこから生き延びたなら、あれだけの強さも納得がいく。どうせオーク共を殺戮していたときも、本気ではなかっただろう。




「・・・クリフォードって聞いたことはある?」




「・・・・・ありませんが、小さい村が襲われたと言う情報は何度か聞いたことがあります」




「オタルの話だと、群のボスは頭が働くようね」




「はい、かなり警戒をしておくべきですな、当たって見ましょう」




「とりあえずあんたらは、シラドと一緒に勇都に戻りなさい、」




「・・・わかりました。ですがシラドは骨をやられております。治ってからでも?」




「ええ、私は明日、先に発つから」




「ですが…」




「あとは帰るだけでしょ?」




ビンゼルがしばらく考え込む




「・・・これは困った、王に怒られる」




「弟子の面倒はちゃんと見なさいよ、でもこれで伸び伸び旅ができるわ」




「・・・致し方ない・・・お気をつけて」




おーいと村人達の声が聞こえた。村人達が見える。その村人の間をかいくぐって少年が走って来る。




丘の坂を転びそうになりながら必死に走る。その後を追って少女を肩車した父親が追ってきている。




「母さん!!ユミル!!」




オタルが助けた少年トラエが母親と妹に飛びつく。その声で母親は起き、トラエの顔を見ると、涙を流し抱き合った。






後からきた村人達は女性達をいたわりながら村へと運び始める。




「オタルは?」




トラエが私に声をかけた。




「もういったわ」




「・・・そうか、お礼言えなかった、魔女さんありがとう、母さん達を助けてくれて」




「ほとんどあいつがやったから、もし、いつかあったら伝えておくわ」




「うん」




「さっ、一緒に戻りましょう」




そう言って私もトラエと共に村人達の後を追った。少年が、足早に母親の元へと戻ると父親に肩車された少女リラが声をかけた。少年はそれに頷く、二人はかなり打ち解けているようだ。




ビンゼルはいつのまにか消えていた。




村に戻ったら女、子供達のこれからのことを考えなければいけない。






それだけじゃない、旅の事、クリフォードと言うオークのボスの事、




そうだ、シラドはスピカに帰らせて、ビンゼルに先生を探しにいかせるのが良いのかもしれない。先生ならあの不思議なオークやクリフォードのことを知っているかもしれない。




そして何より自由な時間が増える。




今思えば、あのオークと別れたのは失敗だったのかもしれない。ひとり旅の方が好きだがオタルならば、一緒に旅をしても良いと思った。




荷物持ちに料理、他にも色々役に立ったかもしれない。




惜しいことをしたと思い、ふと森を振り返る。


いるはずもない。






また会えたら良いなと思ってしまった。


親しい人以外でこんなこと思うのは初めてかもしれない。


私らしくない。




本当に不思議なオークだった。




「おねえちゃーん!!!どーしたのー?」




少しの間に村人達から離れていたらしく、それに気付いたリラが私を呼んだ。




私は軽く手で返事をして、もう一度森を見た後、村へと戻った。




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