第4話 トラエとリラ

「うん、折れてはないみたいだね、良かった」




オークはその大きな手で少女の足を検診する。まるで小枝を扱っているように少女の足が細くみえる。


恐らくはあの少女などオークが握っただけで圧死してしまうだろう。当然少女は硬直、今にも気絶しそうなほど怯えている。




私が治療してもよかったが、このオークを見張ってなくてもいけない、シラドはいまだ気を失っているようだし、彼女を治療できる?のはこのオークしかない。




まあ少しでも妙な行動があればすぐに殺せるように魔法陣を転開を続けている。




「すみません、荷物取ってきてもいいですか??」




「は?」




「治療道具入ってるんです」




「あー、それなら私の使いなさい」




そう言って私は彼に自分のバックを外し彼に投げ渡す。この場から逃すわけにはいかないし。なにより、このオークをさっさと殺せば済む話なのだが、どうしてもその踏ん切りがつかない。




彼は大きな手で受け取ると中から包帯や薬草、必要そうなものを取り出す。




「凄いですね、三月草があるなんて、初めて見ました」




「初めて見たのにわかんのね」




薬草の知識まであるのか、パッと見て薬草の種類を当てた。ただのオークじゃない。




「はい、図鑑に書いてあったのと一緒でしたので、あ、今痛い?」




私に答えたあとにオークは優しく少女に聞いた。




「す、すこし」




少女はまだ怯えているようだが、オークの優しい振る舞いにすこしは体の硬直が先程よりは溶けている。




「大丈夫、動かさないようにしてればすぐに歩けるようになるよ」




薬草をすこし千切りそれを指で潰し始める。




「薬と包帯を巻くのが少し痛いかもしれないけど我慢できる?」




その言葉に少女は怖がりながもコクリと頷く


潰した薬草を軟膏とまぜて彼女の足に塗ると、その場所に布を貼る。最後に近くを副え木を当て包帯を巻いた。


オークの手際は見事だった。それも私より格段に上手い。




「終わったよ、薬が強いから少なくはしてみたけど少しかぶれるかもしれないから、帰ったら洗って、もう一度固定してね」




「あ、はい、あの、その・・・ありがとう、ございます」




「うん」




少女の言葉にオークは嬉しそうに頷き言葉を返した。




あっという間に治療を終えたオークは私を向く。




「ありがとうございます。助かりました。包帯と薬草の代金は弁償します」




丁寧に私にそう言って頭を下げるオークに私は唖然とした。




手際のいい治療や、優しさ溢れる仕草、言葉使い、そこらの人間のよりよっぽどきちんとしている。言葉遣いに関しては私よりも教養がある。




もはや警戒心を忘れ疑問と好奇心だけが私の中を巡った。




「・・・弁償なんていいわ、そんなことより話しなさい」




「あ、はい、じゃあ」ーーーーーー




ーーーーーーーーーーー






シラドが返り討ちにした経緯を聞き終えた後、彼の荷物取りにオークと共に森の中を歩いていた。




伸びきっていたシラドは、遅れて来たもう一人の護衛に村まで運ばせた。


シラドより倍以上の歳を重ねている分、警戒をしてはいたが襲うことなく、予想に反して私の指示にすぐ従ってくれた。




起こしてもよかったが、そうせずに村に運ばせたのは、もし起こせばまた、危険だとまたこのオークを襲って返り討ちにあっただろうと予想したからだ。


シラドはそう言う奴だ。




私の前をオークが少女を肩に座らせて歩く。




「オタルって、お医者さんなの?」




「違うよ、ちょっとだけそう言うのができるだけ」




「村に帰ったらちゃんとお医者さんに見せるんだよ」




「うん!でもホントにもう痛くないんだよ」




「良かった、でも、動かしちゃダメだよ出来るだけおとなしくしてないと」




「うん!」




驚いたことに少女の警戒心は消えていて、楽しそうにオークに話しかける。オーク、、、オタルは慣れているように少女と談笑する。




「あんた、子供の相手慣れてない?」




「あー、昔この子ぐらいの子供達と暮らしていましたから、多分そのおかげだと思います。」




なんだこのオークは、、、、




オークの違和感が増していく中、森を抜け湖が見える。




「君が探していた所ってここ?」




「うんここ!!ここに来たかったの!!」




「、、、君のお母さんもしかして貧血症??」




「うん!そうなの!なんでわかったの?」




「ここらで、しかも湖で取れる薬草って言ったら血水草ぐらいだからね。貧血の薬としてよく使われるから、そうだと思って」




「この辺り魔物がでて、最近全然採れなかったの。だからこの間お母さん倒れて」




「そっか、、でも、ダメだよ一人でこんな危ない所に、、」




「、、、ごめんなさい」




オタルの言葉に少女は落ち込んだように下を向く。




「さっき僕もそれ採ってたから半分あげるよ」




オークの言葉に少女の顔はパッと明るくなりる。




「ホント!ありがとう!!」




「うん、どうせここにはまだ用事あるし、気にしないで、、、あの構いませんか?」




少女の言葉に答えたあと、オタルはちらりとこちらを伺い、そう私に問いかけてきた。




「・・・まあ、いいんじゃない?連れが都合よく村に伝えてると思うし。」




オークとともに少女もこちらを伺っている。


断れば私が悪者になりそうだ。すぐに森に返したかったが、少女が湖に行きたいと強く願った事とオークの荷物がそこに置いてあると聞いたのでここまできたのだ




まあ、多少の寄り道ぐらいはいいだろう。




「ありがとうございます」




オタルはそう礼をいうと、湖にそって一本の木のそばに近寄る




そこには大きなラージバッグがあり、彼の服その上に置かれている。が、そのバックの陰から人影が現れた。




包帯をしている少年だった。




「ねえ、あんた、どこで拐ってきたの?」




「あ、違うんです!言うの忘れてて」




慌て出すオーク、少年の落ち着いた様子からそうではないとわかっていたのだが、冗談を間に受けたオークは、「あの、その、えーと」と言いながら動揺する。




「助けてくれたんだ。オタルはいいオークだから」




そう言ったのは少年だった。


少女とは違い落ち着きがある。それ以外は普通の少年だが、服からはみ出して見える包帯が彼が怪我をしていたことは容易に想像できた。




「・・・何があったの?」




「トラエ、、話して大丈夫?」




オークは困ったように少年に問いかけた。




「うん、大丈夫、それより飯はどうする?」




「あ、そうだったね」




「先に紋章見せて」




「あ、はい」




オークは少女をそばの木に座らせると。ラージバックの中から革製のポーチをだす。そこからあるものを取り出した。




一見、鉄製に見える盾の形をした銀と黒の首飾り。大きさは私の握り拳より少し小さく、厚みは丁度、私の指と同じくらいだ。




装飾に、剣と翼の紋様が彫り込まれ、その凹凸を薄っすらと緑の輝きが反射する。




裏には古代文字が彫られている。間違いない、勇王紋章だ。




「あなた、名前は?」




「え、オ、オタル、ハッシュドア」




紋章の裏に描かれてある、古代文字




<勇王アティルの名の下オタル・ハッシュドアにこの勇王紋章を捧げる>




オタル・ハッシュドア




種族 オーク




訳すとこう描かれてある。ほぼ間違いなく”彼”の物だろう。


でも、まさかあの人がオークの彼にこれを授けるなんて、それにこの紋章を授かれば、国中にその情報が広まる筈だが、そんな噂さえ聞いたことがない。




「ねえ、なんであんた私にこれの持ってるって言ったの?」




「え?」




「私がただの冒険者とかならこの紋章の存在すら知らないことだってある。私が誰か知ってたの?」




「あー、そのー、、、そのすいません、なんとなく、すごい人だからこれのこともわかる


んじゃないかっておもって」




「具体的にいいなさい」




「えーと、その、一瞬であんな数の魔方陣を展開して、見えない魔方陣も設置してたから、有名な人なんだろうなって、それなら紋章のことも知ってるんじゃないだろうかって思って」




「あれ、気づいてたの?」




「はい、以前教えてもらったことがあって、罠として使うんですよね?」




まさか、高等技術の隠陣まで気付くなんて、、、




「ねーオタル、これ食べるの?」




地面に座っていた少女がラージバックのそばにある食材を見ながらオーク、オタルに話しかけた。




「うん、作ろうと思ってたんだけど物足りないかなって森に採りに行ってたんだ」




移動の際、野草を腰袋にとって入れていたのは料理用だったのか。


肉も皮も綺麗に綺麗に剥ぎ取られている。イノシシ型の魔物だ。皮は高く売れるだろうが肉は臭みが酷いだろう。野草は臭みを取るためだろうか。




本来のオークは肉の臭みや味など気にせず食す魔物だ。


鍋に食えるものをぶち込んで食べることはあるが、味なんぞどうでもいいはずだ。




治療もでき、薬効植物の知識、そして料理までできる。


最初から気づいてはいたが普通じゃない。変異種か、




「あんたまるで・・・・」




次にででくる言葉を、私はとっさに止めた。


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