第2話 ゲラルト・ハッシュドア
第3鉱洞区、奴隷たちが3区と呼ぶ、その場所にオタルとリカード、そしてこの洞窟内に住むほとんどの奴隷たちが集まっていた。
地上へ通ずる広場の出口、そこにいつもいる倍の数の兵士や騎士が並んでいた。
「オタル、珍しく遅かったな」
オタルに声をかけたのは獅子の獣人、大柄なオタルとその背丈と筋骨隆々な体はオタルに引けをとらない。
「うん、ちょっと遅くまでおじいちゃんと話しちゃって・・・・そういえばリカードが朗報だって・・・」
「ああ、俺も詳しくはしらんが・・・」
すると獅子の獣人が話に入り込むようにオタルの後ろから一緒に来たリカードがオタルと肩に手を乗せる。
「まあまあ、とりあえず聞いてりゃわかるって!」
ーーーーー静粛に!!!!--------
リカードの言葉が終わってすぐに、簡素な踏み台に立っていた兵士が、紙を手にしながら声を上げた。
今回、勇王の新制度、魔族奴隷撤廃、並びに多種族親和条約により!
この、第3鉱洞奴隷区の犯罪者奴隷を除き魔族種の奴隷の解放をここに宣言する!
それにあたり今日は新たな国民としての名の表記を行う!!犯罪奴隷以外の全ての者は本日の採掘作業を停止し、名と種族過去の経歴の明記作業を始めてもらう」
読み上げた兵士の声がしばらく響くと静寂が訪れ、徐々に周りの魔族が慌ただしくなる。
やっと・・・まじかよ・・・・ほんとか・・・自由になれるのか・・・
おい・・・やったぞ! 自由だ!・・・・・・!!!
徐々にその声が多いく洞窟内に広がっていいく。
その中でオタルは一人だけ理解できない表情で戸惑っていた。
「ああ、今日なのか」」
「解放されたんだよ!俺たち!!」
理解の追いつかないオタルにリカードが後ろからオタルの首に腕をかけ、歓喜の声で叫ぶ。
もう洞窟内は歓喜の声が響き渡り。もう兵士たちの沈静させる声も届かない。
「解放って・・・上に出れるの?」
「そうだよオタル!!俺ら自由になれるんだ!!」
「自由・・・」
オタルは信じられない表情のまま、ふと気づいたかのように洞窟の奥を振り返ると、そのまま駆け出した。
「おい!オタル!!どこ行くんだよ!!」
「おじいちゃんたちにも知らせてくるよ!!すぐに戻るよ!!!」
「いそげよーーー!!!」
オタルはリカードに手を振りながら、そそくさを洞窟の暗闇に消えていった。
「ほんとあいつはおじいちゃん子だな」
「早かったな」
オタルを見送るリカードの後ろから獅子の獣人が話しかけた。
「ほんとっすね、あと2.3年はかかるかと思ってたっす」
「・・・・・ゲラルトの今日はどうだった?」
「はっきり言っていいとは言えませんね、一日のほとんどを寝てる状態で・・・・」
「・・・・そうか、だがせめてここを出るまでは、な・・・・」
「そうすね・・・・・あ、もう並んでますよ!!」
「手際がいいな、前々から準備していたのか」
「・・・・レオンさん、全然うれしそうじゃないっすね」
「そうか??まあ、行ってこい。俺もゲラルトの処へ行ってくる。子供たちも連れてこんとな、」
「魔物すか?そうすね、じゃあ何人か戦えるやつに声かけてみますよ、まあレオンさんとオタルだけでも十分すぎるとは思いますけど」
「ああ頼んだ」
==============
獅子の獣人レオンは洞窟を抜け奴隷区へと出る、太陽はもう上っており、朝日の光に目を細くする。
「・・・・・・」
しんとした空気にレオンの顔が引きつる。そのままゲラルトの洞穴へと駆け出す。この角を過ぎたところがゲラルトとオタルの住む洞穴だ。そしてあっという間にその角を超えると洞穴が見えた。
その洞穴には奴隷区の女性や老人、子供たちが集まっていた。
レオンが洞窟を抜けてすぐ、聞こえていた泣く子供たちの声、その瞬間に立ち込めた不安は現実だとレオンは確信し、その拳に力を籠め、奥歯を噛みしめた。
洞穴の前へと近づくレオン、それに気づいた子供たちが目を真っ赤に腫らしながらレオンに走り寄った。
「レオン!!!おじいちゃんが!!」
「・・・・ああ、わかってる」
自分の足にしがみついて泣く子供達。その子供たちの頭を優しくなでる。
「すまない、通してくれ」
子供たち優しくかき分けて洞穴の入り口に入る。洞穴の中、オタルに掠れた声で語り掛けるゲラルトの姿、オタルは頷きながらゲラルトの手を両手で覆い、肩を震わしていた。
「・・・・レオンか・・・・ちょうどいい・・・近くに来てくれ」
レオンの耳が良くなければ聞こえなかったかもしれない程の小さい声。レオンはそれを聞き取りオタルの横へ膝をついた。
「その目で、よくわかったな」
「はは・・・お前の鬣はわかりやすいからな・・」
「・・・・いくのか」
「ああ、その時が来たようだ」
「話はできたのか??」
「ああ、満足だ」
レオンは隣で肩を震わすオタルに視線を向けた。鳴き声を出さぬように必死に噛みしめているが、大量の涙と鼻水が滴り落ちていた。
「オタルはまだ話し足りないそうだが?」
その言葉に老人は、ハハハと笑うが、もはやその声が音に出ることはなく、聞こえたのは空気が出る音だけだ。
「・・・・皆が解放されるとな」
「ああ、そういいうことらしい。皆喜んでいるよ」
「・・・・・レオン、オタル、最後の願いを・・・・・聞いてくれないか」
オタルは大粒の涙を溢れさせながらも必死にゲラルトの視線を向ける。
レオンも静かにうなずき、ゲラルトの手を覆ったオタルの手に自分の手を乗せた。
「・・・・・人間と魔族の因縁は大きい。レオン、お前が頼りだ。皆を頼む」
「ああ、友よ、最初からそうするつもりだ」
「ありがとう友よ・・・・リカード、あいつには色々と仕込んだが、まだまだ不安だ、気にかけてやってくれ」
「ああ、」
「かか・・・わざわざ頼むことでもなかったか・・・あいつは利口で立ち回りも良い、世の中を上手く渡っていけるだろうが・・・情に弱いからなあ・・・それが心配だ・・・・・・・・」
「ああ、」
「お前にも苦労をかけるな・・・」
「気にするな、俺が世話になった方が多い」
「ははは・・・そうだったか・・・・・・・オタルや聞こえておるか」
「・・うん・・聞こえてるよ!・・」
「・・・・・一番苦労を掛けた、」
「そんなことないよ!!じいちゃんがいなかったら僕は・・・・」
「・・・いいかオタル、よく聞きなさい・・・これからのお前の道は厳しい・・・・おそらくここでの生活よりもはるかに辛いことがあるかもしれん・・・・・理由はわかるな」
ゲラルドは残りの命を言葉にするように必死に言葉を続けた。
「・・・・うんっ」
「ひどい仕打ちを受けるだろう。オークという種族はそれだけ・・・・憎まれとる。・・・・だが、お前は違う、どんな種族よりも優しい・・・・・ここにいる家族皆が、それを証明してくれるはずだ。」
「・・・うんっ」
「まだまだ話したいこともあったが・・・・」
「・・・・嫌だよっ、行かないでよ、、まだ知らないことだって沢山あるんだ、」
「・・・オタルよ」
徐々に声が小さくなって行くのがわかる。
それでも、オタルは涙をこらえ、必死にゲラルトの声に耳を傾ける。
「・・・これからはお前が自分で経験して知っていくのだ・・・」
「最期の約束だオタル・・・
良き魔族となれ、そしてなによりも幸せに・・・・」
「うん!約束する!絶対に幸せになるから!!!」
「ああ・・・お前のお陰で・・・有意義な・・・余生を・・・本当に幸せな・・・」
「おじいちゃん!!」
ゲラルトの目はもう何も見えてないように上を見上げる。
そして、オタル握っている反対の手、何かに差し出すように、震える手を上へ伸ばす。
「・・・・・ただいま・・・・・・・・私の・・・・・大事な・・・・息子・・・・・・・」
「おじいちゃん!!」
オタルが必死に呼びかける。その声に乗じて後ろの子供たちもそばに集まり、必死にゲラルトを呼びかける。
だが、その声はもはやゲラルトには届いていないように、ゲラルトは静かに最期の言葉を漏らしていた。
「・・・・・・ありがとう・・・・」
その言葉を振り絞るように漏らすと上げた手がさすがに落ちる。オタルが握っている手にも生気がなくなる。
「・・・あ・・・そんな・・・嫌だよ、おじいちゃん・・・嫌だ・・・まだ・・・・待ってよ!・・・嫌だあ!!」
ゲラルトの死を理解したオタル。目を見開き、涙を流しながら必死に声をかける。
レオンは悔やむように目を閉じた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
その瞬間、オタルの悲鳴のような鳴き声が奴隷区の谷間に長く長く響き渡った。
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