第56話  最強決定祭⑥

 迫りくる2本の水の槍。

 さっき受けてわかった。


 ――実体がある。


 水だから、受け止めても意味ないと思っていたが……いざ受け止めると、硬かった。

 剣が沈むこともなかった。


 なら、俺の独壇場だ。流せばいいんだ。水だけにな!

 ……ん、一瞬、水が凍ったか?


 


 四代元素には、それぞれ特性がある。

 特に水は、4つの中で最も重い元素だ。




 迫りくる2本の槍を……走りながら、一方は避け、一方は受け流した。

 目の前およそ5メートル先に相手――リーリエ・ユウがいる。


「くっ……『水球アクアボール』! はぁ……はぁ……」


 魔力も限界か? 


 ――いや、そんなわけがない。


 ここまで、さほど時間は経っていないし、魔法もそんなにたくさん打ったわけでもない。

 それになにより、発する言葉に疲労が見えなかった。


 つくづく人を騙すのが好きだな、こいつは。

 手加減はしない。

 

「演技がお上手なことで」

「!!」


 迫りくる3つの水の塊をすべて魔力を通した剣で一閃のもとに打ち消し、相手に迫る。『水槍アクアジャベリン』と比べ、かなりもろかった。

 武器も、意外と大丈夫そうだ。


 二度目は通用しない。


「ウ……『水盾ウォーターシールド』!!」

「二度目は通用しないんだよ!」


 1年生の『水盾ウォーターシールド』は半径1メートル前後もいけばいいらしい。

 目の前の盾は、1メートルちょい。優秀だが、抜けてはいない。


 そして、盾の中心はみぞおちの辺り。一般的だ。

 俺が真正面に突っ込むだけだと思われてんのかね? 


 地面を滑り、盾の下から出現した。


「ども」

「!?」


 斬りはしないさ。ただ、眠ってもらうだけ。


「――!! …………」


 下から顎に素早く一撃を入れ、気絶させた。これしか使えないんだよな。


『リーリエ・ユウ、戦闘続行不能! 勝者、ターバ・カイシ!!』


 次はラインか。

 特別授業で何度か戦ったが、本気では戦えなかったからな。


 互いに、大きく成長した。今度こそ勝てるかもな……。


 はっきり、ラインとの戦いは面倒なんだよな。

 魔法で距離を詰めさせてくれないし、詰めたら詰めたで、攻撃手段を持ってるし。


 ほんと、どうなってんだか。

 魔法も上手く扱い、近接攻撃も強い。水晶の怪物だな。






『いよいよ1年生部門も決勝戦です! 今まで、弱小校が代名詞だったハーマル。なんと今年は、その選手2名が決勝で相見えることとなりました! 2人とも怒涛の勢いで勝利を掴み取ってきた猛者! 今年は豊作だぁ!!』


 バッと勢いよく、司会者が手を挙げた。

 途端、会場は静まり返った。「静かにしろ」の合図だったのだろうか。 


 ちなみにオレ、ラインとターバはコロッセオの中央――会場の中央に待機している。


『――……それでは、始めましょう。物理、魔法両方とも一流の実力を持つ、ライン・ルルクス!!』


 歓声と共に、オレに観客の注目が集まる。視線がいたるところに刺さってるんだが。


『そして、息も吐かせぬ連撃を放つ、期待の双剣士、ターバ・カイシ!!』


 女性の観客からの黄色い声援が多い。

 ……おい。ファンクラブでもできるんじゃないだろうな? 

 オレには男どもの野太い声援が多いってのによぉ。


『どちらが勝ってもおかしくないこの戦い! それでは始めましょう! ――両者、構え…………開始!!!』


 身体強化を発動し、『晶弾』を4発放つ。

 そして、『晶装』で両手に手甲ガントレット、両足に足甲グリーブ、胸を守る防具(名前忘れた)を作った。

 これで防御においては心配ない。


 ターバが剣を2回振るうだけで『晶弾』はすべて消えた。

 武器は新しい……新品のものが与えられている。もちろん、オレにも。


 芯に魔鉱が使われているらしい。

 つまり、魔力親和性は十分ということだ。これまで以上の本気が出せる。

 正真正銘、100%の本気だ!


「ライン、これまで通りにいけると思うなよ?」

「んなこと、百も承知だっての。現に、今までここまで防御を固めたことがあったか?」


 武器に魔力を通されると、水晶がこれまで以上に柔らかく感じるだろう。

 厄介だな~~。『晶弾』程度は簡単に破壊されたし。

 『晶拳しょうけん』であれば、破壊はされないだろうけど……。

 ええい! 物は試しだ!


 『晶拳』を3つ生成し、ターバ目掛け飛ばす。この隙に距離を詰めよう・・・・か。




 本来、魔術師や射手アーチャーなどに代表される遠距離攻撃を主体とする者であれば、相手と距離を離すのがベストな選択だ。


 だが、オレは例外だ。


 近距離攻撃も長けているため、水晶魔法と組み合わせることで、攻撃力が倍増する。

 2倍じゃない。相乗だ。


「そうくると思ってたぜ!!」

「――!?」


 読まれていたか……。

 まぁ、隠すつまりは微塵もなかったし、こっちもそれを望んでいるから構わないんだが……。

 一手、潰されたな。

 奇襲の形で、大きい一撃を入れておきたかったんだが。


 左手の剣が振り下ろされる。『晶盾』で耐えきれるか?

 耐えきれるとは思うが……。実験は必要、か。


「ふん!!」

「――『晶盾』」


 半径1メートルほどの円形の盾を、オレと剣の間に作り出した。念の為、棍を構えておく。


 ――ガッ……キィィイン!


 よし! 弾いた!

 剣が当たりそうになったとき、『晶盾』を少し前に出したのだ。盾も武器として扱えるって、どこかの小説で読んだからな。

 知識面において、オレはターバよりも秀でているはずだ。感覚面ではわからないが……。


「なるほど。盾は守るだけじゃないってか」

「そんなことにわざわざ答えねぇ……よ!!」


 がら空きのターバの腹目掛け、突きを繰り出す。

 もちろん、両手に持った剣から目は離さない。離したら、そのときこそ痛い目を見ることになる。


「うおっとと……」


 ぎりぎりのところで、半身で避けられてしまった。

 そしてそのまま迫ってくる。


 だが、オレがそんなことで負けるはずがない!


「ぬおっっ!!」


 棍を両手で、ターバ目掛けて薙ぐ。ほぼ0距離だが、先ほどのザイン・ハーバーとの戦いで成功したんだ。今回もできるはずだ。


 そして……成功したが、同時に顔に一太刀もらってしまった。

 幸い、傷はかなり浅い。眉の上辺りだ。


 そして、そこで攻撃をやめるほどオレは愚かじゃない。『晶弾・機関』でターバを狙う。


 ――勢いよく、数えたくなくなるほどの数の『晶弾』が、雨のようにターバに降り注ぐ。


「うおっっ。情け容赦の欠片もないな!」


 なんて泣き言は言っちゃいるが、剣の柄同士を重ね、回転させることでほとんどの『晶弾』を防いでいる。

 ま、足止め・・・は完了、か……。


 オレはこれまでの試合では、『晶弾』しか使っていない。

 もちろん、ターバ相手には『晶盾』、『晶壁』も使ったが。あ、あと『晶拳』もか。『晶弓しょうきゅう』もばれてはいるが……。


 ――そう、オレは『晶棘しょうきょく』を披露していないのだ。

 入学したての交友の場では使ったが。

 逆に言えば、それだけだ。


「お前相手に情けが必要なのか、一度議論を交わしたいところだね」

「まあ、いつか……な」


 ここで『晶弾・機関』をやめ、次に移る。

 オレの武器創造系は知られていないはずだ。ちょっと考えれば、それぐらいできるだろうと思われるかもしれないが。


「「――おおぉぉぉおおおおお!!」」


 オレたちは、さっきまでいた地点のちょうど真ん中でぶつかる。


 オレはすでに、半径およそ1メートルの『晶盾』を展開している。


 そして、互いに武器に魔力を込めている。

 その戦いは、未だ冒険者になっていない学生……それも、1年生が繰り広げていい戦いではない……と、外野の皆さんは言いたげだ。


 オレとターバ。

 もうすでに、金級の冒険者に引けを取らない実力レベルに達していた。


 中には、年齢偽証を疑う者もいるだろう。

 だが、(少なくとも)オレは本当に1年生で、15歳(ターバは(本人曰く)誕生日を迎えたため、16歳)だ。






 2人は【魔導師】、近衛騎士団団長級に到達するのも、時間の問題。


 逆に、この2人も異常だったのだが、ラインとターバはそれを超える異常さだった――――


 


 

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