第3話 フレイヤ
「はあ?迷子?」
「はい、娘が一人、森の方で逸れたようで」
小さな村の宿、その受付の前にあるテーブルに腰を下ろした女と老人の姿があった。
「それを探して欲しいと、、、」
「申し訳ありません。村の男共でも探しているのですが、なにぶんこの時間からは魔物が増えてとても危険なのです。
そこで、先日、大型の魔物を討伐したフレイヤ様ならば、その魔法で、、と思いまして」
「はあ、わかった」
「本当ですか!?、、ありがとうございます!もちろんお礼も」
老人が頭を下げる。老人の礼の言葉を聞くとフレイアと呼ばれた女は口を開けた。
「それはいらない」
「、、、え?」
「報酬は十分もらったし」
「よ、よろしいのですか?」
フレイアの言葉に老人は驚いた顔でフレイアを見つめた。
「どうせ、討伐の金で村の資金もスッカラカンなんでしょ?」
「はあ、、なんと、お礼を申していいか。今私には貴方様が神様が使わした聖女様に見えます」
その老人の言葉にフレイアは鼻で笑う
「ありがと、」
フレイアはそう言うと席を立つ
「じゃあ、早速いくから、、、、報酬はいらないけど、また美味い料理お願いね、この村とびっきりのやつ」
「は、はい!この村一番のものをご用意させていただきます」
笑顔のフレイアに、老人は深々と頭を下げた。
「じゃあ、準備したらすぐにでも出るから」
「はい、必要なものがありましたら何なりと申してください」
「うん、ありがと」
フレイアは宿の二階に借りている部屋に入る。
大きめの手提げのバックから必要な容器や道具を小さいポーチに詰め、棚に置いてある短剣を腰に装備する。
「いる?」
「、、、はい」
準備を整えながらフレイアが独り言のように言うと男の声がそれに答えた。
がその姿は見えない。
「どうせ話は聞いてたでしょ。先に言って探してきて」
「、、、」
「その子になにが起こってからじゃ遅いの」
「、、、はい」
男がそう答えたと同時に準備が終わる。そのリュックをフレイアは担ぎ窓の外を覗いた。もう陽は落ち辺りは暗くなっている。
急ぐようにフレイアは部屋を後にした。
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暗い森の中、一人の少女がうずくまっている。
村の住人が必死に探している少女だ。
彼女の足は真赤に腫れ血が滲んでいる。歩けないのは見て明らかだった。
森に迷い、動こうにも足首を挫いて歩けない彼女は不安と恐怖そして痛みで啜るように泣いていた。
森中から鳴る魔物の声が聞こえるたびに彼女の身体は硬直を繰り返していた。
そして近くの茂みがガサガサと動く。
「ッひ!」
その音に少女の肩が大きくビクッと動いた。
茂みの中から現れたのは小さなうさぎのような魔物、その危険のない愛くるしい姿を見て彼女はホッと安堵した。
だが少女はうさぎに注意が言ったのか後ろの気配には気づかなかった。
先にそれに気づいたうさぎが茂みに逃げる。
ズシッ
その瞬間、後ろから土を踏む音が聞こえた。
魔物の出る森、その足音は大きな魔物を連想した彼女は恐怖で振り向くことも出来ず身体を硬直させる。
「、、あの、、大丈夫ですか??」
優しい声、彼女は安堵し、勢いよく振り向いた。がすぐさま彼女は再び硬直した。
彼女の目線の先、声の主の姿は人ではなかった。
その太い手足に、上半身が裸の大きな体躯、猛獣のような目、そして、口から生える二つの牙、
優しい声の主は一歩一歩彼女に近づく。
その恐怖の対象がすぐ近くまで迫る。
全身が強張り震える。
「えーと、怖がらないで、大丈夫だから」
そう言って声の主が目の前で立ち止まる。
「もしかして、怪我してるの?」
大きな手、自分の頭なんて簡単に覆ってしまいそうな手、彼の言葉など恐怖で何一つ入ってこなった彼女にその手が近づく。
「いやああああ!!!」
森中に少女の必死なさけび声が響いた。
その瞬間、森の暗闇から何かが月の光の反射し、それが線となって彼目掛け飛んでくる。
ピクリと手を止め、それを察知する。
飛んできたものはナイフ、だがナイフの柄は極端に小さく短い投げナイフだ。
それを巨躯のそれは指で簡単に止めた。
同時にナイフが飛んできた方向を見る。
月明かりの届かない木の陰、ナイフを投げてきた主は見えない。
それはそのはずだ。その主は既に巨躯のそれのすぐ後ろでナイフを振りかざしていたのだから。
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「いやぁああ!!」
村の少女を探しに出ていたフレイアは、少女の叫び声を聞く。
それと同時にフレイヤはその方向へと力強く走り出す。
一番予想されるのは魔物に少女が襲われたということ。猶予は数秒もないかもしれない。
彼女は手を振り目の前に魔法陣を地面に転回する、黒い包帯が数本出現し、共に現れた魔法陣に彼女は飛び乗ると次の瞬間。一瞬で上空へと飛び出した。その高さは軽く10mはあるだろう森の木々を余裕で超えていた。
上空へと飛んだ彼女は再び黒い包帯のようなものを出現させ手に光る球体を作る。それを上へと投げる。球体が彼女の手を離れた瞬間、カッと爆発したように強く光り出した。一帯の森が昼間のように照らし出され、フレイヤは目を見開き少女の姿を探す。
そして、木の隙間、木の根元に少女の姿を見つけ出した。
無事なようだ、予想した魔物の姿は見当たらない。
が安心はできなかった、寧ろ警戒を増した。 少女の近くにその予想していなかった原因がいたからだ、見るからに巨躯な身体を持った人型の魔族?亜人?判断はできなかったが、その側で倒れている男、それは先に少女を探しに行かせた男のその内の一人だったからだ。
ーーーーーー
彼の名はシラド、私の隠密で警護、監視、その二人のうちの一人だ。もう一人は別の場所で少女を探しているのか、
シラドはオーガ族と人間の混血であり、まあまあの実力者のはずだ。その彼が倒れている。隣に立つものに倒された、と考えるのが妥当だろう。となるとあれはかなりの強さだ
黒い紐帯を使い、二人と一頭の近くに軽やかに着地する。
そして、改めて少女の安否を確認する。
足を怪我しているようだが、他に外傷はないようだ。驚いたように私を見つめている
そして、それに目をやる。
頭の後ろに手を置き、おどおどと倒れたシラドと私を交互にこちらを見ている。
・・・オーク
人語を喋ることができながら魔族ではなく魔物と区分される種族だ。亜人から魔族までが、共通に嫌悪されている種族。
シラドの隣にいるのはおそらくそれだ。
だがすぐに違和感を感じた。
躰つき。
自分の知るオークは、腹は膨れ、ほぼ全てが贅肉に覆われた醜い魔物だったはずだ。
だが、目の前のオークは違った。
小綺麗な衣服を着用し、
服から出ている腕や首は明らかに引き締まった筋肉が鎧のように付いている。
服の上からでとわかるような立派な胸筋、
姿勢もオークのように猫背ではない。
贅肉だらけのオークからは信じられない体付きだ。
明らかに痩せているのではない鍛えているだ。
そして、腕に見える数々の傷跡、目の前のオークがある程度の経験をしていることを即座に理解した。
まあ、私からすれば敵ではないが、、、
それでも、危険だ、オークのそばには少女がいる。戦闘態勢を取り黒帯と魔法陣をいくつか足元や空中に転開する。
「ちょ!ちょっと待ってください!敵意はありません。この人は生きています!!気を失ってるだけですから!!」
それを見たオークは驚き、手の平を前に突き出しながらそう言った。
流暢な言葉、、、
シラドが生きているのはいいとして、オークの言葉は私をさらに驚ろかせた。
オークの声ではない普通の青年のような声、
私の知っているオークのガラガラとした鳴き声に近い声とは比べものにならない優しい声を出したのだ。
「・・・あんた本当にオーク?」
一応確認を取る。体のバランス、顔を見れば確実にオークだが、肌が赤い、オークみたいなオーガ族という可能性もあるかもしれない。
よく見てみれば、
その身につけているものはまあまあ質の良いものだろう。そして、そのサイズがオーク自身の丈に合っている。
オークとして不自然すぎたのだ。
「えーと、・・・・はい、そうですけど」
オークは頭の後ろに手を当てながら悲しそうに答えた。
油断させるためか、それとも本当に敵意はないのか。それでも警戒を緩める訳にはいかない。シラドを無傷で倒したその強さだ。
防御用、攻撃用の魔法陣をさらに増やし、不可視のトラップ用魔法陣を転開する。
あちらから攻撃してきても十分に対応できる。魔法陣が増えたことに気付いたオークはまた慌て出す。
「み、見逃して下さい、すぐに消えますから」
「ばか言わないで、オークを見逃すはずないでしょ」
「あ、待ってください、違うんです!!あ、そ、そうだ、勇王紋章を持ってます!!」
「・・・は!?」
耳を疑った。勇王紋章、あの王が限られた者にしか与えない紋章。
それを魔物であるオークが所持している?
まず誰かから奪ったと考えた。
いまだ数える程しかいない勇王紋章を持つもの、その誰かから奪った、そうとしか考えられない。
だがその知らせは聞いていない。今まで紋章を受けた人間は皆実力者だ
小綺麗な衣服、オークらしからぬ体つき、言葉、最後には勇王紋章ときた。
不自然過ぎる、そして不思議過ぎて興味が湧いてくる自分がいた。
疑問に湧いたものにとことん知りたくなる私の悪い癖なのかもしれない
だからこそ逃すわけにはいかない。
「・・・そうね、じゃあ話して、そこの女の子が叫んだ経緯、この森にいる理由とそこの男が伸びてることもね」
「・・・え?・・・は、はい」
私の出した言葉に彼はキョトンとそう返した。
「え?なに?嫌なの?」
「えっと、いや、ちゃんと話し聞いてくれたの初めてでちょっとびっくりして」
少し怒気を含ませて言った私にオークはそう言った。そしてあっと思い出したように少女を振り向く。
その視線を浴びた少女はひっと声を上げ再び硬直する。
そして、オークはさらに私の予想しない発言をした。
「あのー、話しながらでもいいのであの子を治療してもいいですか??、あとそこの人も」
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