第5話 ビンゼルとシラド

「・・・・美味い」


その一言に尽きた。

オークの料理、臭みが強いイノシシ型の魔物の肉、それがまあ、素敵なステーキとなって目の前にある。


「これおいしい!」


「うん、まだおかわりあるから」


当のオーク本人は私と少女と少年にせっせと肉を焼いてはそれを配る。少女は腹が減っていたせいか満ち足りた表情で黙々と食べている。


「あんたは食べないの?」


「まだ沢山ありますし、なんか、こうやって食べてもらうのが嬉しくて」


「うげ・・・」


気色悪い、初めて見るオークの照れた笑顔、オークには似合わない朗らかな表情に

背中に寒気がたつ。


「・・・で、聞かせてもらえない?」


「あんたがなんでここのにいるのか、その子のこともね」


少年は当然のようにオークの隣に座っていた。

少年トラエの表情が曇る。


「トラエ?だったっけ?」


「うん」


少年は小さく頷いた。


「なんでオークと一緒にいるの?」


少年は俯く


「僕が話します」


オークは少し困ったよう少年に目を向けた後、重くそれを口にした。


――――――――—


村の宿、そこでオークのオタルに返り討ちにあった護衛兼隠密のシラドは静かに目を覚ました。


「起きたか?」


「ここは?・・・ぐっ」


老人の声に反応して、シラドはベッドから起き上がろうとするが胸の痛みに顔を歪め、再びベッドに身を沈める。

昼間フレイヤが止まっていた部屋だ。部屋は暗く一つの蝋燭の火が二人をかすかに照らしていた。


「寝ていろ、医者が見るにヒビが入っている。」


「どの位経ちましたか」


「2、3時間程だな」


「・・・・オークはどうなりました?」


「オークなら大丈夫だ」


「一緒いた子供は・・・」


「無事だ、足を怪我しとるぐらいだそうだ、まだ戻っとらんがフレイヤ様と共におる」


「そうですか、、師匠かフレイヤ様が倒したのですか?」


「いや倒しておらんよ、ありゃわしでも倒せん」


「ではフレイヤ様が・・・」


「いやだから倒しておらん、今魔物を探しにそのオークとともに山に入っておる。」


「そんな!なぜ!、、、、っ!!オーク!、、魔物ですよ!」


再び起き上がろうとするシラドを師匠と呼ばれた老人は優しく抑え、ベッドに戻す。」


「声を落とせ、頭も強く打ってる。しばらくは安静だ。」


「ですが・・・オークですっ」


「ああオークだ。」


「・・・なにか理由が・・・」


「、、、少し前の話だ、フレイヤ様もまだ知らん、

非公式の話だからな、ガノリア(勇国)でも知っているものは数える程だ」


「なんなんですか、その情報というのは」


「オークが深層から戻り勇王勲章を貰ったと」


「そんなバカなことが」


「わしも信じられんがな、だが、あのオーク聞いた情報と一致しとった」


シラドは老人の話を聞くと天井を見上げた。


「まだ寝ていろ・・・私はフレイヤ様を追う」


「わ、私も」


「フレイヤ様と私の命令だ、背く気か」


シラドの言葉を遮るようには強い口調で言葉を放つ


「・・・・・・」


「わかったな?」


「・・・はい」


それを確認した老人は静かに扉を開け部屋を後にした。


―――――――――――――――――――――


「おとーーーーさん!!」


「リラ!!」


村のすぐそば、少女はフレイヤに背負われながら目の前の父を呼ぶ。

父は少女の元へ駆け寄ってフレイヤから少女を抱き受ける。


「足ケガしてるから村に戻ったら医者に見せてやって」


「はい!!ありがとうございます!!。よかった、魔物に襲われてやしないかと、本当にありがとうございます!!!」


フレイヤの言葉に父は目に涙を浮かべながら感謝の言葉を繰り返した。


「うわああああん!ごめん、ごめんなさい!!お、お母さんの・・・・病気・・・」


父に抱かれた少女は大声で泣き、嗚咽しながら父にしがみついた。


「良かったな」「これで一安心だぜ」「うちの子も落ち着きねーから気を付けんと」


一緒に捜索していた周りの村人たちが安堵する。


「良かったな、とりあえず村に戻ろう、魔物出たらかなわんし、奥さんも心配しとるで」


「はい、そうですね。フレイヤ様本当にありがとうございます。本当に・・・・」


村人の一人が少女の父親に声をかけると、父親は涙目にそれに答え。フレイヤに例を言う。


「いいって、じゃあ先に戻ってて、私少し用ができたから、あと一つお願いいいかしら」


「はい、私でできることならなんでも」


「なんでもって言ったわね」


フレイヤの不敵な笑みに少女の父の表情が少し引き立った。


「出てきて」


森の陰から一人の少年が出てきた。トラエだ。


「その子は・・・」


「家族が魔物に襲われてね」


父親や他の村人の顔が険しくなる。


「ここの近くでですか?」


「いや、安心して、この村からは大分離れてるわ。まあ、色々めんどくさいから省くけど、この子は私が戻るまで保護してくれない?」


「それは、可哀想に」


「ねえお父さんいいでしょ?」


憐れむ父親に少女リラはねだるように問いかける。


「はい、私で良ければ責任をもって預からせてもらいます」


「そ、良かった、ほら挨拶しなさい。」


「トラエです。よろしくお願いします。」


トラエは深々頭を下げる。


「ああ、よろしく」


少女の父は朗らかにそう答えると、少年と握手をした。



「それではお先に戻らさせてもらいます。本当に魔物まで倒してもらったばかりか子供まで・・」


「だからいいって、ほら魔物が出てくる前に」


「はいそれでは」


年長と村人の感謝の言葉をなれたように返すと村人はそれぞれ会釈や礼をいいながら村へと帰っていく。


「おねーーちゃああーーーーーーん!!ありがとおーーーーーー!!」


少し離れたところで少女が大声で礼の言葉を叫び、その父が娘を抱えたまま深々と頭をさげる。少年は声を出さずに手を振りながら彼らについていく。

フレイヤは手を振りながらそれを見送った。



そして、村人の姿が見えなくなった頃


「もう大丈夫よ」


そう一人でつぶやくと森の真っ暗な影からオタルが現れた。


「よかったですね。無事にかえれて、あの子も」


「まあね、でもいいの?あんたのことばらしでもしたら」


「まあ、その時はその時で、僕は大丈夫です。けどフレイヤさんは大丈夫ですか?一緒に行動って」


「何?今ここであんたをやればいいの?」


「いえ!そういうことじゃ・・・・でも本当にくるんですか」


「当り前よ、放置できるわけないでしょ」


「僕オークですもんね・・・・」


「はあ、、、、そうじゃないわよ」


「・・・え?」


オタルは呆気に取られたような顔をする。

フレイヤは気にせずに言葉をつづけた。


「まあいいわ、さっさと行きましょ。」


「あ、ああ、そうですね・・・・多分山の方だと思います。


「もう目星ついてるの?」


「はい大雑把ですが、」


「そう、急ぎましょ」


「はい」


オタルとフレイヤは会話を終えるとオタルの後ろをつくように森の奥へ消えていった。


~~~~~~~~~~


森の暗がりの中、森の木々の上をビンゼルが走り抜ける。そして何かに気づくと静かに地面に着地した。


(これは、、、、、あのオークの足跡か)


ビンゼルは地面に残った足跡を観察し、その方向を見つめる。


(フレイヤ様が一緒におるはずだが・・・・その足跡がない。もしやオークにおぶられて進んでおるのか、この色の目印を撒いてあるところをみると、無事なようだが・・・・)


しばらく考え込みながら老人は白い髭をなでる。シラドの師でありフレイヤの隠密であるビルゼンはあのオークと遭遇した時を思い出す。


フレイヤと少女、そして気を失ったシラドと共にいた赤色のオーク。

一目見たときに、勝てないと感じた。

長年の経験からきた勘だった。


オークの鍛え上げられた体とその傷が、幾多の死線を乗り越えた”あの方達”と重なった。

シラドとは違い、ビンゼルは警戒し襲うよりも観察することを選んだ。


そして例の噂を思い出す。半信半疑だが、自分の中で妙に一致したのだ。

シラドが生きていることを聞き、このオークは手加減をしたと即座に理解した。

フレイヤの命令を聞き彼はシラドを抱え村に運んだのだった。


だが、フレイヤと共にいさせるのには、不安は残る。

その不安からシラドを休ませて、ビンゼルはフレイヤ達を追っていた。


(なんという俊足・・・・・)


ビンゼルは感心した。目を凝らしてみると、オークの大きい足跡、普通のオークとは違いちゃんと靴を履いている。ただフレイヤの足跡がない、フレイヤをおぶって移動しているだろうが、


驚くべきはその速度だ。


この少し大きめの米粒のような目印、

色、散らばり方、感覚によってその状態がわかる。


青は問題なし

緑は問題なし、引き返せ、

黄は急ぎ追ってこい

赤は緊急や、身の危険が迫っている。

そして白は方向や、速度、時間が大体わかる。この白の量である程度の情報がわかるようになっている。



この白米と青米の間隔。



そこからわかるのは速度、あのオークは自分が走っている3倍以上の速度で移動しているのだ。


(これは追いつかんな・・・・まあ追うしかないのだが)


ビンゼルはため息をつくと再び走り出した。

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